社会民主党 政策審議会
ロッキード事件で田中首相が逮捕され二○数年が立った今日も、最近の新井将敬問題に至るまで、政治家が関与する腐敗事件は、残念ながらあとをたちません。
刑法の各種の収賄罪の適用に当たっては、常に政治家の職務権限の有無が問題になってきましたし、事件で対象となった政治家は、みな口を同じく、「もらったカネは政治献金であり、ワイロとは違う」と抗弁してきており、政治家までなかなか罰することができないのが実情です。
たとえば、刑法に「あっせん収賄罪」というものがありますが、これは「お願いする(請託)、お願いされる(受託)」ことによって金品などの利益の約束をし、公務員に対し、不正な行為をさせること(または正当な行為をさせないこと)を罰するものです。しかし、これまでに立件件数はほとんどありません。実は、あっせん収賄罪が成立するには、「不正行為」と「請託」の両方の要件がそろわないといけないという問題と、政治家がその地位を利用して巨額の政治献金を得ても、職務権限が明確でないと贈収賄の証明が難しいという問題があるからです。
そこにメスを入れるには、政治家が役所に口を利きその見返りに献金を受けること自体を禁止するようにしなければなりません。
そこで社民党は、昨年九月の佐藤孝行総務庁長官問題を受け、閣外協力の条件として、あっせん利得行為の禁止を提起しました。社民党の提起した「あっせん利得罪」とは、政治家が政治的地位を利用して、特定の個人や団体からの陳情などを公務員に働きかけて実現した結果、その見返りに金品を受け取ることを新たに犯罪として罰しようというものです。
つまり、あっせん収賄罪とは違い、公務員に対し不正な行為をするように働きかけなくても、口利きをした見返りとして報酬を得ること自体を罪に問えるようにしようとするものです。これは、選挙による信任を受けた政治家が、全体の奉仕者としての責任を持っているので、報酬を得て特定の個人・団体の利益を図るのはおかしいという考え方に立つています。
このあっせん利得罪の規定によって、刑法の隙間を埋めるとともに、政治とカネの不透明な関係を断つことが期待されます。
「あっせん利得行為処罰法案」として社民党案を与党競技会に提案したのは、昨年の九月のことでした。しかし自民党は、支持者に頼まれて役所に口を利くことは政治家本来の仕事であるといい、与党協議をすること自体に消極的でした。これに対し、社民党は、あっせん行為自体を禁止しようというのではなく、その見返りに利益を得ることを禁止するんだということを訴えました。ようやく自民党が本格的に検討し、考え方をまとめたのは、与党協議の期限である三月末を目前とする最終盤に入ってからであり、極めて残念です。
しかも、自民党案は、主な問題点だけでも次のようなものがあるものとなっています。
(1)主体を国会議員に限定し、地方議員及び首長は当面の規制の対象から外しているため、地方政界にはメスが入らないこと。
(2)国会議員が地方自治体の職員に圧力をかける行為は禁止していないこと。
(3)対象となる事務が「許認可その他の処分又は売買、賃借若しくは請負その他の契約に関する事務」というように極めて限定されていること。
(4)収受の対象が、「金銭または有価証券等(政令で定めるもの)」に限られており、書画骨董や借金の免除、低利・無利子融資、不動産・動産の無償貸与、接待・供応といった「財産上の利益」のほとんどが対象外になってしまうほか、有価証券の中でもすぐに換金できる商品券は除かれていること。
(5)第三者に利益を供与させることが規定されていないため、本人でなく後援会や家族、秘書等があっせん報酬を得ることが禁止されないこと。
(6)「収受」したときのみを罰し、あっせんの見返りを「要求」したり、「約束」したりすること自体は対象外としていること。
このような内容の法案ですら自民党内からは反対論が噴出し、何度も与党で約束した期限を破っています。しかも法案の名称は「腐敗防止法」ではなく「政治倫理確立法」という名前ニされています。
しかも自民党案の最大の問題点は、政治献金があっせんの見返りに当たるかどうかは灰色であることから、正規の政治献金でさえも検察の恣意的判断によってあっせん利得として認定されてしまうのではないかとして、政治資金規正法に従った寄附等の受領をすべて適法にしてしまっていることです。たしかに正当な政治活動を妨げるものであってはならないことは社民党も認めており、法の適用上の注意規定を入れることは否定しません。
しかし問題は、たとえば、口を利いてくれたらいくら払うというあっせんの契約があるなど、あっせんをした報酬として金銭をもらったことが誰の目にも明らかなケースでも、政治資金規正法の手続をとれば罰することはできないところにあります。あっせんした結果利益を得ることにメスを入れるという本来の腐敗防止法の趣旨が、自民党案では大型の裏献金だけを禁止するものに矮小化されており、むしろマネーロンダリングの道具として政治資金規正法を使うことによって、黒いカネも白くする「あっせん利得保護法」となっているのです。
社民党は、そもそも手続きの適法性と得た利益の合法性は別問題であるとして、この適用除外規定自体を削除することを求めています。しかも、なんとか与党案をまとめるために、政治資金規正法に従った寄附等の受領を100%適法化するのでなく、明白な証拠がある場合は、あっせん利得罪に問うことができるようにするための修正案も提示しました。また新党さきがけも「通正な寄附等」とすべきという調整案も提起しています。しかし、自民党は、党内を説得するためにはこの問題は譲れないとして、一切の譲歩に応じません。
与党協議が平行線で暗礁に乗り上げたのは、このような自民党の身勝手な姿勢に原因があるのです。
公務員倫理法を制定し、公務員に対し厳しい規制を設けることにした一方で、いま政治家自らが襟をただすことができなければ、政治不信の解消どころか、さらなる国民の政治に対する信頼の喪失となるのは必定です。
社民党は政治とカネの関係を断ちきり、清潔な政治を実現するためにも、引き続き政治腐敗防止法の制定に全力を上げていきます。