「法の支配」が危機に直面している。
トランプ米政権が8月18日、国際刑事裁判所(ICC)の赤根智子所長を制裁対象に加えた。米政権は米兵の戦争犯罪捜査などをめぐりICCを敵視し、ICC自体の解体も視野に入れて圧力を強めている。
赤根所長は同月26日、日本記者クラブ主催のオンライン記者会見で、「ICCは決して負けません。正義は常にこれと対極にあるものに優越する。いや、優越しなければならない。その信念を貫きます」と活動継続への決意を語った。
そして赤根所長は、ICCが重大な国際犯罪の被害者にとって「最後の希望」であり、制裁は「法の支配の危機」と訴えた。
ICCとは、戦争犯罪や人道に対する罪などを犯した個人を国際法に基づいて訴追・処罰する常設の裁判所である。本部をオランダのハーグに置き、2002年に設立された。現在、125の国・地域が加盟。日本は07年に加盟したが、米国、ロシア、イスラエル、中国などは加盟していない。赤根氏は24年から日本人初の所長に就いている。
ICCが対象とする犯罪は、①集団殺りく(ジェノサイド)②人道に対する犯罪③戦争犯罪④侵略犯罪、の4つ。制裁を指定されると、米国への入国が禁じられ、米国内の資産も凍結される。ICCの裁判官18人のうち赤根氏を含む半数が制裁の対象となった。
ICCは、近年、ウクライナを侵略したロシアのプーチン大統領、パレスチナ自治区ガザで虐殺を続けるイスラエルのネタニヤフ首相に逮捕状を出している。
一方、高市首相は赤根氏への制裁発動直後、「大変残念だ」と述べるにとどめた。消極的な姿勢に批判が高まると、「日本の立場と相いれない。深刻に受け止めている」と、やや発言を強めたが、具体的な対応策を語らず。欧州諸国や国連が即座に赤根氏との連帯を表明し、明確に米国を批判したのとは対照的だ。
国際人権NGOや赤根所長の教え子らが共同で立ち上げた、制裁の撤回を求めるオンライン署名は、10日時点で16万2000筆以上が集まっている。
今、首相に求められるのは、「法の支配」と赤根所長を守る明確なメッセージを発信し、外交交渉に臨むことだ。
社民党の福島みずほ党首はこの間の会見でも制裁を「国際秩序を揺るがす暴挙」と厳しく批判し、制裁撤回を強く求めている。