社会新報

【主張】高額療養費制度の改悪 ~ 働き盛りの現役世代を狙い撃ち

(社会新報2月20日号3面より)

 

 命の選別が始まるのか。厚生労働省は、「高額療養費制度」の月当たりの上限額を今年8月から2027年8月にかけて段階的に引き上げていくことを決めた。
 その目的は、高齢化や高額薬剤の普及等により高額療養費は年々増加しており、現役世代を中心とした保険料が増加してきたため、セーフティネットとしての高額療養費の役割を維持しつつ、全ての世代の被保険者の保険料負担の軽減を図ることだという。そして負担能力に応じた制度設計のため、各所得区分ごとの自己負担限度額を引き上げ、住民税非課税区分を除く各所得区分の細分化を実施するとのことだ。
 目的からは、保険料負担が増加している現役世代の負担を軽減するかのように読み取れる。しかしながら実態は現役世代の負担がさらに増加する内容である。
 具体的な引き上げ額は、例えば年収700万円の場合、現行の高額療養費の月当たりの上限額は80100円+1%である。27年8月になると138600円+1%と、現行より5万円以上も引き上げられる。
 現役世代の負担軽減と銘打っているが、実態は働き盛りの現役世代が狙い撃ちされているのだ。この改悪によって削減される医療費は厚労省の試算で5330億円であり、そのうち2270億円は患者の受診抑制を見込んでいる。厚労省は、患者が治療を諦めることを織り込んでいるのだ。
 こんな非道な制度改悪を許してはならない。高額療養費制度を利用する患者は、治療を継続することで延命している人たちなのだ。治療を諦めることは、すなわち死を選ぶことだ。
 さらに、高額療養費制度の改悪で最も大打撃を受けるのは、中小零細企業が中心の協会けんぽに加盟している現役世代である。なぜなら、国家公務員らの共済組合等には「付加給付」があるためだ。
 先ほどの年収700万円のケースで共済組合へ加盟している場合、現行の「付加給付」が維持されるのならば、27年8月以降も1月5万円が上限額だ。協会けんぽの場合、「付加給付」が無いため13万8600円+1%である。職場によって健康格差が深刻化する。
 今回の改悪は、私たちに命の選別を迫るものだ。当事者を中心に抗議が活発化しており、厚労省は修正を迫られたが、修正案も当事者から強い反発を受けている。患者に生きることを諦めさせる高額療養費制度の改悪を撤回するべきだ。