【主張】大川原化工機冤罪事件 ~「経済安保」違法捜査の徹底検証を
(6月12日号より)
公安警察と検察の暴走による前代未聞の人権侵害事件だった。
化学機械メーカー「大川原化工機」のえん罪事件をめぐる民事裁判の控訴審で、東京高裁は5月28日、一審に続き、警視庁公安部と東京地検の捜査を違法と判断し、国と都に一審判決の賠償額を約400万円増額し、計約1億6600万円の支払いを命じた。大川原正明社長らの請求が二審でも認められた。
判決は、公安部の判断に「基本的な問題があった」と厳しく指摘し、「逮捕には合理的根拠が欠けている」と判断した。地検の起訴を「通常要求される捜査をすれば同社の噴霧乾燥機が規制対象に当たらない証拠を得ることができた」として違法と批判した。国と都は、最高裁に上告すべきではない。
大川原化工機事件はなぜ起きたのか。同社は横浜市に本社を置く従業員90人程度の化学機械メーカー。製作する噴霧乾燥機は国内シェア7割を占める。年間売り上げ約30億円規模が、不当捜査に加えコロナウイルス感染拡大も相まって激減した。
不当捜査が始まったのが2017年。18年10月に初めて家宅捜索。大川原社長に40回もの事情聴取、専務や営業担当役員も含めて任意の事情聴取は実に260回に及んだ。ついには20年3月、社長ら3人が逮捕された。容疑は、生物兵器の製造にも転用可能な噴霧乾燥機を経産省の許可もなく中国に不正輸出したという外為法違反。公安部は、噴霧乾燥器の輸出には中国の軍需産業が関連しているとの我田引水の構図を描いたが、実際にはそうした背景はなかった。
初公判を目前に控えた21年7月、東京地検は異例の起訴取り消しを決定した。追加実験などで生物兵器に転用できないことがわかり、立証は困難と判断したとされる。民事裁判では複数の捜査員から「(事件は)ねつ造」「決定権を持つ人の欲でしょう」と上層部を批判する証言が飛び出し、異例の展開となった。
2020年の立件当時、安倍晋三政権は先端技術分野などでの事実上の中国包囲網である経済安保法成立(22年)の準備段階で、捜査の背景に政権へのおもねりと経済安保捜査の先取りの狙いが透けて見える。
社長ら3人は長期勾留され、元顧問は勾留中にガンが発見され、保釈請求を続けたが却下され、体調が悪化し、亡くなった。否認すれば身柄拘束を続ける「人質司法」を容認した裁判官の責任は重大だ。
警視庁公安部と東京地検の違法捜査と裁判所の問題について、第三者機関による徹底検証が不可欠だ。