社会新報

医療・介護現場で増えるカスハラ被害

 

看護師77%が離職を検討
カスハラ率が平均の3倍

 医療を受けている患者や介護利用者、あるいはその家族からの過剰な要求や不適切な言動、いわゆるカスタマー・ハラスメント(カスハラ)が、医療・介護現場で深刻化している。厚生労働省の調査によると、医療・福祉業界は他業界と比べて相談件数が多く、特に訪問型や居宅系サービスでは顧客と密室で接する環境となるため、発生率が高くなっているといわれている。
 最近、有名な俳優が高速道路で事故を起こした後、搬送された病院で看護師に暴行して負傷させたとして、傷害の疑いで逮捕された事件があったが、これを受けて患者やその家族から医療従事者に対して行なわれるペイハラ(ペイシェント・ハラスメント)に、あらためて注目が集まっている。

低賃金にも悩む

   いま医療現場で看護師が不足、その影響で病棟の閉鎖や病院の閉院が相次いでいる。
 かつて「白衣の天使」とも呼ばれ、憧れの職業だった看護師。しかし今は、長時間労働とそれに見合わない低賃金、そしてカスハラなどの理由から、苦しい環境に置かれている。全日本自治団体労働組合(自治労)は今年3月5日、自治労加盟の公立・公的医療機関の看護師ら医療従事者を対象に行なったアンケート結果を発表した。
 現在の職場を辞めたいと思うか聞いたところ、77%が離職を検討していることが分かったほか、収入への不満やカスハラの有無によって離職を検討している割合が高くなる傾向も明らかになった。自治労副中央執行委員長の山崎幸治さんは「非常に厳しい職場環境の実態が浮き彫りになった。このままでは地域の公立・公的医療機関の存続すら危ぶまれる」と指摘した。

行政は対策を

   今年2月22日、私がかつて所属していたヘルスケア労協が、UAゼンセンと共に「患者・利用者・家族からのカスタマーハラスメントに関するシンポジウム」を開催。医療・介護現場で深刻化するハラスメントの実態やカスハラ対策の必要性について議論を交わし、業界団体やメディア関係者など70人以上が参加した。
 特に介護職場のカスハラは相当厳しく、退職者・離職者が後を絶たない。無視できない深刻な問題だ。慢性的な人手不足に悩む介護事業所にとっては、職員の離職は死活問題。職員の離職や、職員がカスハラへの対応に時間を割かれることで、他の利用者に対して本来提供すべきサービスが十分に実施できないなどの問題も起きている。
 介護現場での利用者からのカスハラは、①身体的暴力②精神的暴力③セクシュアルハラスメント  の3つに分けられる。
 2023年度の厚生労働省調査では、労働者全体のカスハラ率が10・8%だったのに対し、介護業界は約3倍以上。利用者である高齢者らの暴言を浴びる被害が目立ち、介護業界は行政による対策が必要だとしている。
(日赤労組元執行委員長・村山正栄)