社会新報

レバノン取材(ジャーナリストの志葉玲さんが本紙に寄稿) イスラエル軍、病院も空爆

負傷者を搬送中に空爆で亡くなったフセインさんの墓と、フセインさんの叔父のハリールさん。(レバノン南部のスール市)

空爆でがれきの山となったレバノン南部のスール市中心部。

 

トランプ大統領は11月の米中間選後もイランとの戦争を継続すると表明し、泥沼化している。戦争が長期化した大きな原因の一つが、イスラエルがイラン側の停戦条件を無視してレバノンを攻撃し続けていることだ。ジャーナリストの志葉玲さん(50)は今年6月にレバノン現地を取材。その報告を今回、本紙に寄稿した。
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今年2月末の米国とイスラエルによるイランへの先制攻撃に対し、イランから支援を受けるレバノンの政党/武装勢力のヒズボラは、ロケット弾発射などイスラエルへの攻撃を行なった。これに対し、イスラエルは民間人を巻き込んだ過剰な攻撃を続けている。今年6月1日、レバノン南部スールでは、国際NGO「国境なき医師団」が支援するジャバル・アメル病院の近辺が空爆を受け、4人が死亡、病院スタッフ39人を含む127人が負傷。病院の建物も損壊した。当時勤務していた職員の男性は「爆発音がものすごかった」と振り返る。「ガザ攻撃の悲惨さを報道で見ていましたが、私たちも同じ状況となりました」。この攻撃の前日にも近くのヒラム病院が攻撃され、赤十字病院の救急隊員も空爆で殺害されるなど、医療活動そのものが標的になっていることをうかがわせる。

救急車を次々に破壊

負傷者の救護や消火活動を行なうボランティア組織「レバノン民間防衛隊」もターゲットとされている。同団体のイサーク・カマルさん(36)は、負傷者を搬送中の同僚が直接攻撃を受けたと語る。「私たちの活動は人命救助であり、国際人道法で保護されるべきものです。しかしイスラエル軍は救急車も標的にします」。同団体の救急車は次々と破壊され、無残な姿をさらしていた。イサークさんによれば、今年2月末から約150人の救急隊員が負傷し、約50人が死亡しているのだという。フセイン・ムハンマド・ガドブーニーさん(23)もその中の一人だ。今年5月18日、空爆の被害者たちを救急搬送しようと現場に向かった時に彼自身も空爆され死亡した。フセインさんの墓の前で、叔父のハリールさん(63)は「おいは勇敢でした。負傷者を置いて逃げず、殉教者となりました」と声を震わせた。「私はおいを、息子のように思っていました。今も泣いています。スールは頻繁に空爆されるので、おいの母親は墓参りすらできません」。

市街地はがれきの山

民家への空爆被害も深刻だ。自宅への空爆で背中に大やけどを負い入院した4歳の少女ザイナブ・ターレブちゃんは、一命は取りとめたものの、母親も負傷し共に入院している。付き添う親族の男性スレイマン・ターレブさん(42)によると、今年5月26日、スール近郊マアラカ村への空爆でザイナブちゃんは父親と9歳の兄を亡くしたのだという。「私も母と姉を失い、兄弟の妻と、その2人の娘も殺されてしまいました」。スール市街地も高層住宅がいくつも倒壊し、がれきの山となっていた。破壊された自宅から残った家財を回収に来たという女性(34)は、「相次ぐ空爆で損壊した家を3回直しましたが、結局、全壊となりました」と嘆く。

医療や物資足りない

イスラエル軍の激しい空爆や地上侵攻から逃れ、レバノンでは100万人以上が避難生活を余儀なくされた。首都ベイルートでも公立学校やサッカースタジアム等が避難民キャンプとなった。避難民の多くが親しい人々を亡くし、十分な支援を受けられずに困窮している。イスラエルとの境界に近い南部の村マイス・アル・ジャバルから避難してきたジャアド・アシュールさん(59)は、筆者に身近な友人・親族のうち約12人が死亡したと明かす。南部ホラ村出身のムハンマド・ヤシン・フーレさん(61)も、彼自身の親族含め村で45人が犠牲になったが、状況が落ち着かず正式な埋葬すらできていないと語った。
匿名希望の60歳の女性は、病人や高齢者が多いにもかかわらず十分な医療や物資が届かない現状を訴えた。糖尿病を患い、毎日インスリン注射が必要だという女性は「お金が尽きた。インスリンが切れたらどうなるのでしょうか」と不安を口にする。4人の子を連れて逃げてきた女性(33)は「2歳の娘は爆撃のトラウマで湿疹と失禁の症状が出ている」と明かし、「子どもたちは3月から学校に通えていません。オンライン授業もあるみたいだけど、避難所では電気も不足していますし、私たちはスマホやタブレットも持っていないのです」と嘆いた。
「停戦合意」にもかかわらず攻撃が続く背景には、イスラエル国内の強硬な世論がある。現地世論調査(2026年6月)では、56%が「イランとの衝突リスクがあってもヒズボラへの軍事行動を続けるべきだ」と回答しているのだ。だが、レバノン攻撃は、人道上や国際法上の問題に加え、原油供給が滞るなど、世界経済全体への悪影響がある。日本も含む国際社会はイスラエルの暴走を止めるため、断固たる対応を取るべきだろう。

 

スール市近郊をイスラエル軍が空爆し、黒煙が上がった。

イスラエル軍の攻撃で破壊された救急車が並べられている。(イラン国内)