社会新報

立憲デモクラシーの会のシンポで元外交官の田中均さんが講演 ~ 反中国ナショナリズムに警鐘 ~ 米国追随ではなく創造的外交を

多くの聴衆の前で講演する田中均さん。(6月6日、東京・新宿区の早稲田大学)

左から山口二郎さん、中野晃一さん、畠山澄子さん、加藤陽子さん、長谷部恭男さん。

 

立憲デモクラシーの会が主催するシンポジウム「私たちはいま、どんな世界に生きているのか」が6月6日に東京・新宿区の早稲田大学で行なわれ、約150人が参加した。

ポピュリズムの悪弊

第1部で、元外務省外務審議官で日本総合研究所・国際戦略研究所特別顧問の田中均さんが講演した。
田中さんは、第2次世界大戦後に民主主義や国際法の重視など普遍的価値の先導国として役割を果たした米国が、トランプ政権発足後にそうした価値に背を向ける現状を指摘し、日本政府が米国に対し「力による現状変更はいけない」「法の支配は重要」と言わないことに懸念を示した。
また、ポピュリズムが世界的に広まる中、田中さんは「近年の日本(の政界)はポピュリズムそのものだ」と警鐘を鳴らした。
この日本の特徴として、「短絡的なことによって物事の是非が判断される」「極めて強い反中国ナショナリズム」を挙げ、「この『反中』を政治的に使えば、中国側も当然『反日』を政治的に使う」と危険性を指摘した。

プロフェッショナルを

田中さんは、「私はこれまで(元)官僚として、プロフェッショナリズムを貫徹したいと思ってきた」と胸の内を語った。
その上で、「日本が一定の範囲内で防衛力を整備することが悪いとは思わない」と語りつつ、「悪いのは『抑止力向上』の陰に隠れて『創造的な外交』をしないことだ」と根本問題を指摘した。
日本の政治全般についても、次のように語った。
「『政治=政局』『政治=選挙に勝つこと』になり、プロフェッショナルな意見や行動が軽んじられている。米トランプ政権との関係にしても、もう少し国家と国家の関係を反映させ、追随とか忖度(そんたく)はしないほうがいい。だが、そういうことを外務省の官僚が言えば、即刻左遷されるだろう」
田中さんは、(外務)官僚の目的について、「政治家に気に入られることではなく、正しいと思うこと、国益にかなうことを政策にするために、総理や外務大臣を説得することだ」と自説を述べた。

米の「負の側面」不変

第2部では、田中さんは都合により欠席したが、講演を受けてパネルディスカッションが行なわれた。
上智大学教授(政治学)の中野晃一さんは、田中さんによる「少し前の米国などによる普遍的価値の尊重」という旨の位置付けに疑問を呈し、「実際は二重基準だった」と指摘した。
また、「民主主義は『民衆が声を持つ』ことであり、プロフェッショナルが政策に関与することと矛盾しないのでは」と語った。
ピースボートの畠山澄子さんは、皆で地球一周の船旅をする経験に基づき、「世界は欧米だけではない」という視点を持つことの重要性を指摘した。
東京大学元教授(日本近現代史)の加藤陽子さんは、田中さんが講演の中で「岸田文雄首相(当時)がロシアによるウクライナ全面侵略開始後に『今日のウクライナは明日の東アジアだ』と述べた」と紹介したことを受け、「一つ戦闘が起きると、さまざまなプロパガンダを提供する人が出てくる」として、1930年代の日本の実例をいくつか挙げた。

市民の声の掘り下げを

早稲田大学教授(憲法学)の長谷部恭男さんは、改憲について「(個々の)メリットとデメリットの両方を考える必要がある」と語った。
その上で、9条に自衛隊を明記する動きがあることについて、「自衛隊は日本独自の組織なので、『自衛隊を置く』と書くだけでは、どういう組織で、どういう権限を持つかなど、さっぱり分らない」として、否定的な見解を示した。
法政大学教授(政治学)で司会を兼ねた山口二郎さんは、田中さんの言うプロフェッショナリズムとポピュリズムの対比について、「普通の人たちの判断力をどうやって掘り下げるかの議論をしなければいけない」と感想を述べた。