2002年12月13日
社会民主党政策審議会長 大脇雅子
はじめに
与党税制協議会は13日、03年度税制改正大綱をまとめた。
浮き彫りになったのは、小泉内閣の経済失政を棚に上げて、法人税にもう多くは望めないという無気力にも近い姿勢だ。その延長線上にある法人減税実施へ、無原則、なりふり構わず全てをかき集めるための本答申案といえる。当然のことながら、国民生活の疲弊も顧みず(医療・介護・雇用の各分野における3兆円にも上る負担の押し付けなど)、企業から個人、さらには金持ちより庶民へと、力のある(富める)者はより富むべし――という、「新自由主義」の性格が色濃い増税シフトが敷かれている。
また、発泡酒やたばこ等の増税も、ただ取りやすいからという発想を優先したものだと断ぜざるを得ない。企業の創意工夫や庶民のささやかな楽しみを摘み取り、目先の税収増を重視する手法は、角を矯めて牛を殺す愚――を招くことは確実だ。個人最終消費の前向きなマインド(性向)を引き出さない限り、財政収支の好転は望み難いのは周知の事実。今回の決定は、この定理に背馳することは明らかだ。
1.幻想そのもの、個人増税に支えられた経済活性化
企業向け減税の分を取り戻すための財源について、経済効果による自然増収分も見込むなどの美辞をいくら装おうと、経済の総収縮をもたらすだけに終わってきた政策不在の小泉内閣の下では“空手形”になることは必至だ。多年度税収中立を標榜する限り「減税額を増やせば増税額が増える」、要するに個人の負担増に多くは頼らざるを得ない仕組みに何の変わりもないことは明らかである。
配偶者特別控除の廃止に象徴される個人の増税に支えられた企業減税が、経済の活性化につながるとする発想は、まさに“世迷い言”そのものだ。
法人減税の財源は法人税体系内の見直しを通じて賄う、つまり「自己完結路線」を貫くことが、税の世界における不文律だったはず。この原点に立ち戻るべきだ。
2.内需拡大望み薄の企業減税
研究開発にかかわる減税措置の改善は一定の評価は可能だ。しかし、現下の経済情勢からすれば、企業減税が行われたとしても増加したキャッシュフローは内需拡大に貢献することなく、海外への工場移転費用などに吸収されるのが関の山ではないか。
そんなに“太っ腹”を誇示したいのなら、正規雇用者の純増に寄与する労働者本位のワークシェアリング(労働時間の分かち合い)に取り組む企業等に対する法人税の減免措置や社会保険料の軽減などにも、十分に意を用いる必要がある。
出だしは減収要因になるが、失業者の減少及び再就職先の拡大等に向けて作用する機能が徐々に強化されるため、一般会計の負担は、ネット(差し引き)で抑制傾向に転ずることすら期待できる。いま求められている法人減税のあり方は、このような幅広く国民全体に行き渡るものに見出されるべきだ。
なお、消費税の免税点の引き下げなどが盛り込まれた。ただし、(1)税収効果と中小・零細業者が負う納税コストとの釣り合いが妥当かどうか (2)何より、小泉失政の“ツケそのもの”の消費不況や、大規模郊外店などに押され、閉店の憂き目を見る町中の商店等の現状――などからすれば、いまその時期であるのか疑問が残る。
これでは、今回の法人減税が「小を殺して、大を生かす」ためのものであったことを露呈したに等しいのではないか。
3.目的希薄な配偶者特別控除の廃止
小泉流改革によってもたらされた将来不安などの増幅によって、GDP(国内総生産)の6割を占める個人最終消費は回復のきっかけをつかめずにいる。
雇用や老後にかかわる国民の圧倒的な不安の解消なくして、社会経済の活力の源泉であり、税収動向を占う(規定する)個人最終消費は上向くべくもない。国民の理解と納得による負担増、つまりは公平性が担保された税制改革によって捻出される財源は、「小泉不況」真っ只中にあるからこそ、生活の向上と将来不安解消のためにまず使われなくてはならない。
したがって、配偶者特別控除を廃止したいのなら、景気との兼ね合いを踏まえながら「段階的」に進めるべきだし、見直しで生まれた財源は、蔓延する将来不安等を払拭する立場から、介護・子育てケア――などの分野へ全額充当される必要があった。にもかかわらず、単なる1年先送りにとどまり、さらには、廃止で浮くはずの7000億円強のうち2500億円程度しか少子化対策に当てられていない顛末を見ても、「財政の論理」優先の増税手段であったことを如実に証明している。
4.痛み多くして効なし、発泡酒等の増税
発泡酒の増税等は、目先の利にくらんだ選択だといわざるを得ない。企業の開発努力に水をさすだけでなく、家計を直撃することで消費の手控えを招くなど、税収増に必ずしもつながるとも思われない。全体の消費マインドを底冷えさせる作用の方が強く働きかねず、再考すべきだ。
5.制度化されたが本来の趣旨に遠い外形標準課税
地方自治の強化・地方分権の推進に即した地方税制の確立が求められていたが、税財源の地方分権は、高速道路整備の関係での自動車重量税の一部の移譲にとどまるなど、ほとんど手つかずのまま顧みられなかった。
今次地方税制改正の大きな焦点は、毎年検討課題にあげられながら結論が先送りされてきた法人事業税の外形標準課税への転換である。シャウプ税制勧告でも明らかなように、法人事業税は、自治体の行政サービスに対する対価としての税である。したがって、その課税のあり方は、応益課税としての事業税の性格の明確化、都道府県税収の安定的確保、特定の都道府県への偏在の是正、地方税の独立性確保等の観点から、課税標準を外形標準課税に転換することがもっとも望ましいものである。このような立場から、社民党は、この間、景気への影響や中小企業に配慮しつつ、まず資本金1億円超の法人については、現行方式との併用方式で外形標準課税の制度化を早急に行うべきであるとしてきた。この点で今回、曲がりなりにも外形標準課税が一部導入されることになったが、課税対象・課税方法等については、本来の外形標準課税とかなり隔たりのあるものとして批判せざるを得ない。ましてや銀行・持株会社等に対する優遇課税は外形標準課税制度の性格を歪めるものであり、許されるものではない。