2006年12月19日

第165臨時国会を終えて(談話)

社会民主党党首
福島みずほ

  1. 本日、第165臨時国会が閉幕した。今臨時国会は、後世の歴史に残る日本の分水嶺のような国会であったといって過言ではない。弱い者に激痛を強いる小泉「改革」を継承・加速させるとともに、「戦後レジームからの脱却」を掲げ、「愛国心」を盛り込んだ教育基本法改悪や憲法9条改悪、憲法解釈変更による集団的自衛権行使容認などを主張し、戦争の加害の反省と尊く痛ましい被害の経験の上に立って手にした平和憲法と教育基本法を葬り去ろうとしている安倍新首相に対し、社民党はその危険な性格を浮き彫りにするとともに、「四大悪法」の成立阻止を目指して粉骨砕身・全力で闘った。

  2. 4日間延長された第165臨時国会は、元々9月26日から12月15日までの81日間の会期だった。与党は教育基本法・防衛庁省昇格法案を成立させるべく、最終日になって4日間の会期延長を数の力で強行した。社民党は、[1]憲法・国会法で会期延長は厳に戒められている、[2]延長するなら全会一致で行うべきで与党単独の会期延長は数の力の暴挙、[3]教育基本法・防衛庁省昇格法案の成立のための延長は理由なし、[4]延長4日間の合理的説明がない、[5]延長するならタウンミーティング問題や閣僚の問題発言・不祥事追及の時間を保証することを約束せよ等と主張し、延長に反対した。そして衆議院では、野党が共同して安倍内閣不信任決議案と麻生外務大臣不信任決議案を、参議院では、社民・共産で安倍内閣問責決議案を、野党が共同して伊吹文科大臣問責決議案をそれぞれ提出して最後まで闘ったが、残念ながら数の力の前に押し切られた。

  3. 日本国憲法と双子のきょうだいともいわれ、「教育の憲法」としての地位を確立してきた教育基本法が衆参共に与党の強行採決で改悪させられた。教育に関する基本法を非民主的手法で押し通そうとする政府・与党に、教育を語る資格はない。しかも、いじめや自殺、未履修問題など、教育現場や子どもの状況についての重大な問題も脇におかれ、政府主催のタウンミーティングにおけるやらせ発言や政府関係者の動員問題に加え、不適切な費用が支出されたことについて、「民意の偽装」に係わる疑惑の実態解明も不十分なままの採決は断じて許されない。

  4. 防衛庁を防衛省に昇格させることは、自衛隊を事実上、軍隊に格上げしようという憲法改悪の先取りにつながる。米軍と共に「戦える自衛隊」に向けた組織再編の本格化を目指し、新防衛大綱の具体化を着実に進めるものであり、民主党の賛成で成立が図られたことは残念である。外務大臣、防衛庁長官、与党幹部から、非核三原則を否定する発言や日本が核武装を検討するかのようにもとれる発言が続いている。安倍総理や塩崎官房長官も集団的自衛権をなし崩しで容認するかのような発言を行っている。こうした状況下で、防衛庁を省に昇格させようとすることは、日本の外交・防衛政策について誤ったメッセージをアジア、世界に送り、地域の緊張を高めることにつながる。

  5. 内心・思想・表現の自由を侵害し、近代刑法の大原則を破壊する共謀罪については、社民党の献身的な取り組みで多くの問題が山積していることが明らかになり、何度も採決の危機を食い止めてきた。与党側の執拗な審議入りの構えに対して、法案の数多くの問題点をアピールするとともに、野党共闘の結束を強め、審議入りを阻止することができた。まだまだ予断は許されない。法案の問題点、政府のまやかしを徹底的に暴露し、廃案に向けた取り組みをさらに強化していく。

  6. 憲法改正国民投票法案は、修正協議のアリバイ作りとも言うべき異例の小委員会が設置されて審議が行われた。社民党の指摘によって、憲法審査会の危険性や憲法国民投票運動規制の問題点、テレビCMや解説における公平性の確保など、さまざまな課題があることが露呈し、提案者自ら「欠陥法案」だと認めざるを得ないところまで追い込むことができた。残念なのは、それを奇貨として自公と民主の間の修正協議が進んでいるが、このような動きは論外である。最低投票率など、未だ議論すべき点は多々ある。社民党は、あらゆる観点から問題点を指摘し、改憲に向けたステップとしての国民投票法案を廃案に追い込むべく、国会の内外で奮闘する。

  7. 11月1日に期限を迎えたテロ特措法が延長された。「自衛隊の海外派遣ありき」の姿勢に立ちったものであって、その延長は、自衛隊の海外派遣を恒常化しようという危険な意図を感じざるを得ない。給油等の後方支援と言いながら、米軍などの軍事活動と一体化する懸念を払拭できないものであり、海上自衛艦をインド洋から速やかに撤退させることを求める。また、イラク特措法の基本計画も延長された。緊迫した地域に米軍の兵員や関連物資を移送することによって、戦闘に巻き込まれる危険性が増している。イラクは内戦状態だがバグダッド空港は非戦闘地域などという妄言を許すことはできない。社民党は、憲法上からも自衛隊のイラク派遣には一貫して反対してきたが、イラク問題について徹底的に検証するとともに、航空自衛隊の即時撤退を求めていく。

  8. 松岡農相らの政治とカネを巡る不祥事が発覚し、また法人税を払っていない銀行からの政治献金復活の動きが伝えられる中、外資企業からの献金規制を緩和する政治資金規正法等改正案が与党と民主党などの賛成で成立した。今回の外資規制の緩和は、国民の求めているカネのかからない清潔な政治の実現に背を向け、情報公開に逆行するものであり、大変問題の多い法案と言わざるを得ない。

  9. 金利引き下げまで3年を要するものの、出資法上限金利を20%に引き下げ、みなし弁済規定を撤廃する道筋をつけ、あわせて貸金業の過剰与信や過酷な取り立て等に対する包括的な規制強化を打ち出す画期的な貸金業規制法等改正案が成立した。日弁連や中央労福協などの運動の高揚の成果である。また、非営利・低利で融資活動している市民バンクが存続できるよう見直しを行うとの答弁・附帯決議も得られ、3年後の見直しについても、「上限金利引き下げ・みなし弁済規定撤廃といった法律の根幹部分は見直さない」との大臣答弁を得て、一定の歯止めをかけることができた。今後とも多重債務社会からの脱却に向けた取り組みを強化する。

  10. 障がい者の施設や居宅支援の利用に応益(定率1割)負担制度が導入された障害者自立支援法は、施設退所、作業所への通所断念、ホームヘルプサービス利用の制限などの形で、障がい者の生活を直撃し、生活破壊を引き起こしている。また、障がい者施設は、報酬単価の引き下げや日払い化によって、運営の継続が困難な状況に追い込まれている。さらに、10月からは、新サービス体系への移行、新たな障がい程度区分に基づく支給決定などが始まり、障がい者、家族、事業所への影響は、さらに深刻さを増している。社民党は、障がい者団体の皆さんとともに自立支援法の問題点を追及してきた。その結果、与党も非を認めざるを得なくなり、補正予算において、低所得者に対する自己負担軽減措置の追加や、障がい者施設への補助の増額など、自己負担を一時的に軽減する措置を導入する方針を決めるに至った。しかしまだまだ不十分であり、社民党は障害者自立支援法自体を見直すよう強く求めていく。

  11. 今国会、与党の数の暴力によって、いくつかの悪法の成立を許してしまったのは大変残念である。とはいえ如何に悪法を食い止めるかの観点で政府を立ち往生させ、審議ストップに追い込むべくここまで国会闘争を組むことができたのは、社民党が野党共闘の連帯の核となって奮闘したからである。毎週の野党国対での積極的な問題提起や幹事長会談、党首会談での時宜を得た提案、そして委員会の現場での社民党委員の奮闘が野党第一党を督励し、国会闘争を常にリードしたといっても過言ではない。

  12. 2007年は、激変にとらわれず、自らの信念と意志を持って状況を的確に見極め、猪のエネルギーを一気に爆発させれば、大きな飛躍となる年である。次期通常国会は、安倍内閣初の税制「改正」と予算案に加え、労働法制改悪案、社会保険庁問題、年金一元化問題など重要法案が山積している。継続となっている国民投票法案、共謀罪法案もいよいよ正念場の攻防が予想される。統一自治体選挙、参議院選挙を控え、まさに与野党激突の国会となる。社民党は、社会民主主義の旗を高く掲げ、党の主張を鮮明にするとともに、野党の連携・共闘を一層強化し、労働組合や市民運動との院内外の広範な共闘を進め、安倍内閣の悪政にストップをかけていく。そして「亥年現象」の参院選を勝利で飾るべく全力を挙げる決意である。

以上