社会民主党党首
福島みずほ
本日、参議院本会議において、2009年度補正予算案の採決が行われ、社民党は反対した。参議院は野党が多数であり否決したが、衆議院の議決を国会の議決とする憲法の規定により成立した。09年度補正予算案は、規模も約13.9兆円と巨額であり、内容的にも様々な問題点・論点を含んでいる。「大洪水よ、わが亡きあとに来たれ!」とばかりに、国民の血税を政権延命のためにばらまく、国家予算を使った選挙向けの「大型買収」ともいうべき補正予算案である。社民党はじめ野党は、十分な審議の実施を求めてきたが、与党は一貫して「ぼろが出るのを隠そう」といわんばかりの強引な運営に終始した。補正予算案の問題点は、以下のとおりである。
(1)事業規模75兆円ものいわゆる「3段ロケット」の対策を打ち出し、2009年度予算の成立こそ「最大の景気対策」と強弁していたにもかかわらず、過去最大規模の超大型補正予算案の提出は、当初予算の欠陥をあらわにするものである。
(2)今の危機的な経済状況をもたらした、小泉・竹中改革路線の破たんに対する真摯な反省もないままに、「蝶蝶(兆兆)」が飛んでいるとばかりに、ドンドン水ぶくれし、党利党略的な施策や、大企業・富裕層優遇、業界支援策が多く盛り込まれたものとなっている。
(3)GDP2%押し上げというが効果に疑問がある。総花的バラマキで、実効性が上がるのか。確かに必要な施策も含まれてはいるが、必要なものならば本予算に組み込めばよく、突然「景気対策」として出すのはおかしい。かえってインパクトが薄まるのではないか。買い替え需要を喚起しても、家計の所得が減少している現状では、他の支出を削って振り替えるだけで、個人消費全体を底上げする効果は限定的。また、ここ数年の需要喚起の後は大幅な需要減がおそってくる。補正予算案の財源確保のため大量発行する国債が、景気回復の足を引っ張る可能性もある。将来の消費税率引き上げが控えていて、いまの財布のひもがゆるむのか。
(4)民営化路線の破綻への反省がない。経済対策で融資枠が増える政府系金融機関に対し、財務基盤の強化のために増資が行われる。民間金融機関の貸し渋りを肩代わりさせている日本政策投資銀行の融資・保証・出資枠の拡大は、新たな国民負担を招くおそれがある。日本政策投資銀行と商工組合中央金庫の「完全民営化」もなし崩しに3年半延期される。この間の政府系金融機関の民営化の行き詰まりを意味する。
(5)子育て応援特別手当の拡充など選挙に向け、世論受けする場当たり策が多い。医師不足対策や後期高齢者・障がい者などの負担軽減策も制度の抜本改正には踏み込んでいない。失業者の職業訓練・生活費支援が行われるが、時限的な措置にすぎない。
(6)研究開発減税、大企業向け融資枠の拡充、民間再開発事業の公的資金による支援、世界的にも異例な政府保証をつけて最大50兆円で株式を買い取る政府機関の新設、贈与税非課税枠の拡充など、大企業・富裕層優遇が目白押しである。飲食店活性化策として、中小企業の交際費課税を軽減するというが、接待をする余裕がある状況なのか。
(7)環境対策や「ワイズ・スペンディング」(賢い支出)は名ばかりである。「目玉」策のエコカーやエコポイントも、自動車業界や家電業界の要望に応えたもの。底力発揮・21世紀型インフラ整備と称して、抑制してきた従来型の大型公共事業が増やされる。「国土のミッシングリンク」結合として、首都高速中央環状線、東京外かく環状道路、首都圏中央連絡自動車道といった環境面などから問題の多い事業も進む。
(8)省庁は「干天の慈雨」というが、国民にとって無駄な事業が盛りだくさんである。役所の施設や建物関係の「その他施設費」が当初予算の4倍以上増やされた。アニメやマンガ、ゲームに関する展示を行う「国立メディア芸術総合センター」は、緊急性があるのか。自衛隊の海賊対策費や、「社会保障カード」の導入、街頭防犯カメラ、拉致問題関連情報の収集経費まで、もっけの幸いとばかりに予算が付けられている。
(9)総額4.3兆円にのぼる46種類もの基金が作られる。単年度では消化困難なほどの予算が計上されてしまったことを象徴。基金名や事業の詳細が決まっていないものも多い。実は、基金など複数年度にわたって使うものをその時に配分すれば、補正に伴って新たに発行する国債の利払い費768億円も不要になる。
(10)大盤振る舞いの財源は、「霞が関埋蔵金」の一部が充当されるものの、多くを建設国債・赤字国債に頼ることになり、財政規律もあったものではない。補正予算案は大半が国債発行でまかなわれ、追加発行額は10兆8190億円(建設国債7兆3320億円、赤字国債3兆4870億円)となっている。日本の人口一人当たり約8万5000円の借金が増えたことになる。一般会計の総額は補正によって102兆円を超えるが、税収を上回る44.1兆円が国債であり、歳入に占める国債発行額の割合は43.0%と、戦後最悪になる。2009年度末には国の債務残高だけで、初めて900兆円を突破する見通しであり、「世界一の借金王」と自嘲した当時の小渕首相も「びっくり」する異常事態である。しかも今回の国の補正予算に伴う公共事業、施設費等の地方負担額は1兆4426億円と試算されているが、全額将来の地方交付税で措置されるとはいえ、補正予算債という地方の借金が増えることになる。
(11)この史上最大規模の対策のツケを将来の消費税率引き上げで国民が払うことになる。麻生首相は「景気回復後、消費税を引き上げる」と述べており、与謝野馨財務・金融・経済財政相も「たくさん(お金を)使ったので、それを取り戻す必要がある」と発言している。
(12)政府は、今年度の実質成長率の政府経済見通しを当初の0%からマイナス3.3%へと大幅に下方修正し、2008年度分もマイナス0.8%からマイナス3.1%とした。しかしこれに伴う税収の減額補正はなされていない。すでに08年度の国の一般会計の税収が補正予算を3年連続で下回ることが、ほぼ確実になっており、09年度の税収も30兆円台後半から40兆円台前半に落ち込む見通しにもかかわらずである。国債発行を小さく見せるための「粉飾疑惑」がある。
社民党は、以上のような観点の下に本予算と補正予算の執行状況を厳しくチェックし、政府の予測した効果をきちんと検証していく。さらに、格差是正に資する内需拡大策や、「改革」の名によって壊された社会保障制度の再生、環境分野をはじめ将来を見据えた産業育成・雇用創出策を求めていく。
以上