(6月19日号より)
5年に1度見直される年金改革関連法が、6月13日、参院で自民党、公明党、立憲民主党などの賛成多数で成立した。審議時間が大幅に不足し、法案の内容に対する誤解や年金制度の改変などにより市民の間に多大な混乱が起きている。
市民社会から最も危惧されている改正内容が「遺族年金」の見直しだ。遺族年金には「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2種類が存在し、問題となっているのは後者の「遺族厚生年金」だ。法改正により、夫婦ともに相手が60歳未満で亡くなった場合は、原則5年の有期給付となる。
ただし、すぐさま有期給付となるわけではない。男性は2028年4月から実施され、女性は同月より20年かけて段階的に実施される。厚労省の説明では、改正前から給付されている方や、改正時に40歳以上の女性などは現行のままだ。とはいえ現役世代は多大な影響を被る。今回の見直しの理由は、女性の社会進出が進み、昭和時代の男性稼ぎモデルを前提とした「遺族厚生年金制度」の男女差を解消するためだ。理由は理解できなくもないが、女性の約7割が非正規雇用で、男女の賃金格差が一向に是正されていないにもかかわらず、制度だけは男女平等を早急に整備しようとするのは理不尽だ。
注目されていた基礎年金の底上げは先送りとなった。一応、2029年の財政検証を踏まえた底上げ措置が付則に盛り込まれたが、特に必要である氷河期世代の年金受給までに制度を確立できるのだろうか。
ここまでは悪い面ばかりが目立つ今回の改正だが、他方で充実する面もある。
まず、社保の加入要件緩和だ。最終的には学生以外の短時間労働者は、週20時間以上労働すれば社保に加入できるようになる。社保加入拡大は、厚生年金受給など労働者の社会保障充実につながる。また、在職老齢年金制度の老齢厚生年金の支給停止基準額が引き上げられる。これにより働き控えを抑制できる。
ただし、老齢厚生年金の支給拡大は将来的に受給する現役世代の年金支給水準を低下させる。社保要件の緩和に伴う新規加入者の負担軽減策は他者の保険料で補填(ほてん)される。
以上のように、年金の充実で恩恵を受ける人がいる一方で、将来も含めて誰かの負担が増えたり給付が減ったりする。だからこそ、年金改革関連法の審議には時間をかけて、全世代が議論すべきなのだ。