2004年12月20日

2005年度財務省予算原案内示についての談話

社会民主党幹事長
 又市征治

  1. 本日、財務省から2005年度予算原案が内示された。基本的に04年度予算の枠組みが踏襲されており、具体的になにをどう見直すのかが不明の目新しさに欠ける。「構造改革の進展」どころか、まったく新味のない数字いじりにすぎない。特別会計の見直しも踏み込み不足だ。所得・資産の二極分化、格差拡大が進む中で、本格的な景気回復基調にしていくためには、雇用や福祉などに大胆な予算配分を行い、国民の生活不安や将来不安を解消することが必要だったはずだが、不要不急の公共事業の見直し、軍事力によらない安全保障、生活再建最優先の雇用・失業対策、安心・安全の社会保障などに重点化するという課題は後景化し、歳出を切り詰める一方、国税で実質1710億円の増税を見込み、歳出、歳入両面から国民への犠牲と痛みの強要が際立つものであり、景気に対してもマイナス効果しかない。

  2. 歳入面では、税収は04年度当初より2兆2600億円増の44兆70億円と見込まれているが、中堅所得者に痛みを強いる定率減税の見直しなどの国民負担増も含まれている。また国債の新規発行は、2兆2000億円減の34兆3900億円で、01年度以来4年ぶりに前年度を下回り、国債依存度も縮小している。しかし、もともと小泉首相は「国債発行三〇兆円以下」を「公約」としていたのであり、決して胸を張れるものではない。しかも既発行分の償還資金を調達するための借換債が22・9%増の103兆8151億円と、初めて100兆円を突破することなどから、国債発行総額自体は今年度当初比4・4%増の169兆5051億円と、14年連続で過去最高を更新している。財政事情も一段と悪化し、国と地方を合計した長期債務残高は、05年度末で774兆円に膨らみ過去最大を更新している。

  3. 社会保障費全体では総額20兆円を初めて突破することになった。これは、福祉の充実の結果ではなく、高齢化の進展による「自然増」にすぎない。年金制度改悪に引き続き、介護保険制度の大きな見直しが行われるが、財源論、歳出の抑制を先行し過ぎるあまり、介護保険制度の理念(介護の社会化、利用者本位、自己決定、公平性)が損なわれたり、制度への不信を招きかねない側面が強い。05年度予算では、施設における食費・ホテルコストの利用者負担を介護保険の給付対象外とし、05年10月から先行実施することになったが、施設を利用している高齢者はほとんどが年金収入のみであり、新たな負担の導入は高齢者の生活を直撃する。今後、利用者負担、応益負担の方向がさらに強まっていくと、介護保険制度の利用は一定水準以上の所得層に限られ、公平性を失いかねない。また、障害者福祉におよぼす影響も危惧される。06年度の介護保険の制度改正を待たずしての先行負担は、介護の充実より財源対策を優先するものであり、弱者に痛みを強いる小泉政権の姿勢の表れだ。社会保険庁の年金事務費については、保険料は給付だけに使うべきだという指摘を受け、厚労省も保険料を給付以外に転用しないとの方針を示していながら、来年度も保険料収入を充てることになったのは、「約束違反」ではないか。雇用では、フリーターやニートなど、若者の就職が深刻な状況にあるなか、「若年者雇用対策の推進」として360億円(20%増)の予算が計上された。しかし、従来の事業は、若年者の就職支援、職場定着について費用対効果の面で問題があり、事業の内容、成果を検証する場が必要である。

  4. 05年度の防衛関係費の総額は、次期中期防衛力整備計画(05〜09年度)で、5年間の防衛費の総額を現行計画より約9200億円少ない24兆2400億円とすることとなったことを受け、前年比1%減(490億円)減の4兆8563億円となった。防衛予算が前年度比マイナスになるのは3年連続だが、その内容は質の面で非常に多くの問題を抱えている。冷戦型装備とされた戦車・火砲を大幅に縮減する一方で、弾道ミサイル防衛(BMD)の配備に1198億円という巨費を投じ、日米一体のミサイル防衛構想の既成事実がさらにすすむ。専守防衛、集団的自衛権の不行使、武器輸出三原則などが、何の議論もなしに、軽々と踏み越えられていくことを厳しく批判する。
     まさに同時期に策定作業がすすめられた「防衛計画の大綱」(12月9日閣議決定)、「中期防衛力整備計画」(同)の内容を先取りし、新大綱がいう「新しい安全保障環境」に適合した自衛隊に向けて大きくカジを切ろうとするものである。95年につくられた現「大綱」から9年ぶり3度目の新大綱は、外国の武力侵略から国土を守ることを主眼とした最初の「大綱」(76年)、冷戦後の状況を受け日米の防衛協力を日本の「周辺」にまで広げた現「大綱」からさらに大きく転換し、日本の防衛政策を「世界の中の日米同盟」に積極的に組み込み、米軍との一体化をいっそう推し進めるものだ。日本の国土防衛を主眼にしてきた自衛隊は、米軍とともに大量破壊兵器の拡散や国際テロなどの新たな脅威に地球規模で対処するための海外任務を本務化し、組織や装備のあり方を大きく転換しようとしている。
     必要最小限の「基盤的防衛力」構想を見直し従来型装備を大幅縮減、北朝鮮の脅威に備えたミサイル防衛の配備、テロなどの緊急事態に常時備える防衛庁長官直轄の即応集団の設置、海外任務のための教育訓練態勢の整備、輸送能力の整備、といった大綱の目指す方向を先取りし、具体化に向けて着実に歩みを進めるのが05年度防衛関係費の内容にほかならない。これまで政府自らが主張してきたはずの専守防衛の原則すらないがしろにし、戦う自衛隊へカーブを切る予算を許してはならない。

  5. 公共事業関係費は、前年度比で3.6%台の削減となったが、関西空港や整備新幹線など大型公共事業の推進が目立つ。関西空港については、2本目の滑走路の供用を07年に始めることが決定し、関空2期事業の施設整備費の要求額のほぼ満額が計上された。そもそも関空の1期事業は甘い需要予測で国費の追加投入に追い込まれた経緯があり、07年には人口は減り始め旅客需要が予測通り伸びるかどうか不透明な中の決定であり、問題が残る。また、整備新幹線も4年ぶりに新規着工が認められたが、将来の譲渡収入を担保にした借り入れも行うなど、綱渡りの「見切り発車」の構図が鮮明だ。他社線区の開通で得た増益分を建設財源として国に納める案もJRの反対で先行き不透明だ。需要予測や採算性の見通しも甘く、後年度の負担が膨らむ恐れをはらんでいる。財政状況が厳しいと言いながら、債務に債務を重ねてまたまた債務を重ねるやり方は認められない。
     国営諫早湾干拓事業について、佐賀地裁が工事差し止めの仮処分決定を出しているにもかかわらず、本年度の事業費70億円を上回る事業費90億円の計上は問題だ。

  6. 自治体の財政運営の指針である地方財政計画は、4年連続で減少し、今年度比1.1%減の83兆7700億円となった。地方交付税について、一般会計からの入口ベースでは8000億円削減の14兆5700億円となったものの、特別会計借入金の増や剰余金の活用04年度からの繰り越し分などによって、地方に配分される出口ベースでは、04年度をやや上回る16兆9000億円が確保された。交付税と地方税・臨時財政対策債とあわせ、本年度並みの53兆4400億円の地方一般財源を確保することができたが、財務省と総務省のメンツを立てた数字のやりくりは問題が残る。地方債も新規発行が減少したとはいえ、既往臨時財政対策債の元利償還分を新たな臨時財政対策債で行うという、蛸の足食いが拡大しているし、将来の行革効果を当て込んだ借金である財政健全化債が引き続き発行されるなど、質の面の悪化も見落とせない。「ハードからソフトへの決算の乖離の一体是正」については理解できるが、自治体の側が国に先んじて教育、福祉、環境、廃棄物対策など住民生活にとって不可欠な行政分野に予算をシフトしていること等の結果として、ソフト面での計画と決算との逆乖離が生じていることに留意すべきであり、市町村合併や電子自治体の推進で是正するのはいただけない。また、7〜8兆円の交付税の過大算定を強調した財務省に対し、国が地方歳出の具体的内容に関与するべきではないとしてきた総務省が、「経営努力が報われる算定」を実施するとして、自らの財源のように取り扱うのは自己矛盾だ。地方財政計画上の職員数の削減(地方警察官3500人等の増員を織り込んだ上での1万人純減)や経常経費対前年度比0.4%のマイナス、投資的経費対前年度比3%マイナスが自治体現場や住民サービスへどういう影響を与えるのかに注意しなければならない。

  7. 11月26日に全体像が示された「三位一体改革」の2年目の姿が明らかにされたが、肝心要の税源移譲について、地方が3兆円の税源が移譲されるなら3.2兆円の補助金は返上しますよといったのに、国の回答は2.8兆円補助金をカットさせてもらうけど1.8兆円しかあげないよというのが現実だ。生活保護や義務教育費、施設整備費など先送りされた課題も多い。税源移譲に結びつく国庫補助負担金の改革のメニューが示されたが、準要保護児童生徒に対する援助費負担金や高校等奨学事業費補助金、幼児の健康診査費の負担金、公営住宅家賃収入補助など、子どもや福祉、生活に関する国庫補助負担金も多く含まれており、住民への負担転嫁・サービス切り捨てにつながらないよう、個別自治体ごとにどのような影響が出てくるのかについての目配りが欠かせない。

  8. 社民党は、国民生活や地方の視点に立った予算編成を求めてきたが、小泉予算案の問題点や不十分さを徹底的に追及し、国民生活を守るために奮闘していきたい。