2006年11月8日

総務大臣の命令放送の諮問に抗議する(談話)

社会民主党幹事長 又市征治

  1. 菅義偉総務大臣は、NHKに短波ラジオ国際放送で拉致問題を重点放送するよう命令することについて電波監理審議会に諮問した。今回の命令放送は、「時事」、「国の重要な施策」、「国際問題に関する政府の見解」というこれまでの抽象的な大枠の提示を超え、個別具体的な政策課題を特定して放送を命ずるものである。また、拉致問題について、NHKとしても積極的に報道している中で、命令を出すことの必要性や緊急性があるとは言えない。社民党は、政府による放送への介入を強化し、放送による表現の自由、放送番組編成の自由を侵害しようとする今回の行為を断じて見過ごすことはできない。単に拉致問題への政府としての取り組みをポーズとして示すという恣意的な目的で、憲法が保障する表現の自由を侵害してはならない。菅大臣がこの間、放送内容や編成権には踏み込まないと言っているにもかかわらず、個別的なテーマに関する命令を行おうという姿勢を変えないことに強く抗議する。

  2. 電波監理審議会は、今回の事案の重要性に鑑み、会議の公開、パブリック・コメントの実施、放送法第53条の11第2項に基づく意見の聴取を行うなど、民主的な手続きを踏み、拙速に答申を行うことなく審議会の使命を果たすべきであった。「NHKの編集の自由に配慮した制度の運用が適当である」としながらも、総務大臣の諮問を即日妥当とする答申を行ったのは、審議会の任務放棄であり、極めて遺憾である。

  3. NHKは、平素から中立公正な報道をしてこそ、日本国民の声を公平に代弁する放送として信頼される。放送法の審議の際、当時の古垣NHK会長は、「外部の権力をもつてこれを出せということに屈することは絶対にいたさない方針」、「外部の干渉とかあるいは力というようなものに屈して番組を組む、ことに国際放送の場合に組むということは決してありませんし、将来もいたさない」と答えている。政府のプロパガンダを担う国策遂行の手段と堕し、実質的な国営放送への道に向かわぬよう、公共放送としてのNHKは、万が一、命令が発せられてもこれを安易に受け入れることなく自主編集を徹底して貫き、公正な放送に努めるべきである。

  4. 今回の命令の狙いは、ラジオにとどまらない。すでにテレビの国際放送にも国費投入が拡大されようとしている。政府が求める特定の政策の放送が今後拡大していくことは、放送の自由や放送ジャーナリズムの将来にとってゆゆしき事態となることが懸念される。従来、命令はできても具体的な個別課題など内容に踏み込まずにNHKに任せたのは、国営放送として国策遂行に利用した戦前の反省からきている。国費により一定の放送を命じるという命令放送の仕組み自体、すでに役割を終えており、この機会に見直すべきであると考える。

  5. 今回の菅大臣の行為は、「国際放送といえども、政府としては必要最小限度の経費は国の交付金として差上げるが、それの番組の編成は、一切放送協会の自主的な編成を期待している」、「海外放送の場合にも政府から番組の編成につきまして細かい指示なり命令ということは行わないで、自主的に放送協会にやつて頂くほうが責任の上からいいましても、はっきりいたしまして非常にいいのではないか」、「勝手に命令はできない。その金を裏づけなければいけない。しかもその裏づけをする金というものは、予算にして成立している範囲の中である」などの過去の政府答弁と矛盾する。「もし内閣が、特にNHKの放送に対し、圧力を加えたといえば、これは放送法に違反するばかりでなくて国民の強い批判を受けるのではないか」、「時の政府は、この放送法というものを十分理解をして、NHKをして不偏不党、真実並びに事実を放送させる、そうして放送による表現の自由を確保する」という過去の大臣答弁の重みをかみしめるべきである。

以上