社会新報

「台湾有事」参戦回避の道は ~ 共同通信編集委員・石井暁さんが院内で講演

講演する石井暁さん。(5月2日、衆院第一議員会館)

 

(2025年6月5日号より)

 

 共同通信社編集委員で立命館大学客員教授の石井暁さんを招いた講演会が5月2日、衆院第一議員会館で開催され、約100人が参加した。「沖縄問題を考える会」が主催した。
 石井さんは陸上自衛隊の秘密情報部隊「別班」の存在を暴露したスクープ記者として知られる。
 講演タイトルは、「『戦争ができる国』から『戦争をする国』へ『台湾有事』に突き進む日米同盟」。米軍幹部らによる「習近平主席が3期目の任期満了を迎える2027年までに中国が台湾に侵攻する可能性がある」との情報が定説化する中、「台湾有事」への日本参戦を回避できるのかなどを論じた。
 藤田高景実行委員長の主催者代表あいさつに続き、沖縄平和運動センター前議長で参院選社民党比例代表予定候補の山城ひろじさんが連帯のあいさつをした。
 石井さんは初めに、中国と台湾の緊張関係を概観した。ペロシ米下院議長が訪台した2022年に、中国の習近平国家主席が「武力行使放棄を約束しない」と明言し、波紋を広げたことや、24年に蔡英文氏に代わり頼清徳氏が台湾総統に就任して「一つの中国」否定の演説をしたこと、頼総統の演説のたびに中国軍が台湾周辺で軍事演習を続けたことなどを振り返り、「頼総統は独立とまでは言わないが、ぎりぎりの発言を続けている」と表現した。
 さらに日中間の軍事的な緊張についても整理。24年8月、中国の情報収集機が長崎県沖で日本領空を初めて侵犯したこと、同年9月25日に中国が大陸間弾道ミサイルを44年ぶりに太平洋公海に発射したこと、同日に意趣返しとして、岸田文雄首相の決断により海自護衛艦「さざなみ」が日本の艦艇として初めて台湾海峡を通過したことなどを振り返り、「日中間の軍事的緊張は高まっている」と指摘した。

「戦争する国」に変貌

 次に、参戦の可能性と国内法の関係について述べた。安倍政権が15年に強行成立させた安保関連法により、内閣が存立危機事態と認定すれば集団的自衛権の行使が可能になったことを踏まえて、「『台湾有事』への参戦が法的に可能となり、戦争が『できる』国に変わった。さらに22年、岸田内閣が敵基地攻撃能力を明記した安保3文書を閣議決定したことで、『戦争をする国』になってしまった」と解説した。
 「台湾有事」の日米共同作戦計画とは何か。石井さんは自らが執筆した『共同通信』21年12月24日付のスクープ記事を紹介した。
 作戦計画の最大のポイントは海兵隊が新編成する「遠征前方基地作戦」(EABO)と自衛隊との一体化。EABOとは、海兵隊が沖縄県・先島諸島の島々を分散して移動しながら対艦ミサイルで中国艦隊を攻撃するというもの。EABOの作戦拠点には対艦攻撃ができる海兵隊の高機動ロケット砲システム「ハイマース」を配置する。
 この作戦計画が実行されれば、当然、先島諸島の住民が戦闘に巻き込まれる。そのため、政府は今年3月27日、宮古や八重山など先島諸島の住民を九州7県と山口県の8県に避難させる計画を公表した。最大12万人を6日間で退避させる計画だ。石井さんは「なぜ先島諸島の住民だけが島外に避難するのか。沖縄本島の住民117万人は屋内避難だという。全く合理性がない」と批判した。

戦争回避のヒント

 「台湾有事」への参戦を回避する方法はあるのだろうか。石井さんは、3つのヒントを指摘した。
 第1に、「一つの中国」に立ち戻れば日米は参戦ができないとの考え方だという。石井さんは、1972年に田中角栄首相と周恩来首相が調印した日中共同声明で台湾を中国の一部とする「一つの中国」で合意し、これを基本に現在の日中外交があることや、米国も72年にニクソン大統領と毛沢東主席が会談し、「ワン・チャイナ」を明記した上海コミュニケを発表したことなど、歴史的経緯を説明した。
 第2に、日米安保条約6条の「事前協議制」を活用することだという。「米軍の戦闘作戦のための基地使用に対して日本政府が拒めば、米軍は出撃ができなくなる」。
 第3に、安保関連法が定める内閣の「事態認定」には、緊急を要する場合以外は国会承認が必要であり、選挙で戦争反対の議員を増やせば国会承認を阻止できるという考え方だ。
 石井さんは「この3つ以外にも戦争回避のヒントはまだある」として、憲法の平和思想をどう活(い)かすのか、国会で大いに議論すべきだと語った。