年金制度改革法案、先送りか ~ 問われる低年金者対策

石倉直樹さんの作品。「あんた棚上げする気?」
(社会新報3月20日号)
年金制度改革法案の参院選後への先送りが濃厚となった。昨年12月に厚生年金の積立金による基礎年金の底上げや厚生年金加入の年収要件緩和などを柱とした厚生労働省案が提示されたが、自民党が将来の負担増などの批判を恐れたためと見られる。基礎年金の底上げも厚生年金加入の年収要件緩和も重要な問題だ。「100年安心」を豪語した年金制度改革から20年、ほころびが目立ち、行き詰まりを見せている。
2024年は5年に1度の年金制度の財政検証を行なう年に当たっている。そこで厚労省は詳細な財政検証を行ない、昨年12月、制度改正に向けた概略を公表した。
年金制度改革関連法案のポイントとして上げられたのは、①厚生年金の積立金を使い基礎年金の底上げをはかる②パート労働者の厚生年金加入要件の緩和③高所得者の保険料の引き上げ④働く高齢者の給付を拡充ーーなどであった。
基礎年金の給付底上げ
最大の目玉は、①の基礎年金の給付水準の底上げ。日本の年金制度は2階建てで1階の基礎年金と2階の厚生年金に分かれている。基礎年金は自営業者や非正規雇用の労働者などが加入する国民年金と一体化しており、基礎年金と厚生年金の財政は、別々の勘定で管理運用されている。
小泉政権下の2004年に実施された年金制度改革では、高齢者の年金受給額を抑えることで制度の持続性を確保する「マクロ経済スライド」が導入された。その後、就労者の増加に伴い厚生年金の加入者が増えたことで財政は比較的安定、厚生年金部分では26年度にも「マクロ経済スライド」の適用を終了できる見通しとなった。
一方、基礎年金部分では、自営業者や非正規雇用者を中心とする国民年金加入者の所得の伸び悩みが影響し、減額調整が長期化。「マクロ経済スライド」の適用は今後も続き、57年度には給付水準が現在より約30%減少する見通しとなっている。これにより、国民年金のみを受給する人や低年金受給者への影響が深刻化するため、早急な対策が求められていた。
そこで、厚生年金の積立金の一部を使い基礎年金の底上げをはかろうとしたのだが、「サラリーマンの年金財源を自営業者の財源に回すのはおかしい」という誤解による批判だけでなく、基礎年金底上げで国の負担分も増えるため、将来増税の可能性があるといった批判が出てきたことで、与党内に異論が続出した。
基礎年金の受給者の約9割は厚生年金の加入者であるため、基礎年金の給付水準が改善されれば、厚生年金受給者も恩恵を受ける。特に、厚生年金の加入期間が短い「就職氷河期世代」などの低年金化を防ぐ意味もある。
底上げと国庫負担の増
この措置は同時に国庫負担が増える可能性がある。というのは基礎年金の半分を国が賄うことになっているため、底上げされると国庫負担も追加投入が必要となるからだ。厚労省の試算によれば経済成長の横ばいが続いた場合、57年度の国庫負担は2・5兆円に上るとされる。
②の厚生年金加入要件の緩和は、現行の要件は従業員51人以上の企業で、月額賃金が8万8000円以上、週20時間以上働く人となっている。このうち企業規模要件と賃金要件を撤廃するものだが修正の動きも出ている。
③の厚生年金の保険料の上限は月額65万円に設定されているため、65万円を超えても保険料は一定額にとどまる。この上限を段階的に引き上げ、最終的に75万円まで引き上げる。④は、働く高齢者は現行制度では年金と賃金合わせて50万円を超えると年金の受給額が減額される。これを65万円まで引き上げ、高齢者の就労を後押しするというものだ。
基礎年金は、現在は40年加入の満額で月6・8万円。基礎年金の底上げをはかり、低所得者の給付をより手厚くすることは必要で最優先の課題だ。そのためにも財源を確保し国庫負担増も射程に入れて考える必要がある。
制度の根本的な議論を
このほか、第3号被保険者制度についても、連合だけでなく経団連なども廃止を提言しているにもかかわらず、依然として存続。また、年金制度のあり方を見直す上で、世帯単位から欧州諸国のように個人単位へと転換する議論は欠かせないはずだが、置き去りにされたままだ。問われているのは年金制度のあり方そのものではないだろうか。