2008年6月11日

有害サイト対策法案の成立に当たって(談話)

社会民主党幹事長
重野安正

1.本日の参議院本会議で、有害サイト対策法案(青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律案)が成立した。青少年にとって、インターネット上には問題のある情報が氾濫している実態があり、青少年を保護するため、インターネット上の有害情報について何らかの対策が必要である。一方で、有害情報の流通自体は違法でないことにも留意する必要があり、言論や表現、報道の自由、受信する子どもの知る権利を損なうことのないようにする対応が求められていた。
 フィルタリングサービスの普及を重視している今回の法案は、当初検討されていた法案に比べ、当局による関与や情報規制の色合いが薄く、また罰則も設けられなかったことから、最終的に賛成した。

2.子どもの利用が最も多い携帯電話に関しては、大手四社が今年2月までにフィルタリングを原則導入しているが、業界は健全なサイトを認定し、フィルタリング対象から外すための第三者機関も設立している。そこで、社民党は、既に自主規制が実現しているのに、同様の規制を法律で強制する必要性はないのではないか、法規制という手段によって行うのではなく、まずは民間による自主的取り組みを尊重すべきではないかという立場で臨んできた。
 また、法制化やむなしとしても、有害は主体と文脈に依存する言葉で、基準があいまいであり、有害情報がいったん法律で規定されれば、事実上の情報規制を招く根拠ともなりかねない。したがって、有害情報かどうかの定義・判断については、憲法21条が保障する表現の自由の観点から、直接、間接を問わず国は関与すべきではないことなどを求めてきた。

3.本法案について、民放連や社団法人日本新聞協会などが懸念を表明しているように、言論、表現、報道の自由を脅かす心配がないわけではない。「例示」と、民間事業者の義務や努力義務、民間団体の登録制が組み合わさるとどういう状況になるのか、法の運用次第で国等の公的関与の余地を残す懸念がある。例えば、法案は第2条で「青少年有害情報」を「青少年の健全な成長育成を著しく阻害するもの」と定義し、3点を「例示」するにとどめたが、例示はあいまいで、青少年に悪影響のない情報まで遮断されかねないし、また「例示」としていることでかえって拡大解釈・恣意的運用の余地を生む危険性もないわけではない。
 第8条で設立を規定する「インターネット青少年有害情報対策・環境整備促進会議」、あるいは第24条で総務・経済産業大臣に登録されることになる「フィルタリング推進機関」を通じて、行政が自主規制に介入することはないのかという懸念は、過去に行政が行った放送や映画の自主規制に対する姿勢を鑑みると、払拭できない。国の基本計画や助成などは、表現への介入につながる懸念もある。
 第21条には、特定サーバー管理者が、青少年有害情報が発信されていることを知ったとき、「青少年閲覧防止措置」をとる努力義務が盛り込まれている。具体的な青少年閲覧防止措置としては、年齢認証システムの導入、セルフレイティングなどの措置が考えられるが、一方で、有害表現の発信自体を断念させたり、情報を削除させたりすることにもなり得る。成人に対しては許容される情報流通を、青少年保護を目的にした立法で制約する可能性については、充分な議論が必要である。
 第21条は努力義務であるため、特定サーバー管理者が刑事的に直接規制されることはないが、民事裁判において、特定サーバー管理者が管理するサーバーからの情報発信が争われた場合、責任の有無を問われる根拠になるおそれがある。努力規定とはいえ、有害情報の内容を法律で明文化し、広範な削除義務を課したことは萎縮を招きかねず、充分な議論が必要である。したがって、運用に当たっては、慎重さが求められる。

4.そもそも、実態を把握せずに、未就学児から高校生・社会人にいたるまでの18歳未満をすべてまとめて「青少年」として一律の規制のもとに置こうというのも乱暴な議論である。情報へのアクセス権を青少年にも保障する「子どもの権利条約」の趣旨にも反しかねない。フィルターをかけるかどうかは、保護者が理解した上で自主的に判断できるような選択肢を残しておくべきではないか。本来、さまざまな情報に惑わされて自分を見失うことがないように、ネット上の情報との付き合い方を体得する「ネット・リテラシー」を向上させるような教育政策こそ急務である。

5.デリケートな問題点や疑問点を多くはらんでいる法案を、社民党委員のいない委員会で、しかもほとんど審議時間を確保することもなく、拙速に国会を通過させて成立を図ることについては、きわめて問題が多いといわざるをえず、注意を喚起する。

以上