社会新報

【主張】再審法制度の見直し ~ 推定無罪の原則の徹底を

(社会新報3月13日号の主張より)

 1979年に鹿児島県大崎町で男性の遺体が見つかった「大崎事件」の第4次再審請求を、最高裁が退けた。3次の請求審で3度の再審開始決定が出される中で、理解に苦しむ判断だ。
 原口アヤ子さんは無実を訴えながら服役し(懲役10年)、97歳になってなお、再審を求め続けている。
 昨年、1966年の清水市(現静岡市)一家4人殺害事件で死刑判決が確定していた袴田巌さんが再審無罪となり、「開かずの扉」と言わる再審制度の見直しの議論が高まっていることに、水を差そうとしているようにも見える。
 「百人の罪人を放免するとも一人の無辜(むこ)の民を刑するなかれ」という「推定無罪の原則」は、刑事裁判における最も重要な原則だ。実際の捜査では、容疑を逃れようとウソをつく人も多いだろうし、十分な証拠が得られない場合もあるだろう。被疑者を特定し法の裁きを受けさせるための捜査当局の苦労も理解できる。しかしその正義感が暴走すれば、一方的に怪しいとした人を拘束して、威圧的に取り調べ、「自白」に追い込む「えん罪被害」が容易に起こりうることを肝に免じてほしい。再審のハードルは低くすべきだ。
 袴田さん以外にも、免田事件の免田栄さん、財田川事件の谷口繁義さん、松山事件の斎藤幸夫さん、島田事件の赤堀政夫さんら5人の死刑確定者が再審で無罪となった。無罪を主張して再審手続き中だったのに死刑が執行された飯塚事件の久間三千年さんの例もある。再審制度がいつまでも「開かずの扉」のままでよいはずはない。
 2月末には「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」が今国会中に議員立法として再審法改正をはかる方針を固めた。その内容は、①再審請求審における証拠の開示命令②再審開始決定に対する検察官の不服申し立ての禁止③再審請求審等における裁判官の除斥と忌避④再審請求審における手続規定の整備  など緊急性の高い4項目を盛り込んだ。
 鈴木馨祐法相も再審制度の見直しを法制審議会に諮問する方針を表明している。議員連盟案の4項目以外にも、再審開始事由の拡大、国選弁護制度、審理の公開や刑の執行停止など、幅広い議論を行なう必要があるが、法制審で検討するには年単位の時間がかかる。冤罪被害者の救済のためには、議連の改正案をまず実現した上で法制審の議論を行なうべきだ。