2009年6月23日

「基本方針2009」の決定に当たって(談話)

社会民主党幹事長
重野安正
重野安正

1.政府の経済財政運営の指針となる「基本方針2009」が本日の臨時閣議で決定された。「安心・活力・責任」とはいっても、総じて各省の施策を寄せ集めて並べただけである。たとえば成長力強化の部分も、この間の経済対策で提起されているものばかりで新味に乏しい。「安心」の部分も、15日にとりまとめられた「安心社会実現会議報告」の中からつまみ食い的に盛り込まれているだけで、具体的な方策・財源も明らかではない。もはや相次ぐ補正予算によって、予算編成におけるシーリングとしての意味もなくなっており、骨太方針自体の必要性が問われている。経済財政諮問会議の位置づけやあり方についても、廃止も含め抜本的に見直すべきだろう。

2.「基本方針2009」では、「安心社会の実現に向けた、社会保障制度や行政への信頼を回復・強化」、「雇用を軸とした生活安心保障の再構築の推進」が打ち出され、以前の「基本方針」とは趣を異にしている。「安心」を国民が求めていることもその通りであるし、深刻化する格差・貧困や少子化問題に本腰で乗り出すのは当然である。むしろ遅すぎたくらいである。また、提起されている項目の中には、私たちの主張に近いものも多い。

3.こうした中、「基本方針2006」に基づく社会保障費自然増の2200億円抑制の扱いが焦点となったが、「安心・安全を確保するために社会保障の必要な修復をする」との文言を追加しただけに終わり、大枠としては、「基本方針2006」の方針が堅持されている。しかも与謝野大臣は、「基本方針2009」決定後の会見で、「(「基本方針2006」は)別表で5年間に1兆1000億の削減を自然増の中からしていこう」というものであって、「2011年に累積して自然増を1兆1000億抑えるということについては、『2006』が別に変わっているわけではありません」と述べているように、2011年度以降に大きく削減される余地を残している。

4.結局、「基本方針2009」は、安心や雇用を重視するとはいっても、総選挙を控えて、なし崩し的に「構造改革」の矛盾に対応を迫られているという感じである。国民が感じている不安や痛みに直接応えたものになっていないし、何よりも雇用や暮らしを破壊し、社会保障の機能不全をもたらし、国民の「安心」を壊してしまった「構造改革」を遂行してきた、政府・与党の政策の検証も総括も反省もみられない。格差・貧困問題に本気で踏み出し、「安心」社会を目指そうというのであれば、この間、「改革のシンボル」とされてきた社会保障費の自然増の抑制が、医療崩壊をはじめとする社会保障サービスの後退と「安心」の切り捨て、社会的弱者へのしわ寄せをもたらしてきたことを猛省すべきである。まず「後期高齢者医療制度」の廃止や、「障害者自立支援法」の抜本見直し、生活保護の母子加算の復活など、この間の「構造改革」によって削減された分を取り戻していく必要がある。

5.しかも「責任」の名の下に透けてみえてくるのは、消費税率のアップである。財政試算では、「基本方針2009」において新たに設定された財政目標達成のためには、2017年度までに消費税率の12%程度への段階的な引き上げが避けられないとの見通しであり、「安心」感もあったものではない。少なくとも「骨太」と言われるためには、歳出削減と消費税増税ありきの固定した発想にとらわれるのではなく、歳出の大胆な組み替え、所得税や法人税、相続税・贈与税などの所得再分配的課税の強化、環境税の導入など、公正な税制に向けた論議が求められるのではないか。

6.そのほか、「基本方針2009」において、「防衛」の項目が初めて独立して置かれたこともあって、北朝鮮を念頭においたミサイル防衛(MD)システムの整備、自衛隊の「任務の多様化・国際化」への対応を図るための「人的基盤や情報機能の重要性」への言及とともに、防衛計画大綱の修正に踏み出していることに警戒すべきである。原案にはなかった「真に必要な防衛生産・技術基盤の確立に努める」との表現も、防衛費削減の影響を受けている防衛産業への配慮であり、社会保障自然増の抑制からの「転換」どころか、防衛費の削減傾向からの転換すら目指されている。「米軍再編関連措置を着実に進める」とされ、米軍再編関係は事実上聖域化されているのも問題である。「スクール・ニューディール」についても、その延長線上に学校教育における「原子力の浸透」があることを見落としてはならない。また、「社会保障番号・カード」も、拙速な導入は問題が残り、プライバシーの観点をはじめ、国民的議論をもっと深める必要がある。

7.総選挙による与野党逆転・政権交代への国民の関心が大きな盛り上がりを見せる中、来年度予算編成の方向性について、現自公政権が決めつけ、「縛り」をかけることは政治的にも疑問の余地がある。「信なくば立たず」(「安心社会実現会議」の議事録より)であって、政治に対する国民の信頼がないと、たとえ制度設計が優秀であっても実現できない。いずれにしても、今回の「基本方針2009」をめぐる自民党内の混乱は、「衆議院選挙に勝てないから」という意見に押されたものであり、総選挙目当てのポーズにすぎない。「構造改革」の推進も転換も修正も自民党では行き詰まっているのが「基本方針2009」の実態ではないか。必要なことは、国民の信のない麻生自公政権の交代による構造改革路線自身からの決別である。社民党は、早期解散・総選挙によって、与野党逆転を実現し、「いのちを大切にする政治」、「平和で豊かな福祉社会」への政策転換を求めていく。

以上