【談話】いわゆる骨太の方針2026の閣議決定を受けて
2026年7月31日
社会民主党全国連合幹事長 ラサール石井
7月21日、高市内閣は「経済財政運営と改革の基本方針2026」(「骨太の方針」)を発表した。社民党は、本方針について、以下の通り懸念を表明する。
第1 軍拡を加速する内容である
本方針第2章第2節「強い外交・安全保障の確立」は、「中国の一層の軍事力強化や北朝鮮の核・ミサイル開発の継続等によって、我が国を取り巻く安全保障環境は加速度的に変化し、複雑かつ深刻になっている」として、安倍政権以降行われてきた軍拡を一層加速させる内容となっている。
まず、我が国の安全保障環境を厳しくしている要因として、「中国」「北朝鮮」といった具体的な国名を挙げること自体が異例である。防衛力の強化自体は、この間の一貫した政府の方針であるが、昨年まで具体的な国を「仮想敵国」かのように名指ししたことはなかった。東アジア地域に一定の緊張が存在することは確かだとしても、特定の国を名指しすることが緊張を一層悪化させるということは明らかである。
本方針は、「外交と防衛を車の両輪として」とも書いているが、「武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」という日本国憲法第9条に真っ向から反する姿勢である。
また、NATO諸国・韓国・豪州等が中長期的に国防費を増額する目標を掲げていることを取り上げ、我が国も防衛費を対GDP比3%以上にすべきと示唆するような記述があること、「安全保障の強化」として、武器製造の国有民営施設や軍事研究・武器輸出のための国の関与を担保した法人の設置を検討することを盛り込んでいることも、軍事費の大規模拡大や戦中の国営工廠の復活への道を開く内容である。
さらに、「情報力の強化」という新たな目が追加された。ここには、日本版CIAと言うべき「対外情報を収集するための有効な組織の在り方について検討を進める」という内容が盛り込まれている他、「認知戦対応」として戦略的な発信を行う旨が書かれている。これは、まさに日本が積極的な諜報・宣伝作戦を行う意思を表明したものである。
外交について、ウクライナ支援・対露制裁の記述はあるものの、国際法違反の先制攻撃や虐殺を行う米国・イスラエルを非難する文言は全くない。昨年の骨太の方針に盛り込まれていたパレスチナ支援が削られたことも看過できない。
第2 経済政策が特定分野に対する投資に偏っている
方針全体を通して、何度も「強い経済」という語が用いられ、まるで特定分野への投資によってあらゆる経済問題が解決すると考えているかの印象を受ける。国家主導の投資の対象とされる「戦略17分野」の中には、防衛産業も含まれており、経済の軍事化を一層進めるものと危惧される。
「戦略17分野」については、「財政単年度主義の弊害を是正し、予算の作り方を根本から改める」としている。しかし、日本国憲法第86条は「内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない」と規定し、財政法第12条及び第42条は会計年度の独立を定めている。国の予算を毎年度の議会で審議することが、予算の民主的統制の基本となっている。仮に複数年度予算が導入されると、かつての政権が作った予算が政権交代を経ても後の政権の財政を拘束し続けることとなってしまう。平和憲法の理念を財政面で裏書保証せんとする財政法の規定に反する財政運営を常態化させてはならない。
当面の経済財政運営から財政健全化の旗を降ろし、基礎的財政収支(PB)は単年度での黒字化を目指さず複数年で管理する、予算の概算要求に際してシーリングを設けないといった、財政規律を無きものにするような方針を発表したことにより、市場では円安や長期金利上昇が進行した。放漫財政による物価高・金利上昇は、人々の暮らしを圧迫するため、財政規律を無視した経済財政運営は避けるべきである。
第3 全産業的な賃上げ支援が後景に退き、労働者の搾取を強化する
2025年の骨太の方針の第2章は「賃上げを起点とした成長型経済の実現」であったところ、本年の方針では「日本の成長力強化と安全・安心の確保」となり、賃上げ支援は後景に退いた印象が否めない。本年の方針の「賃上げ環境整備」の目は、「変革に挑む企業に対し、積極的かつ幅広い支援を行う」「「稼ぐ力」の強化と賃上げの好循環を実現する」等としているが、「稼ぐ力」を持つべく変革を行わない企業には支援を行わないかのようである。
また、「心身の健康維持と従業者の選択を前提に、柔軟で多様な働き方を実現するため、労働時間法制等に係る政策対応について、夏以降の労働政策審議会において議論を行う」との記述もある。これは、裁量労働制の拡大を始め、労働条件の最低基準を定めるという労働基準法による規制に制度的な抜け穴を作ることであり、労働者の搾取の強化に繋がることは明白である。
第4 多様な個人の人権を保障するという視点を欠く
2025年の骨太の方針は、第2章第4節第7項で「「誰一人取り残されない社会」の実現」を掲げ、生活困窮者への支援、子どもの自殺対策、就職氷河期世代等への支援、女性・高齢者の活躍等について、2ページ半の紙幅を割いていたが、本年の方針では「人材総活躍・誰一人取り残されない社会の実現」という目に縮小された。
男女平等・就職氷河期世代支援については、女性や就職氷河期世代を「人材」とみなす視点での記述しかなく、労働市場への参加を望まない、あるいはそれが難しい人々への支援という視点がない。
また、昨年の方針に盛り込まれた性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する施策の推進、障害の社会モデルの考え方に基づく施策の推進への言及もない。AI開発についても、昨年の方針に盛り込まれた「AIの倫理的かつ公平な社会実装に向け、制度設計段階から倫理・多様性の視点を強化し、ジェンダーバイアス防止体制と人材育成を推進する」という記述が削除され、AIの開発・利活用を強化するという面に偏っている。
東日本大震災・能登半島地震への対応に関する記述も大きく減り、特に能登半島地震については、昨年の方針は1ページ近い紙幅を割いていたところ、本年の方針はたった3行に留まっている。高市政権が進める「強い経済」の実現に貢献しない人々や地域は切り捨てられるのではないかとの懸念を抱かざるを得ない。
全体を通して、国家主導の「強い経済」の実現ばかりが前面に押し出され、この社会で暮らす人々の権利や尊厳には目を向けず、「強い経済」に着いてこられない人々・地域は取り残しても良いかのような印象を与える。また、大軍拡によって経済成長しようという発想も、平和憲法を持つ我が国としてあってはならない。社民党は、財政規律を無視した特定分野への巨額投資ではなく、一人一人の労働者・生活者を人間として尊重し、誰一人取り残さない経済財政運営をするよう求めていく。