「二一世紀の医療保険制度〔厚生省案〕」について

一九九七年八月一一日

社会民主党国民生活部会

1、八月七日、厚生省から与党に対して、『二一世紀の医療保険制度(厚生省案)|医療保険及び医療提供体制の抜本的改革の方向|』が提示された。

2、社会民主党としては、このような厚生省案は、到底、容認できない。

3、社会民主党が容認できないとする最大の理由は、以下の通りである。

(1)社会民主党は、医療制度の抜本改革にあたって、『患者本位の医療』を強く主張してきた。

健康保険法等の改正が施行される本年九月までに『医療改革プログラム』を策定することを与党で合意したことは、国民に新たな負担を求める前に、あるべき医療制度改革の姿を国民に示す必要があると考えたからである。

(2)しかるに、厚生省案では、これまでと同様、財政配慮を優先するものとなっている。厚生省案で提示されている制度改革案の多くが、急激な患者の負担増を前提としているが、このような患者の負担増は国民の容認できる限度を逸脱しているといわざるを得ない。

(3)また、第一四〇国会における健保法の改正にあたり、社会民主党が一貫して反対を表明してきた薬剤の別途負担について、本年九月からの施行前に厚生省が廃止を言及していることについては、新制度の導入を前提としているとしても、朝令暮改であり、負担する国民の側を愚弄するものである。

(4)今後は、負担増を先行させる悪しき手法を繰り返すべきではない。単に国民負担を患者負担に置き換えるだけでは、構造改革などではない。

安易に国民に負担を求めるのではなく、いかなる困難を伴おうと既得権益に立ち向かい、国民本位、患者本位の医療構造改革に取り組むべきである。

4、社会民主党は、患者本位の医療改革を実現するため、『患者の権利基本法』の制定によって、インフォームド・コンセントの法制化、保険者の患者代理機能の制度化、苦情処理機関の設置等を図るべきだと考えている。与党で取りまとめる『医療改革プログラム』には、『患者の権利基本法』立法化についての合意が盛り込まれなければならない。

5、薬漬け、検査漬け、社会的入院の温床となっている出来高払い中心の診療報酬体系を見直すこと、不当かつ巨額の薬価差益(一兆三〇〇〇億円)を生んでいる薬価基準制度を廃止すること等については、厚生省案と問題意識が共通する。

しかし、具体的な方策については、なお、検討を要する課題が多い。

6、特に、参照価格制の導入については、厚生省案の参照価格が従前の薬価基準と同じく公定価格であることから、基準となる実勢価格が密室の相対取引で形成されているわが国の実情では、ドイツのような薬剤費抑制効果を持つかどうかは、はなはだ疑わしい。わが国においては、公開競争入札による透明で公正な価格形成が図られるべきであり、政府はそのための公設市場の整備と適正な競争の確保に専念すべきである。

7、高齢者の医療保障については、与党が「基本方針」で検討していた制度は、「別建ての高齢者医療制度の創設や退職後も継続加入する方法など」であり、厚生省案に掲げられている選択肢は、これまでの与党の論議を踏まえたものではない。高齢者の医療制度については、さらに幅広に検討する必要がある。特に、七五歳以上の後期高齢者(高額所得者を除く)の医療費については、財源調達方法として保険方式が適当かどうか、介護保険と同様、公費と折半する方法の検討や、さらには、将来の介護保険のあり方を含め、総合的な検討を慎重に行うべきである。

8、医療費の適正化の推進等について、厚生省は医療費の無駄や非効率の徹底した排除が医療費の抜本的改革を進めていくための大前提であるとしているが、医療制度の抜本的改革を行うことによって、医療費の無駄や非効率の徹底した排除が実現されるのであり、本末転倒といわざるを得ない。