2005年4月27日
「介護保険法等の一部を改正する法律案」の衆議院厚生労働委員会採決にあたって(談話)
社会民主党
幹事長 又市征治
- 費用抑制のみを目的に、国民の負担増、サービス削減の法案に反対
本日、衆議院厚生労働委員会は、「介護保険法等の一部を改正する法律案」を一部修正のうえ、自民、民主、公明の賛成で可決した。本法案は、ただただ介護保険費用の縮減のみを目的として、国民の負担を増やし、利用者サービスの削減を押し付ける内容であり、社民党は原案、修正案に反対した。
- 保険の理念、原則を損ねる新予防給付、地域支援事業
〈新予防給付について〉
本法案は、軽度要介護者(要支援・要介護1)の区分を変更し、介護予防サービスを導入して、従来とサービスの異なる「新予防給付」に振り分けるとしている。
要介護認定(行政処分)のもと、軽度要介護者のサービス利用(家事援助など)を、自立支援や介護予防の名を借りて抑制することは、「自己選択」「自己決定」によって高齢者が自分らしい生活をつくるという介護保険制度の理念を根本から覆すことになる。
また、本人の事情を軽視して、利用を制限すれば、返って重度化を招き、財政的にも高くつくことになる。政府は、家事援助による生活負担の軽減が、要介護度の悪化を予防し、自立を守る有効な手段の一つであることをしっかりと認識すべきである。
また、法案は抽象的な枠組を示しているに過ぎない。利用者の生活と直結する肝心なことは、すべて政省令で決めるという政府の姿勢は、あまりに無責任である。
〈地域支援事業について〉
認定していない自立の高齢者にまで対象を広げる「地域支援事業」は、事故・リスクに基づいて給付を行う保険の原理を踏み外すものである。不特定多数に行われる老人保健・福祉は税で行うべきであり、新たな介護予防などの事業に、安易に介護保険料を使うことは、介護保険費用の膨張を招き、老人保健・福祉に対する国の責任の後退につながりかねない。
〈筋力向上トレーニングについて〉
政府は、審議後半になって、やっと市町村が実施した「介護予防モデル事業」の結果を報告した。「筋力向上トレーニング」による改善は43.9%で見られたものの、逆に16.3%が悪化した。日常生活の改善能力をあらわす「日常役割機能(身体)」については32%が悪化した。政府が「介護予防」の切り札とする「筋力向上トレーニング」は、効果が明らかなサービスとは言えない。また、費用対効果についても全く検討がなされていない。
そもそも介護保険法は「要介護状態の改善」が目的ではない。国が、筋肉向上トレーニング等の統一的なメニューで、介護予防を行うことは、結果的に「改善」を強調し、「要介護状態になること」、「年老いて心身が衰えていくこと」が、社会悪であるかのような誤った印象を国民に植え付ける。高齢者の尊厳をないがしろにするものであり、介護を社会連帯で支えようとする法の理念に大きく反する。
- 介護保険施設の居住費・食費を保険外に出すべきではない
現金給付である年金が先細っていくなか、現物給付である介護保険の現金負担部分を増やすことは、国民に過度な負担を強いることになる。施設と居住の違い、施設が「食事の提供」に責任を持つことの意義、施設建設における公費補助の大きさなどを考慮し、「居住費・食費」は引き続き保険給付内に留めるべきである。
本法案は、高齢者の所得の状況、そして個々人の税、医療保険・介護保険など社会保障の自己負担を総合的に勘案した制度設計になっていない。また、来年6月から実施される個人住民税の大幅改正による住民税非課税世帯の変化、保険料と利用者負担額の変化もあえて無視している。施行予定は本年10月からであり、周知期間があまりに短く乱暴な内容である。
在宅と施設の利用者負担の公平性が目的であるのならば、まず、重度要介護者を在宅で支えられるよう介護保険を充実することこそが先である。
- 介護サービス従事者の労働条件を改善する視点が欠如
介護保険のスタートに当たって、政府が一番危惧したことは「保険あって給付なし」の状況になることだった。政府がその危惧を払拭し、介護保険制度の定着をはかることができたのは、低賃金・過酷な労働環境にもかかわらず、最前線で働いてきたケアマネジャー、ホームヘルパーなど介護サービス従事者の努力があったからである。しかし、本法案には、サービスの質の向上と密接に結びつく介護サービス従事者の労働条件を改善する視点が皆無である。
本法案は、利用者・国民の視点が欠如し、「介護難民」「介護棄民」を誘発しかねない。社民党は、直面する超高齢社会を安心して迎えることができるよう、介護保険制度の創設の理念(自立支援、利用者本位、在宅生活の重視、社会連帯)を徹底し、高齢者の尊厳が守れるよう参議院審議に全力を傾注する。
以上