2007年4月6日
放送法等の一部を改正する法律案の提出について(談話)
社会民主党幹事長
又市征治
- 本日、政府は放送法等の一部を改正する法律案を決定し国会に提出した。大きな焦点とされたNHK受信料の義務化問題は見送られたが、NHKガバナンスの強化、ねつ造番組を流した放送局への行政処分の新設、認定放送持株会社の導入、命令放送の見直しなど多岐の論点にわたる内容となっており、拙速な審議は認められない。
- NHKのガバナンス面の改革策として、経営委員会の監督権限の強化や一部委員の常勤化、外部監査制度、監査委員会の設置なども盛り込まれる。しかし、放送法を所管する行政当局が放送メディアのガバナンスに次々と介入しようとしてきてよいものかどうか。NHK自体の改革は必要だが、今回の手法は、政府の意向がNHKに強く反映される可能性がある。
- 大きな焦点として浮上してきたのが、行政処分の新設である。民放の番組ねつ造問題を受け、「虚偽の説明により事実でない事項を事実であると誤解させるような放送」をして「国民経済または国民生活に悪影響」を及ぼしたと認めた場合、総務大臣が放送局に対して再発防止計画の策定と提出を要求できることとし、提出された計画は総務大臣の意見をつけて公表する仕組みを導入しようとしている。当初検討されていた、業務改善命令などの強い行政処分は見送られたとはいえ、今回の制度についても、判断する主体が行政当局であり、権力が番組内容にまで立ち入ることになり、表現と報道の自由の侵害、公権力の乱用のおそれがある。
総務省は、新制度について、放送業界の第三者機関である放送倫理・番組向上機構(BPO)が自主的な再発防止策に取り組んでいる間は施行を凍結する方針であると説明しているが、条文自体は新設されることに変わりなく、伝家の宝刀として機能することがメディア規制の強化につながるものとして懸念される。ねつ造や「やらせ」番組等の不祥事については、あくまでも世論の批判とテレビ事業者及び放送業界の自浄努力に委ねるべきであって、政府や行政権力が安易に介入すべきではない。ねつ造の背景にある、番組外注とチェック体制の問題、放送局と制作会社、下請けプロダクション等の格差・上下関係の問題など、放送業界の構造的な問題にもしっかりとメスを入れ、視聴者の信頼回復を図るべきである。
- 地上デジタル対策として、認定放送持株会社を導入し、グループ経営をしやすくしようとしている。これによって、キー局と地方局、更にはBS、CSという系列のように、縦方向での「マスメディア集中排除の原則」が緩和され、民放キー局5社を中心にローカル局が番組・ニュースの提供を通じて緩やかに連携する系列放送網に再編を迫る可能性がある。しかし、「マスメディア集中排除の原則」は、地域の特性など多様な言論を保つために特定の企業が複数の放送局を支配するのを防ぐためのものであり、安易な緩和は禍根を残すといわざるをえない。
- 命令放送を要請放送とし、応諾義務も努力義務化する。しかし、実質的な中身は変わらない。NHKに対して、法的にも事実上も権力を持つ総務大臣からの要請となれば、条文の内容に関わらず、事実上の義務付けになり、報道の自由を侵害する懸念が残ることには変わりない。
- NHK受信料の支払い義務化は、NHKの受信料引き下げへの対応を見ながらということで今回は先送りになった。そもそも受信料不払い問題、未契約問題の解決のためには、受信料でNHKを支えようという視聴者の意識を培うNHKの努力をおいてほかに方策はない。国民に対し受信料の支払いだけを義務化して、契約者としての権利を与えないようなあり方は認められない。公共放送の根本に立ち返った論議を行っていくべきである。
- 拉致問題の命令放送に加え、NHK不祥事や「あるある大事典」問題を契機に、権力側がしきりにメディアへの介入を試みてくる安倍政権の手法はきわめて問題がある。放送法等改正案は、全体として政府・行政によるメディアへの権限が強まる内容になっている。日弁連や自由人権協会、民放連はじめ多くの専門家、メディア関係者、市民団体等から反対や疑問の声が寄せられている。政府・与党はこのことについて真摯に向き合い、慎重に取り扱うべきである。
以上