2008年12月24日
社会民主党幹事長
重野 安正
1.本日の閣議で2009年度政府予算案が決定された。一般会計総額は前年度当初予算比6.66%増の88兆5480億円余りとなり、過去最大の規模となった。選挙を控えた族議員と省益を守ろうとする省庁の圧力で歳出増の大合唱となり、総選挙対策のバラマキによって、規模だけ大きくなった。政府は、今回の予算案を「生活経済防衛予算」と位置づけているが、国民の安心・安全を確保し、日本の将来の道筋を切り開くものとは到底言えず、本当に困っている国民の暮らしに届くものとなっているのか、疑問が尽きない。
2.麻生首相が3年後の消費税率の引き上げを財政責任だとこだわっていることもあって、予算と同時に決定された「中期プログラム」では、経済状況の好転を前提条件に、11年度からの消費税率引き上げが明記され、その道筋を09年度税制改正法案の付則に盛り込むことも決めた。まさに今回のバラマキと借金拡大の予算は、将来の消費税率引き上げの布石である。いくら歳出を拡大しても将来の増税とセットでは景気刺激効果はなくなってしまう。
3.今回の予算編成では、首相の指導力の低下と官邸の迷走ぶりが際だった。重要課題推進枠3330億円と調整財源200億円の配分に当たって、「麻生カラー」を打ち出そうとしたが、事前に「復活」・積み増しされる内容は固まっていたのが実態で、麻生首相のリーダーシップが発揮されたとはいえない。
4.「霞が関埋蔵金」から6兆円以上がかき集められたが、景気の悪化で税収が大幅減となり、国債の発行額は4年ぶりに当初予算で30兆円を上回り、地方の長期債務残高とあわせると800兆円の大台を突破し過去最悪を更新する見込みだ。政府これまでの財政再建路線との関係、今後の見通しをきちんと示す責任がある。
5.社会保障関係費は、基礎年金の国庫負担割合の2分の1への引き上げなどで、前年度当初予算比14.0%増の24兆8344億円となったが、将来の消費税増税を前提としていることは容認できない。雇用調整助成金の拡充なども盛り込まれてはいるが、予想を上回るスピードで急速に悪化している雇用対策としては不充分であり、応急的な措置にすぎない。医師不足対策や救急医療の充実など「医療崩壊」をくい止めるための手当も充分とはいえず、政府・与党が改革のシンボルとしてきた社会保障費の自然増2200億円の抑制も、つじつま合わせと一時しのぎで230億円に圧縮された。2200億円抑制の弊害は明らかになっており、目標自体の破綻を認めるべきである。社会保障支出の上積みの必要はいうまでもないが、全体的に急場しのぎにすぎず、国民に安心感を広げる内容になっていない。
6.公共事業は5.0%増だが、道路特定財源の一般財源化に伴う特殊要因を除けば実質5.2%減に抑えられている。焦点となった道路特定財源の一般財源化は、道路以外にも広く予算を使うことを目指したにもかかわらず、大きく後退し、「骨抜き」に終わっている。道路予算以外に使われることが明確になったのは、社会保障費600億円にすぎない。一方、地方バス・鉄道の維持・活性化への支援、LRT支援、離島航路の充実、地域公共交通活性化・再生総合事業の拡充など、過疎地や交通弱者の足を確保する地域公共交通の維持・活性化の推進については、上積みされたとはいえ、1.14%増の216億円にとどまっている。
7.地元の知事が建設反対を表明した川辺川ダム(熊本県)と大戸川ダム(滋賀県)の両事業について、地元の知事らによる反対表明を受け、本体工事に関連する設計、地質調査などの費用が認められなかったことは評価する。しかし、住民から反対の多い八ツ場ダムについて、初めての本体工事費として86億円を計上されたのは見過ごせない。国際熱核融合実験炉(ITER)関連施設の建設・運営費として60億円が盛り込まれたのも問題である。
8.整備新幹線の建設費(国費)は本年度と同額の706億円が盛り込まれ、自治体負担などを加えた総事業費は過去最高の3539億円となる。また、未着工3区間を対象とした着工調整費9億円が認められたが、選挙向けの政治圧力の果実であってはならない。
9.09年度からの理数教科の授業増に対して公立小中学校の教職員定数を純増800人したことなどは評価できる。他方、貧困が拡大する中、教育を受ける権利が十分保障されない子どもや学生が増える中で、就学援助制度の拡充や、家庭の教育費負担の軽減、学習困難児・生徒への支援など、裾野を広げ、国民の教育権を保障する視点はほとんど見られない。一部の「優れた」者に教育資源を集中し、グローバル化する国際競争に勝ち抜こうとする格差拡大型配分は問題だ。
10.農林水産関係予算は、一般会計の歳出額が増える中で、総額で前年度比マイナス6.7%、00年から9年連続でマイナスとなった。食料自給率の向上や担い手の育成・確保をはじめ、地域の農林漁業の再生、農林水産業を強化するためにも、予算を大幅に拡充し、早期に直接所得補償制度を導入すべきである。地球温暖化防止対策として森林吸収源3.8%の目標達成にむけて、1次補正予算268億円と当初予算352億円を合わせて追加整備(21.5万ha)に必要な予算620億円をかろうじて確保している。森林整備の重要性は理解されてはいるが、補正頼みの不安定な予算措置をやめて、毎年1330億円規模の予算計上を行うとともに川下での国産材の活用システムを構築すべきだ。
11.中小企業対策予算は、対前年度比でプラス7.3%となったが、その規模は一般歳出の50分の1でしかない。資金繰りの悪化など経営が行き詰っている現状からも大幅な予算の拡充が必要である。
12.機動的に景気対策を講じることを理由に、1兆円の経済緊急対応予備費を確保した。支出には原則事後の国会承諾が必要とはいえ、予備費の増加は予算支出での政府の裁量拡大につながることにも留意すべきである。
13.住宅用太陽光の発電の導入支援など公共施設への導入支援をさらに強め、自然エネルギーによる地域産業の活性化を図るため予算を拡充すべきである。低炭素社会づくりにむけた国内排出量取引推進事業は、企業の自主的な取組みに委ねることなく、事業所ごとにCO2排出量の上限をはめるキャップ&トレード型の本格的な導入をめざすべきである。水俣病総合関係対策費については、患者が求めている不知火海沿岸の健康や環境など被害実態の調査を直ちに行い、被害者の救済を第一とした恒久的な救済制度を構築すべきである。
14.防衛関係費は7年連続の減少となった。しかし、護衛艦2隻の建造費、CH47ヘリ4機の追加購入や防弾板整備などは、アフガニスタンへの自衛隊派遣を見込んだ装備の可能性がある。在日駐留米軍経費負担(思いやり予算)は、前年度に比べ156億円減となったが、在日米軍再編関係経費は08年度当初の3.6倍になった。苦しい財政事情の中、従来型の装備費等は縮小される傾向が強まっているが、米国から求められるものは増加しており、今後、米軍再編が本格化する中で、米軍関連の負担が膨大なものにふくれあがる可能性がある。
15.「骨太の方針2006」により、ODA予算は09年度も全体で「前年度比2〜4%減」を強いられる。世界的な経済危機で貧困層の増加が懸念されることから、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)など国際機関への拠出を拡大する必要があるが、決して十分とはいえない。
16.地方税及び譲与税収は、企業業績の低迷や地域経済などの悪化に伴い、08年度当初見込み額に比べ大幅な減収が見込まれ、下落率も地方財政計画のデータがある68年度以降で最悪となっている。そうした中、地方交付税の役割が重要になってきており、社民党としてもその復元・増額を求めてきた。麻生首相も1兆円の増額を指示した経緯があるが、結果は、一般会計から交付税特別会計への支出額(特例交付金を含む入口ベース)全体では08年度比9597億円増の16兆5733億円となったものの、特別会計から自治体への出口ベースの交付税配分額でみると、4100億円増の15兆8200億円にとどまった。雇用対策や公立病院支援、少子化対策などに取り組む地方への配慮も一定うかがえるものとなっているとはいえ、赤字地方債である臨時財政対策債が81.7%増の5兆1500億円程度となるなど、借金頼みのやりくりは限界にきている。国・地方の税財政関係の抜本的見直しが必要である。
17.自公政権によるつじつま合わせの予算はもう限界だ。社民党は、国民のくらしに応え、将来をみすえた予算となるよう、格差是正や国民生活擁護、将来不安の解消の立場から党独自の組み替え要求を取りまとめ、税制及び予算の審議に臨み、国民の審判を無視する政府・与党を追い込んでいく。
以上