
日本学術会議の入る建物。(東京・六本木)

向かって右から、清水さん、野田さん、澤藤さん、隠岐さん。(1月21日、参院議員会館)
(社会新報2月13日号1面より)
日本学術会議(メモ)の法人化に反対する学者や弁護士ら143人が1月21日、政府と同会議が法人化のために行なっている協議を中止するよう求める連名の要請書を、石破首相と同会議会長らに送付した。
同日、呼びかけ人の野田隆三郎さん(岡山大学名誉教授/数学)・清水雅彦さん(日本体育大学教授/憲法学)・澤藤統一郎弁護士と賛同者の隠岐さや香さん(東京大学教授/科学史・科学技術論)が、東京・千代田区内で記者会見を行なった。
政府は学術を統制?
学術会議問題の発端は、2020年10月に当時の菅義偉首相が同会議の会員候補6人の任命を拒否したことにある。
その後、政府は「学術会議の改革」に論点を移し、23年8月には内閣府に「日本学術会議の在り方に関する有識者懇談会」を設け、学術会議の法人化に向けた検討を進めた。
昨年12月20日、同懇談会は最終報告書を公表。報告書は、学術会議が政府の機関から外れて法人になることとともに、①首相が任命する監事の法定化②大臣任命の評価委員会の法定化③中期目標と中期計画の法定化④現在の会員選考制度の変更の法定化⑤外部者らで構成される(会員)選考助言委員会の設置の法定化 などを求めている。
学術会議はこの2日後に臨時総会を開き、有識者懇談会が求める法人化の方針に対して、一部留保しつつも大筋で容認する姿勢を示した。
法人化に向けた協議で妥結すれば、閣議決定を経て、今通常国会で法制化されることもあり得る。
権力のブレーキ役
要請書はこうした状況に懸念を示し、「政府が誤った方向(略)に向かおうとしたとき、それを抑制することが学問の使命」として、学術会議の独立の意義を訴えた。
野田さんは会見で、「学術会議は今、(本来あるべき方向とは)正反対に進むのを手伝っている。国民に対する背信行為だ」と批判。
また、政府が産業界と学術界を巻き込む形で防衛・軍事産業分野の開発促進をもくろむ動きを踏まえ、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ころうとしている。今こそ学問の本来の使命を果たさなければならない」と訴えた。
澤藤弁護士も「権力の暴走」の動きに懸念を示し、学術会議が国の機関であることの意義を強調した。
その上で、「権力にはアクセルだけでなくブレーキも必要で、さらに羅針盤も必要だ。だからこそ、権力内部にある学術会議の存在が重要だ」と訴えた。
さらに、「国による学術会議への攻撃は暴走を始めた国の姿勢を示すもの」として、「独立した学術会議を作るという口実で、国は学問と研究者を政府の支配下に置こうと画策している」と語った。
任命拒否の解決が先
清水さんは、問題の発端となった20年の任命拒否問題が解決していないことを指摘し、「任命拒否を撤回して6人が任命されない限り、先に進めてはいけない問題だ。この任命拒否は、政府に批判的な者を任命せず、萎縮効果をもたらす行為だ」と批判した。
さらに、学術会議への政府の介入は憲法23条がうたう「学問の自由の保障」を侵害するものだとして、「許されないことだ」と批判。
隠岐さんは、懇談会の報告書について「これまでより前進した部分もある」と一定の評価をした上で、懸念する部分として、会員の総入れ替えが可能となる内容、欧米のアカデミー(教育・研究機関)にはない監視的な機構の複数設置、「中期的な活動方針」に対する評価・監査という設計の不透明性ーーを挙げた。
また、法人化の審議の進め方について、性急かつ不透明な意思決定プロセスに懸念を示した。
こうした諸点を踏まえ、隠岐さんは「政府と学術会議執行部の協議は、いったん止めたほうがいい」と問題提起した。
【日本学術会議】1949年に発足した科学者組織。「学者の国会」ともいわれる。首相所轄の下、政府から独立して職務を行なう「特別の機関」。210人(定員)の会員の他、約2000人の連携会員で構成される。主な役割は、政府に対する政策提言や科学者間のネットワーク構築など。会員の半数は3年ごとに入れ替わる。任期は6年だが、定年は70歳。会員は非常勤の国家公務員。給料はなく、手当や旅費のみが支払われる。