2008年6月20日
社会民主党幹事長
重野安正
1.1月18日に召集された第169通常国会は、条約の自然成立を待つべく、1回延長されたが、明日閉幕する。福田総理になって初めての通常国会だったが、国民のいのちとくらし、平和を守る社民党の存在が大きく問われる重大な国会であり、社民党は、歴史に残る国会として最後まで全力で頑張った。
2.2007年度補正予算案は、後期高齢者医療負担増対策、水田農業等緊急活性化経費にしても、政府・与党の強行した政策の欠陥を粉塗し、総選挙向けのまやかしにすぎなかった。しかも、原油価格高騰対策の最大のものが、自衛隊関係の油購入費差額分約124億円ということからも国民生活より防衛関係を優先していることは明らかであり、野党の反対で参議院で否決された(衆院の優越で成立)。
3.08年度予算案は、「生活者・消費者が主役」、「国民本位」といいながら、社会保障の自然増の2200億円のカットを継続するなど、構造改革を進めるとともに、格差の是正や国民生活の改善にはつながらないものであった。社民党は、1月25日に「緊急経済対策」をとりまとめるともに、1月31日には5兆円規模の「緊急国民生活対策」の実現を提起した。2月22日には、「地方」、「医療」、「雇用」の再生と「環境・地球温暖化対策」に大きく舵を切るための予算への組み替えを求め、「2008年度政府予算案見直しに当たっての考え方」をとりまとめ実現を求めた。しかし、福田内閣はあいかわらず冷淡な態度をとり続け、民主党も道路一本槍であった。審議もまだまだ不十分であったにもかかわらず、与党は、暫定予算回避を理由に議長あっせんを踏みにじり、2月29日、社民党はじめ野党が欠席する中、08年度予算案、国税2法案、地方税3法案の可決を強行した。
4.政府は、3月末に期限切れになる揮発油税などの暫定税率を08年度以降も10年維持し続け、59兆円もの道路整備を進める法案を提出し、一方、民主党は「ガソリン値下げ隊」を作って対決をあおった。社民党としても、党内議論の末、1月31日、「常任幹事会としての考え方」をまとめ、暫定税率を廃止の方向で見直すべきとの立場で、当たり前のように財源を確保し、惰性のように使い続ける既得権益構造に切り込んできた。審議過程でつぎつぎと、道路特定財源の非合理性や道路中期計画のでたらめぶりが明らかになった。社民党は、二度にわたる両院議長のあっせんを尊重して、早期に与野党協議の場を作ることを求め、4月になってようやく「道路政策・道路特定財源の一般財源化等に係る協議会」が設置された。しかし、与党は4月30日、衆議院本会議で国税2法案及び地方税3法案のみなし否決と再議決を強行し、5月13日の衆議院本会議で、社民党をはじめとする野党によって否決された道路整備費財源特例法改正案の再議決を強行した。結局、与党が政府案を再可決するために時間稼ぎに利用された感は否めない。
5.国家公務員制度改革基本法の政府原案は、公務員の労働基本権のあり方が「検討する」に後退し、また、T種試験の廃止の代わりに、総合職試験と幹部候補育成課程が設けられ、事実上キャリア温存の仕組みが残るなど、改革を骨抜きにし、旧態依然とした公務員制度を温存しようとするものでしかないといわざるをえないような数々の問題点を有していた。そこで社民党は、連合、公務労協など関係労働組合とも連携を密にして、逆転参議院の政治状況を背景に、政府案の大幅な補強・修正を求めて取り組み、社民党も加わった衆議院の修正では、@公務労働者の労働基本権について60年ぶりに芽出しをすることができた、A政官関係の透明化と責任の所在明確化のため、職員が国会議員と接触した場合は記録を作成・保存し、情報公開の徹底などの透明化で対応することになった、B定年を段階的に65歳に引き上げることを検討することになった、などの点で評価できるものとなった。縦割り行政や独善性・閉鎖性及び政官業の癒着を是正するとともに、国民全体の奉仕者として良質の公共サービスを提供できるようにすることこそ、公務員制度改革の大きな目的であり、ILO勧告を踏まえ、公務労働者の労働基本権を回復し、国民のための民主的で透明な公務員制度への改革を進めていく。
6.2月10日の夜、沖縄県で米軍による女子中学生に対する暴行事件が起き、3月23日、「米兵によるあらゆる事件・事故に抗議する県民大会」が開かれ、大きな運動が高揚した。03年7月に地位協定の改定案をまとめていた社民党は、今回の事件を契機に、地位協定九条の基地外居住についての見直しを行った改定案をまとめ、3野党の協議を進め、共同改正案をとりまとめた。勿論、問題の抜本的な解決には、米軍基地を撤去する以外にない。また、20年前の「なだしお」号の教訓が生かされず、2月19日の早朝には、房総半島沖で海上自衛隊のイージス艦「あたご」と漁船「清徳丸」の衝突事故が発生した。防衛省の一連の対応における数々の疑念・疑惑が募っており、もはや「国防組織」の体をなさない迷走と醜態であった。
防衛省設置法改正案は、廃案にすることができたが、あわせて防衛省改革の動きにも注意を払っていく必要がある。
7.昨年の改憲手続法の成立を受け、臨時国会で憲法審査会が設置されたが、現在に至るまでも凍結されている。そこで幾度ともなく、「審査会規程」の制定を協議するための衆参合同議運幹事会の開催の提案や、衆参両院の議員署名活動が行われた。社民党は、憲法審査会の始動を阻止すべくあらゆる努力を傾注した。また、憲法審査会の立ち上げに向け、「新憲法制定議員同盟」は民主党を役員に取り込むとともに、「新憲法制定推進大会」を憲政記念館で開催した。改憲国民投票法についても、予算が7200万円計上されたが、3年間は凍結なのに投票準備とは先走りだとして、政府の姿勢を追及した。自衛隊派兵恒久法を巡っては、自民党のPTが始動するとともに、自公民の若手・中堅議員でつくる「新世紀の安全保障体制を確立する若手議員の会」が活発に活動を開始した。残念なことに、1969年5月9日の「わが国における宇宙の開発及び利用の基本に関する決議」に基づき、「非軍事」で縛られていた宇宙の開発・利用が、「非侵略」に緩和する宇宙基本法が自公民によってたった4時間の審議で成立した。また、少年法改正案も自公民の修正によって押し切られた。
8.3月19日に任期が切れる日銀総裁・副総裁の同意人事が大きな焦点となった。社民党は、日銀の独立性、金融緩和のために巨額な国債を引き受け、アメリカのドル体制を支えるために、利子率を異常に低く抑える政策の反省・転換を求め、財務省OBや新自由主義的な学者の同意に反対し、結果として野党多数で不同意とした。また、再就職等監視委員会の委員長・委員についても、個々の委員候補者への評価ではなく、新人材バンクを前提とした再就職監視委員会の仕組み自体が必要ないとの認識から、反対し、不同意となった。
9.政府は、「最後の1人まですべての記録をチェックし、年金を払う」と公約していた年金記録問題について、3月14日、基礎年金番号と統合されず宙に浮いた5100万件の年金記録不備のうち4割(2025万件)は持ち主が特定できるめどが立っていないことを明らかにした。まさに公約違反であり、政府・与党の責任は極めて重い。社民党は、コンピューター記録の全容を公開し国の責任で解明すべきと要求するとともに、地域で社会保険労務士の人らとも協力して勉強会や年金相談会などを開き、国民とともに年金問題の解決に努力していく。
10.労働者派遣の規制緩和の行き過ぎに歯止めをかけ、労働者保護の立場から派遣業者に対する規制と責任を強化するため、社民党は2月13日に改正に向けた考え方をとりまとめ、4月17日に、労働者派遣法改正案骨子として発表した。野党4党の幹事長・書記局長は5月23日、労働者派遣法改正に向けた政策協議を始めることで合意した。政府も臨時国会への法案提出を予定しており、今後、野党の政策調整が焦点となる。「反貧困」の運動と連携を強化して取り組んでいく。
11.社民党は、後期高齢者医療制度の問題を大きな政治対立軸にすべく、強力に働きかけ、2月末に廃止法案を衆議院へ提出するとともに、5月23日、参議院にも廃止法案(「後期高齢者医療制度の廃止等及び医療に係る高齢者の負担の軽減等のために緊急に講ずべき措置に関する法律案」)を4党で提出した。法案は参議院で可決したが、与党は木に竹を接いだような「見直し」でごまかそうとしている。また、社民党は、「産声の聞こえるまちづくりPT」を設け、「お産難民」の実態を調査するとともに、困難な条件の中で奮闘する医師・助産師・市民、病院・自治体の具体的な取り組みを視察し、長野県などで一定の成果を上げている。引き続き総選挙に向けて積極的な政策提言をとりまとめ、医療政策の抜本転換を求めていく。
12.政府の社会保障国民会議は、年金を「税方式」に移行した場合、消費税換算で3・5〜12%まで4通りの引き上げの試算を公表し、福田首相も「決断の時期」と打ち上げるなど、急速に消費税率引き上げに向けた動きが目立っている。これらの背景には、09年度が基礎年金の国庫負担の引き上げの年であると同時に、道路特定財源問題を契機に、税制抜本改革の機運が出始めていることがある。まさにこの夏から秋が大きな勝負どころである。
13.7月には洞爺湖サミットが開かれるが、政府は危機感のない地球温暖化対策に終始している。社民党の「地球温暖化防止・環境税創設PT」は6月19日、京都議定書の目標達成、自然エネルギーの導入促進、キャップ&トレード型の国内排出量取引制度の導入、CO2排出抑制に効果的な環境税導入などを柱とする「地球温暖化防止戦略」をとりまとめた。社民党の主張を鮮明に訴えていくとともに、今後、野党政策協議等に反映させていく。
14.「ねじれ国会」にあたって社民党は、野党共闘の要としてキャスティングボートを生かした積極的な対応をとった。後期高齢者医療制度廃止法案のとりまとめや、地球温暖化防止対策の協議などを行った。しかし、最終盤、自公民だけの協議と合意によって、十分な審議時間もないまま重要法案が次々に成立させられた。国民生活に密着した課題や社民党・運動団体が求めてきたものもあったが、有害サイト対策法案のように、表現の自由や言論・報道の自由の観点から、もっと慎重な対応が求められているものもあった。社民党は、野党が協力して政府・与党を追い込んでいくという視点から野党共闘を重視するとともに、国会における審議権の保障の観点から、民主党に対し、強く抗議した。
15.社民党は、石破防衛相、鳩山法相、舛添厚労相ら、問題閣僚の問責決議をつぎつぎに出して福田政権を追い込み、総理問責につなげ、解散・総選挙を求めていこうという戦略を描いていた。何度もチャンスがあったのに、民主党はなかなか同調せず、大きく機を逸した感が否めない。結局、最終盤になって福田問責に至った。社民党は、福田内閣9か月を総括し、憲法を無視して国民の生活を苦しめる福田内閣を支持することはできない、として問責決議の共同提案に加わった。参議院での総理問責決議の可決は憲政史上初であり、一院が問責を突きつけた意味はきわめて重い。「ねじれ国会」と言われるが、国民と与党の間のねじれが問題であり、衆院山口補選や沖縄県議選示された民意は、国民が突きつけた問責であるといえる。秋の臨時国会は、テロ特措法改正案、労働基準法改正案、労働者派遣法改正案、雇用保険法改正案、行政不服審査法改正案、地方公務員法改正案など対決型の法案が目白押しとなる。憲法審査会の始動や自衛隊派兵恒久法の動きも警戒を怠ってはならない。また、辺野古の問題や米軍基地再編反対の闘い、原子力空母の横須賀母港化反対の闘いへの連帯と党の主体的な取り組みを一層強化していかなければならない。福田内閣に対する国民の怒りを踏まえて、今こそ攻勢を強めるときである。後期高齢者医療制度の廃止や年金記録問題、道路財源問題などで、地域に入って網の目のような「社民党が見える」活動を遂行していく。力を合わせて戦っていけば、情勢を必ず切り開くことができると確信している。
以上