1998年9月29日

内閣総理大臣

小渕恵三殿

社会民主党   

党首 土井たか子

TMD(戦域ミサイル防衛構想)についての申し入れ

 8月31日の朝鮮民主主義人民共和国の「ミサイル発射問題」を契機に、日米両政府は、9月20日ニューヨークでのSSC(いわゆる2プラス2)で、TMDについて共同技術研究を「実施する方向で作業を進めていく」ことで事実上合意した。防衛庁調達実施本部背任事件で国民の不信は頂点に達しているなか、国民の合意もなく、国民的議論もないまま行われた今回の政府の対応について社会民主党は極めて不満であり、下記の疑問と政府側から十分な説明がなされていない点で反対である。

 

1.日本政府はアメリカとの共同研究によって衛星等による探知、海上イージス艦からの迎撃ミサイル発射のシステムを目指すとしている。遅くてもマッハ3,早いときにはマッハ24のスピードで飛行するといわれるミサイルを、迎撃することが本格的対抗手段であるかどうか。アメリカの現在までの実験は失敗が続いており、有効な防衛手段とはいえない。

 

2.TMD配備までには数兆円単位の費用を必要とすると言われている。一方未曾有の経済危機のさなか契機対策が喫緊の課題であり、同時に少子・高齢社会にむけて、国の財政の健全化と福祉の充実は急務である。しかも成功するかどうかもはっきりしないTMDについては、「費用対効果」の点からも疑問である。

 

3.TMD研究が共同研究だけで踏みとどまることが果たして可能なのか。今後、宇宙開発を平和利用に限った1969年の国会決議に反し、武器輸出三原則に背を向けることになる。

 

4.冷戦構造が崩壊し各国とも軍縮の方向にあり、自衛隊も中期防衛力整備計画により縮小されつつある。その中でSDI構想の焼き直しともいえるTMD研究を推進することは軍拡につながり、日本が米国の核戦略に組み込まれ、かえって東アジアの軍事的緊張を招く恐れがあるのではないか。

 

5.かりに朝鮮半島問題が背景にあるとするのであれば、一時の感情で決めるべきではなく今こそ冷静な対応が必要である。したがって日本としては朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)への積極的取り組み、日朝国交正常化交渉の再開等あらゆる外交的努力を通じて、朝鮮半島、ひいてはアジアの安定と平和の実現に全力を上げる必要があるのではないか。