2003年6月17日

政府税調「中期答申」について(談話)

社会民主党全国連合
政策審議会長 大脇雅子

  1.  今回の政府税調「中期答申」には(以下「答申」)、国民に痛みを押し付け、将来不安を増幅するだけの小泉流改革に、新たな“暮らし直撃のカード”が加わったという意義しか見出せない。小泉政権の経済無策等の当然の帰結である経済の総収縮から派生した税収不足を穴埋めするために、増税項目を積み上げられるだけ積み上げる「財政の論理優先」の姿勢だけが際立つ。
     自らの失政を省みることなく“懐が寂しいから搾り取る”というやり方自体、封建時代に典型の悪代官の治世を想起させて余りある。信頼を失墜した税制改革が成就した試しはない。小泉政権は歴史が証明する真実にこそ意を用いるべきだ。

  2.  増税に対する白紙委任を迫る一方で、何に使うかが判然としないなど、構想力欠如の「答申」内容は、現政権に蔓延する政策の手詰まり感を露わにした。
     急激に進む少子高齢社会への危機感の表れ・対応を、消費税の二ケタ台への引き上げと、いわゆる「人的控除」の構造改革(廃止、縮小)や給与課税の見直しなどに収斂させる論理の展開は、一見もっともらしく受け止められがちだ。しかし、マクロ経済の現状を見据えた緩急わきまえた手綱さばき、つまりは国民生活へのいたわりが前提にない限り、“劇薬としての副作用”だけを増大させることになる。
     国民の要請に背を向け、消費税の引き上げなど財界の意向を迎えることに汲々とした「答申」の姿勢は、「改革の大義」を自ら否定するものである。

  3.  税制改革の通弊は、声なき大衆(サイレント・マジョリティー)の軽視に見られてきたが、「答申」もこの轍を脱するものとはなっていない。
     国民が共有できる各種控除(福祉施策の代替措置としての性格が強い諸控除)の整理合理化、相続税の課税ベースの拡大などの「目的意識」とは、その結果生まれる財源を、雇用も含めた広義の意味での社会保障施策等の抜本的拡充のために使うことに尽きる。配偶者控除・公的年金等控除などの見直しや、相続税の課税ベース拡大に伴う財源は、介護保険制度の充実・育児ケア体制の整備、雇用形態を問わぬ均等待遇方式の採用および再就職支援策の推進拡充などに特化される必要があった。
     あるべき結論を提示することが求められた途端、不得要領になる「答申」が時代の評価に耐えられるはずもない。

  4.  「必要な人により的確、十分なサービス提供」という理念の厳格化は、「適正負担、高福祉」を理想型とする社会保障体系創造の生命線だ。このためにも、納税者番号制度の早期導入による適正、確実な所得把握が不可欠の要件となる。少子高齢社会を支える税制確立において、納番制採用は“一丁目、一番地”の重みを帯びる。
     にもかかわらず、相も変わらず納番制の必要性は強調するものの、導入の目処すら立てられないところに、具体策は増税メニューばかりという「答申」の本性はむき出しとなっている。ここにも、政府税調が標榜する「少子・高齢社会における税制のあり方」の空虚さは顕著だ。

  5.  雇用や老後生活などにおける圧倒的な不安の払拭なくして、社会経済の活力の源泉であり、税収動向を占う(規定する)個人最終消費支出の改善は望みようもない。国民の理解と納得による負担増、つまりは公正、公平性が担保された税制改革によって捻出される財源は、生活の向上と将来不安解消のためにこそ使われなくてはならない所以はここに明らかだ。
     小泉政権が踏み切ろうとしない「基礎年金の国庫負担二分の一への引き上げ」財源について、国民に何の実感、有難みももたらさなかった定率減税<注>の廃止をもって賄うことは、この“切り口”に適う選択だ。しかし、いま問われている課題に対してさえ逃げ腰に終始する政府税調に存在意義はない。

  6.  税財源の自治体への移譲つまり分権型社会の創造こそ、現下の税制改革の最大の焦点であり、地方における歳出規模と地方税収との乖離を縮小する観点から、国・地方を通じる税体系のあり方について抜本的な検討を行うことが、今次税制調査会に課せられた役割であったといえる。
     しかし、「答申」は、地方税制改革を「課税自主権が更に活用しやすくなるよう検討を進める」ことに矮小化し、肝心の国と地方の税源移譲を含む税源配分の見直しについては、「国庫補助負担金、地方交付税とともに三位一体で改革」というお題目でお茶を濁すのみで、具体的な税目や規模、時期を見出すことができなかった。地方消費税の充実も消費税率の引上げとの見合いで語られているにすぎず、税源移譲の先送りを容認するに等しい内容である。このような「答申」は全く意味がない。
     社民党は、分権・自治の観点を重視し、国と自治体の役割分担に応じた税財源の再配分、税源移譲に踏み込んだ抜本的な地方税財政改革を求めていく。
<注> 内訳は国税約2.7兆円、地方税約0.8兆円。減税額は、所得税額の20%相当額(最高25万円)。地方税は、個人住民税額の15%相当額となる(最高4万円)。
 減税規模は約3.5兆円にものぼる。