2005年12月20日

2006年度予算財務省原案の内示について(談話)

社会民主党幹事長
又市 征治

  1. 本日財務省原案が内示された2006年度予算は、歳出面では、社会保障や公共事業など政策に使う一般歳出が9200億円減の46兆3700億円と2年連続で縮小し、一般会計の歳出総額も4年ぶりに前年度比でマイナスとなり、98年度以来8年ぶりの低水準となった。「小さくて効率的な政府」を目指し「歳出改革路線」を堅持・強化した「改革の総仕上げ予算」と位置づけられているが、2兆円もの増税を強いる「与党税制改正大綱」や、利用者・国民への負担のつけ回し、地方への負担転嫁に終始した「三位一体の改革」に立脚した結果、国民が求める本来のあるべき構造改革には踏み込むことなく、公共サービス切り捨てと国民負担増といった、歳出、歳入両面から国民への犠牲と痛みの強要が際立つ「冷たい予算」となっている。

  2. 新規国債発行額は、01年度(約28兆3000億円)以来、5年ぶりに30兆円を下回る水準となり、「国債発行をできるだけ30兆円に近づける」という小泉首相の「目標」が達成されたことをアピールしている。しかし、その背景には、リストラ効果の景気回復や大衆負担増の定率減税廃止による税収増とともに、診療報酬の大幅引き下げによる社会保障関係費の自然増の大幅圧縮をはじめとする国民生活切り捨てがあることを忘れてはならない。

  3. 公共事業関係費は05年度当初予算比4・4%減の7兆2015億円となり、5年連続で減少し、88年以来18年ぶりの低い水準となった。しかし三大都市圏環状道路も国費ベースで22%の伸びで整備が促進され、スーパー中枢港湾整備予算も対前年度比1.4倍の381億円(国費ベース)が計上されるなど、問題の多い大規模公共事業の重点化が進んでいる。空港整備に至っては、対前年度比8億円減の1666億円となってはいるが、空港整備特別会計全体としては、羽田空港再拡張事業のため借入金を大幅に増やすなど対前年度比15%増の5722億円となった。また、整備新幹線建設費の国費ベースも、本年度と同額の706億円が盛り込まれた。たしかに青森県の中村ダムなど一部のダムの中止や予算計上見送りもあるが、国営諫早干拓事業は続行されるところを見ると、歳出改革のポーズにすぎない。

  4. 防衛関係費は0・9%減の4兆8137億円で、4年連続のマイナスとなった。しかしその内容は、日本の国土防衛を目的としてきた自衛隊を、米軍とともに大量破壊兵器の拡散や国際テロなどの新たな脅威に対して地球規模で対処する組織にするために、組織や装備のあり方を大きく転換する、新防衛大綱のめざす方向の具体化を着実に進めるものとなっている。例えば冷戦型装備である戦車・火砲など一部の装備の調達やF15戦闘機の改修等を抑制する一方、ミサイル防衛(MD)関連予算1399億円計上(201億円増)による日米一体のミサイル防衛の既成事実化、陸上自衛隊中央即応集団の新編成など米軍と共に「戦える自衛隊」に向けた組織再編も本格化している。また、テロ対策と称して、治安関係予算や監視社会化につながる予算が増額されたのは看過できない。

  5. 米軍駐留に対する「思いやり予算」(在日米軍駐留経費負担)は、06年度原案では提供施設整備費を過去最大の170億円圧縮、本年度比7.4%減の2151億円とされた。在日米軍再編に伴う経費は、地元調整が必要なため予算計上が見送られ、普天間飛行場の移転先とされるキャンプ・シュワブ沿岸部等6基地の調査費3億円が05年度補正予算案に盛り込まれるにとどまった。本格的な負担は06年度補正予算以降で対応されるが、米軍再編に伴う将来的な負担増が「思いやり予算」の削減幅をはるかに上回る巨額なものとなることが確実である。

  6. 政府開発援助(ODA)予算は05年度予算から3%削減の7597億円とされた。7年連続の削減であり、世界の援助ニーズに応えるものとはなっていない。内容面でも貧困にあえぐ途上国の民衆の生活に直接とどく無償資金協力の充実・強化が求められていながら、テロ対策支援やイラク復興支援など米国追従型の支出が、他の予算を圧迫している。

  7. この間、小泉首相の靖国神社参拝をめぐってたアジアの国々との関係が悪化する中で、強く求められていた新たな戦没者追悼施設の建設調査費が06年予算に計上されなかったことで、日中・日韓関係の一層の冷却化につながりかねない。02年12月に福田康夫官房長官(当時)の私的諮問機関が「国を挙げて追悼・平和祈念を行うための国立の無宗教の恒久的施設が必要」とする報告書をまとめてから3年、戦没者追悼施設建設が進まなかったことは、極めて遺憾である。

  8. 社会保障費の自然増分は、過去最大幅となる3.16%の引き下げとなった診療報酬の引き下げで補う形になっている。財務省は、「保険料や税負担といった国民負担の増加を極力抑え…公的医療給付費の抑制を実現」としているが、診療報酬引き下げによる医療機関の減収分は患者負担増につながる。さらに、政府・与党は「医療制度改革大綱」で高齢者の医療費窓口負担増などを示しており、抑制した医療給付費は国民の自己負担に転嫁されるだけで、単なる財源のつけ回しに過ぎない。所得の低い者ほど受診抑制に追い込まれることになり、医療現場の荒廃が危惧される。「医療費削減先にありき」では、国民の健康は守ることができない。また、介護保険法改悪と、応益負担を導入した障害者自立支援法が成立した結果、介護、福祉分野はマイナスとなった。高齢になっても障害があっても、地域で共に安心して生きていくことを支えるノーマライゼーションの観点が消えかねない深刻な状況にある。なお、本来国庫で賄う社会保険庁の年金事務費に年金保険料を充てる特例措置の継続は問題が大きい。

  9. 文教、科学振興費の総額は、義務教育費国庫負担金の国庫負担割合の引き下げや児童・生徒の減少に伴う義務教育教職員の削減などで、8・5%減の5兆2380億円となった。「第8次定数改善計画」策定を行わず、自然減となる教職員1000人の不補充や教職員人材確保法の廃止を検討するなど、教職員の定数・給料をスリム化する方向は極めて問題である。概算要求基準で削減対象に含めていた科学技術振興費が、前年度予算比で増額となったことは歓迎できる。

  10. 農林水産関係予算は、総額2兆8136億円で前年比マイナス1536億円となり3兆円を割りこんだ。食の安全を確保するための食料自給率の向上と安定供給、無農薬・減農薬農業、有機農業など環境保全を基本とした農林水産業への転換のためには増額が必要である。WTO農業交渉による輸入農産物の拡大を見込み、一部の担い手に品目横断的経営安定対策を07年度から導入するという農政改革を柱としており、多様な担い手の育成や環境保全型農業が後回しにされるものと懸念する。また、農業への株式会社参入やプロ農家だけへの支援、遺伝子組換作物の生産に向けた研究費等の予算は削減するべきである。森林・林業基本計画や地球温暖化防止森林吸収源10カ年対策に基づく森林整備の拡充や林業労働者の育成・確保、CO2森林吸収量の確保に向けた予算増も必要である。

  11. 環境予算は、地球温暖化対策や廃棄物問題などの課題が大きいにもかかわらず9億円減の1125億円に減額された。京都議定書目標の達成に向け、産業界への削減目標の義務づけや環境税の導入、交通体系の見直しなど地球温暖化対策を抜本的に拡充すべきである。また、総合的な水俣病対策の充実強化として28億円(プラス11億円)計上されているが、総合対策医療事業の拡充に留まっている。77年の判断基準の見直しを始め、被害者の特定・救済、地域住民のケアなど全面的な解決に総力を上げるべきである。

  12. 高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の関連経費に約220億円が計上されたが、安全性の観点から極めて問題である。将来に大きな負担をかける危険な原子力関係予算は大幅に削減すべきである。電力供給量に占める自然エネルギーの電力割合はわずか0.6%しかなく、長期の目標も示されていない。循環型社会を構築するため、再生可能な自然エネルギーへの支援を拡充し、普及・拡大への施策を強化すると共に、原子力関係予算や化石燃料予算から大胆に予算シフトし、エネルギー政策を転換すべきである。

  13. 中小企業対策費は、三位一体の改革の影響を受けて1142.7億円(マイナス157.3億円)に減額されている。グローバル化による厳しい競争に置かれ、大企業との景況感格差が広がっている中小企業への支援を抜本的に拡充しなければ日本経済の活性化は期待できない。

  14. 「三位一体の改革」について、今回、3兆円の税源移譲が決まり、施設整備費国庫補助負担金の一部が税源移譲対象とされ、生活保護負担金の地方転嫁がなされなかったことは評価できるが、児童扶養手当や児童手当、義務教育費国庫負担金の負担率引き下げなど、真の地方分権・自治の推進につながらない内容も盛りこまれた。また、一般会計からの支出額ベースで1兆5000億円以上圧縮され14兆5600億円となった地方交付税(含む地方特例交付金)は、地方が受け取る出口ベースでは、対前年度比5・9%減の15兆9100億円となったとはいえ、地方の公共サービスや住民生活へのしわ寄せが懸念される。今回、交付金が大幅に拡充されているが、各省のひも付き補助金の看板の掛け替えによる温存とならないよう、本当に地方にとって使い勝手のいいものであるのか、吟味していく必要がある。

  15. 社民党が先駆的に取り上げてきた特別会計問題について、ようやく政府・与党も見直しの論議が始まった。しかし今回の原案には、財政融資資金特別会計12兆円の活用など社民党の提言を取り入れた部分もあるが、各省ごとの統合でお茶を濁そうとしているものや、「民営化」を優先し効率性だけで切り捨てようとする傾向が見られる。高級官僚の天下りへの国民の批判や、「母屋でお粥をすすっている」(塩川元財務相)という指摘に答えるまでにはほど遠い。「特別会計を国民の手に取り戻す」ために、中途半端な見直しに終わらないよう、厳しく監視していく。

  16. 道路特定財源については、抜本的な見直しは先送りされ、一部の使途拡大にとどまっているが、市街地再開発等の財源としても活用するというのでは、かえって住環境が悪化しかねない。社民党は、「担税者の理解」を前提として使途の拡大が行われてきた道路特定財源について、負担すべき社会的費用を関係者に適正に負担していただくという観点から現行の在り方を見直すべきと考える。具体的には地方の生活交通機能の維持・強化を含む「総合交通財源」に切り替えることや環境対策財源にしていくことを主張していく。

  17. 国民を見ず財政再建ありきの徹底した歳出削減路線が、弱肉強食の格差社会の拡大、サービス切り捨て・負担増による国民生活へのしわ寄せをもたらしている。社民党は、国民生活の安心・安全を第一とした経済・財政運営への転換を目指して、小泉政権の「冷たい政府」・「強い国家」路線に立ち向かっていく。

以上