2006年7月7日

骨太方針2006の決定に当たって(談話)

社会民主党幹事長
又市征治

  1. 政府は本日、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006」(「骨太方針2006」)を閣議決定した。「方針」は、「集中的かつ徹底的な改革を世界の動きを上回るスピードで実行していくことこそが挑戦を成功に導く鍵」である、「立ち止まることで生じる『影』は、挑戦することの『影』に比べて巨大なものになる」などとして、小泉構造改革を礼賛するとともに、小泉首相退任後も構造改革路線の継続・強化を訴えるものとなっている。この間の小泉構造改革がとりわけ弱い立場にある人々に激痛をしわ寄せさせ、格差を広げ、安全と安心の公共サービスを破壊してきたことに対する反省のかけらもない。

  2. 解消必要額のうち歳出削減で埋められない2.2兆〜5.1兆円については「税体系全般にわたる抜本的・一体的な改革」で対応するとの一般的な表現にとどまり、消費税については、引き上げ時期や上げ幅など増税の具体論には踏み込まずに先送りされた。社民党は消費税率の引き上げを求める立場ではないが、昨年末の与党税調の大綱では、「07年度をめどに消費税を含む税体系の抜本的税制改革を実現させるべく取り組んでいく」と実現に向けて一歩踏み出していながら、今回、来年の統一自治体選挙と参議院選挙をうまくすり抜けようという政治的思惑で消費税率アップ隠しに走るのは、非常に姑息な姿勢である。

  3. また、「社会保障給付の安定的な財源を確保するために、消費税をその財源としてより明確に位置づけることについては、給付と財源の対応関係の適合性を検討する」として、消費税の使途を社会保障財源に限定する目的税化の検討が盛り込まれている。現在すでに毎年の一般会計予算の予算総則によって、消費税が充てられる経費(交付税分を除く約7.4兆円)の範囲は基礎年金、老人医療、介護のための予算に限定されている。そもそも消費税は、所得の低い人ほど負担が重くなる逆進性が強い税であり、弱者に負担を強いる消費税で弱者のための社会保障財源を支えることは、「貧者による貧者の支え合い」になり、所得再分配機能が働かないことを意味し、弱い者に大きな痛みを強いることになる。福祉目的税化されると、需要がある限り自動的に税率が引き上げられる関係になってしまい、安易な引き上げを誘発しかねないし、一方で、必要な税率アップができないと、不足分がそのまま給付水準の低下につながってしまうことになる。福祉目的というのは、税率引き上げを狙うためのダシにほかならない。

  4. 「方針」は、税制改革の原則の一つとして「経済のグローバル化の中で、我が国経済の国際競争力を強化し、その活性化に資すること」をあげ、法人前の減税を訴えているが、この間、消費税収は法人税の減収分とパラレルであったことを見落としてはならない。税制における所得再分配機能の向上、消費税の逆進性緩和措置、国民の十分な理解と納得なくして安易な消費税依存は認められない。

  5. ポスト小泉の有力者が格差問題をテーマにせざるを得ないほど、現実の格差拡大は深刻になっていることもあって、フリーターへの就職機会の提供など「再チャレンジ支援」などが盛り込まれた。しかし、「多様な機会が与えられ、仮に失敗しても何度でも再チャレンジができ、勝ち組、負け組を固定しない社会」(再チャレンジ推進会議)というのは、「負け組」に、上に行ける期待を抱かせながらコマネズミのように頑張り続けさせることにほかならない。「努力する意欲はあるが、困難な状況に直面している人の再チャレンジ支援」は、政府がこれだけやっているんだから、それでもダメならあとは本人の意欲がないからという、究極の自己責任につながり、格差社会をむしろ強化する方向に働くおそれがある。「方針」では「障害者や病気等になった人を政府一体で支援する」ということも盛り込まれている。しかし、障害者「自立」支援法や医療制度改悪で社会的弱者に激痛を強いてきたのは、ほかならない小泉政権である。わざわざ格差を拡大するような政策を続ける一方で、「再チャレンジ」を認めようというのは、「げんこつで殴り付けながら絆創膏を貼るようなもの」であり、格差拡大への批判をかわそうとするだけのまやかしである。

  6. 11.4兆円〜14.3兆円とされる歳出改革では、社会保障、公務員、地方財政、教育分野が主にねらい打ちされている。社会保障では、リストラを進めながら、雇用保険の失業等給付の国庫負担の廃止を含めた検討が明記され、「最後のセーフティーネット」とされる生活保護についても、母子加算の廃止を含めた見直し、級地の見直しによる「生活扶助」の抑制なども盛り込まれている。大幅な人件費の削減がうたわれているが、少子高齢社会の進展のもとで役割が増大している公共サービスの将来的な在り方を検討することなく、ただ人件費削減・サービス切り下げを強調する姿勢は極めて安易である。地方財政についても、「地方に比べて、国の財政が厳しいから自治体も我慢しろ」の大合唱で、地方単独事業や地方交付税の削減ありきの議論が展開された。「来年夏の参院選に向けて戦えるようにしてもらわないと困る」として表現振りが修正されたのは動機が不純だ。「平成の大合併」で自治体を追い立て、「三位一体の改革」で兵糧攻めにしてきた。方針は、さらに不交付団体の拡大や新型交付税導入が盛り込まれているが、税源移譲の担保もなく、「地方の自助努力」だけが強調され、結局、国の財政再建に地方財政も協力させ、本来の分権・自治が吹き飛んでしまいかねない。「米百俵」といっておきながら、教職員人件費のカット、私学助成や国立大学運営費交付金の削減等が打ち出されている。

  7. 無駄は省かなければならないが、特別会計の見直しも不十分であるし、米軍再編について、「必要な措置を講ずるものとする」という抜け道があるのも解せない。「方針」に盛られた歳出・歳入一体改革によって、国民の共有財産ともいうべき国有財産が民間資本に切り売りされるし、たとえ財政赤字が縮小しても、国民の自己負担の過度な増加を招く危険がある点に十分留意すべきである。たとえば抑制された医療給付費は国民の自己負担に転嫁されるだけで、所得の低い者ほど受診抑制に追い込まれる。また、「社会の意識改革を進めるため、家族・地域の絆を再生する国民運動」や、「環境教育や、クールビズ、『もったいない』の心をいかした国民運動」など、国民運動がしきりに強調されている。構造改革は「国民を挙げて、日本全体として取り組むべきテーマ」というのとも相まって、違和感を覚える。

  8. 「成長力強化はすべての経済政策の基本」として、国際競争力の強化を目指して、イノベーションによる需要の創出に加え、官業の民間開放や規制改革といった改革が強調されている。「『「新たな挑戦の10年』においては、成長力・競争力を強化する取組によって、豊かで強く魅力ある日本経済を実現し、改革の先に明るい未来があることを示す」というが、「方針」は、北欧型の福祉や公共サービス、教育を充実させて競争力を高めるという「もう一つの選択肢」をあえて見落としている。社民党は、小泉構造改革5年間の負の遺産をきちんと検証するとともに、生活破壊・社会保障破壊の構造改革路線を転換し、国民生活の安定、安全・安心を支える良質な公共サービスと雇用の確立、国民の不安を安心に変える「有効な政府」に向けた真の改革にこそ邁進する決意である。

以上