2009年4月23日

海賊対処法案の衆議院通過に反対する(談話)

社会民主党幹事長
重野安正

 本日、衆議院本会議で、「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律案」の採決が行われた。社民党は、ソマリア沖・アデン湾を航行する商船の安全の確保は必要であり、これまで海上保安庁が積み重ねてきた経験を生かすべきだとの立場で臨んだ。

 しかし、政府与党は「最初に自衛艦の派遣ありき」という主張に終始し、法律に多くの問題点と矛盾があることを糊塗するため、十分な審議をさせなかった。また既存の法律の拡大解釈で自衛艦をすでにソマリア沖・アデン湾に派遣しておいて、そのあと泥縄式に法律をつくるという政府与党の手法も糾弾する。自衛隊の恒久的な海外派兵につながる重要な問題であることから、社民党は以下の理由で法案に反対した。

 1. 海上保安庁と自衛隊の役割の分担が不明確である。海賊対策は第一義的に海上保安庁の任務としながら、防衛大臣が「海賊対処行動」を発令し自衛隊が出動できる構造となっている。司法警察制度に対する自衛隊の過度の介入といわざるをえない。

 2. 海賊の定義が十分ではなく、海賊行為の構成要件があいまいである。海賊行為の構成要件を定めるにもかかわらず、行為に着目した定義しかない。海賊ではない者が、法案が規定する「海賊行為」を行なった場合はどうなるのか、不明である。

 3. 海賊行為に対する刑事手続の規定がない。ソマリア沖で海賊容疑者を拘束した場合の刑事訴追の手続について十分な検討が行なわれていない。ソマリア沖の海賊行為を日本国内の刑事司法の枠組みの延長線で処罰することが現実的とはいえない。

 4. 海賊対処法は、これまで自衛隊が海外に派遣される場合に認められなかった「任務遂行のための武器使用」を認めている。警察権の行使を名目に、任務遂行射撃を定着させる一歩となり、いずれは海外派遣恒久法にこの枠組みがスライドされていくことが危惧される。

 5. 自衛隊を抑制するためのシステムが不在である。自衛隊が海賊対処行動を行なう「特別の必要がある場合」の判断基準があいまいであり、国会の承認の規定もない。海賊対処は自衛隊の海外活動のなかで最も武器使用の可能性が高いと考えられる活動であり、国会の事前承認などの制度を組み込むことは不可欠である。

 6. 本法案の立法にあたっては、専らソマリア沖を想定した議論しか行なわれていないにもかかわらず、法律の形式があらゆる海賊行為に対応できる恒久法となっている。海賊は「海あるところ海賊あり」ともいわれる普遍的な犯罪行為であることを考えれば、「海賊対処」を名目に海上自衛隊が将来にわたって海外で活動し続けることともなりかねない。また、海賊対処行動による派遣の対象は必ずしも海上自衛隊の艦船に限られず、陸上自衛隊や航空自衛隊の部隊が含まれる可能性もある。海賊対処を名目に、自衛隊が何の歯止めもなく、自由に海外に展開できることになる危険性がある。

 海上警備行動で出した護衛艦はいったん日本に帰したうえで、海上保安庁を軸に再検討して、日本が行なうべき海賊対処の方針を抜本的に仕切り直すべきである。本法案は廃案とすべきであり、社民党は参議院において法案の問題点を解明していく。

以上