2011年8月31日

第177回通常国会を終えて(談話)

社会民主党
 幹事長 重野安正

1.1月24日に召集され、その後70日間延長された、会期220日間の第177回通常国会が本日、閉会した。菅再改造内閣は、法人税減税で大企業優遇施策を強化し、消費税増税を企図した税と社会保障の一体化、TPP問題に見られるような輸出主導の経済成長政策、「日米同盟の深化」など、新自由主義と官僚主導、対米依存回帰の傾向を次第に強め、「国民生活が第一」から乖離してきた。社民党は、「生活再建」を願う国民の声を代弁する羅針盤として、1年半前の国民への公約である連立政権合意10テーマ33項目の実現を基本に、政府の施策をチェックし、協力するもの、歯止めをかけるものを鮮明にして、政策論争に臨んだ。

2.2011年度予算については、政府・民主党と協議を行い、医療や介護、年金、子育て支援、雇用対策の強化、地方交付税の増額、JR三島・貨物会社支援や並行在来線支援などをはじめ、わが党の主張を相当程度盛り込むことにより、「生活再建」の前進に一定の役割を果たしてきた。一方で、法人税の扱いや成年扶養控除の廃止問題、沖縄基地関連予算・「思いやり予算」の取り扱いなどについては一致できなかった。その後、予算審議の段階において、法人税5%減税、成年扶養控除の縮減、沖縄の基地関連事業など、6項目の修正項目を提示したが、民主党からは「ゼロ回答」であったこともあり、最終的に2011年度予算案には反対した。

3.3月11日14時46分、三陸沖を震源とするマグニチュード9の巨大地震・東北地方太平洋沖地震と大津波が発生し、東日本の広範な地域に未曾有の被害をもたらした。社民党は地震発生の直後、福島党首を本部長に「東日本大震災対策本部」と「原子力発電所等事故対策本部」を設置するとともに、吉泉衆議院議員を本部長とする「現地対策本部」も山形に設置し、東北各県連合と連携した支援体制を組んだ。党は、随時、対策本部を開き、被災地の復旧・復興と被災者の生活支援、原発事故の速やかな収束と原子力政策の見直し、風評被害への補償など、被災者や放射線被曝の不安を抱えるすべての人々の命と健康を守るための提言をまとめ、政府および東京電力に要請してきた。

 他方、「各党・政府震災対策合同会議」や、その下の「実務者会合」でも、阿部政審会長を中心に、原発事故対応や復旧対策、仮設住宅、燃料・物資の供給、ボランティア、自治体支援、雇用対策、計画停電などのテーマについて、現地から寄せられた声をもとに精力的に提言を行い、意見反映に努めた。

 その後、衆参両院に復興特別委員会が設置され、復興基本法案をはじめ、がれき処理法案、放射性廃棄物処理法案など、復旧・復興関係の各種の特別立法の制定に尽力するとともに、原発事故の状況把握、事故原因究明に努めた。

 東電の原発事故被害の賠償を巡って、政府案については、東電の責任追及が不十分なまま、東電を救済しようとするものであること、原子力事故収束にかかる費用が国の支援の対象とされて国民の負担を転嫁していること、原子力の稼働を前提としていることなどから、原案・修正案に反対をした。

 第一次補正予算及び第二次補正予算については、被災者の生活支援と被災地域の復旧に向けたきわめて緊急なものであり、不十分ではあるものの速やかに成立させ執行すべきという立場から、社民党は賛成した。

 今回の災害と事故は、「成長神話」、「安全神話」を掘り崩し、政治・行政・経済・社会のありようそのものの大転換を迫っている。被災地との連携を深めて、エネルギー政策の転換、未来志向の「人間復興」に向けた取り組みを進めていかなければならない。

 東日本大震災の支援のため、多くの国民がNPOの活動支援等に対し寄附を行っているが、現場からは税制優遇の無い状態での今後の支援の継続性に不安の声があがっていた。そうした中、NPO法の抜本改正案と、寄付金の税額控除方式の導入など新しい寄付税制が盛り込まれた税制関連法案が成立した。東日本の復興、日本全体の寄付文化の促進につながるものと期待される。

4.東京電力福島第一原子力発電所の事故は収束を見せず、放射能汚染と風評被害は拡大の一途をたどっている。国政レベルで唯一、「脱原子力政党」として原発の危険性について指摘してきた社民党は、緊急要請を間髪入れず行ってきた。さらに、放射能汚染水の海洋への放出や学校内での被曝線量の制限、浜岡原子力発電所の停止と自然エネルギーへの転換などについても働きかけてきた。5月25日、あらためて脱原子力の社会を目指すための考え方を整理し、「脱原発アクションプログラム〜2020年までに原発ゼロ・2050年には自然エネルギー100%に〜」にとりまとめて発表した。また、7月1〜2日にアテネで開催された社会主義インター理事会では、福島党首が基調演説を行うとともに、理事会として社民党の提案を盛り込んだ、「フクシマの教訓と原子力エネルギーの未来に関する決議」を採択した。

5.菅首相は、5月6日夜、静岡県の中部電力浜岡原子力発電所にあるすべての原子炉の運転を停止するよう中部電力に要請したことを発表した。その後、「原発の再稼働にはストレステストが必要」(7月6日)、「原発に依存しない社会を目指すべき」(7月13日)などの方向性を示し、さらに8月8日、服部議員の質問に答え、「使用済み核燃料再処理工場の見直しや、高速増殖炉原型炉もんじゅの廃炉も含め検討を進めるべきだ」と答弁した。また、保安院を解体し、原子力安全庁の設置を閣議決定した。脱原発・自然エネルギー転換への道筋が継承されるかが今後の焦点である。

6.アメリカ議会の有力議員らから、現行の日米合意案への疑問が出される一方で、「嘉手納統合案」及び「国頭村安波案」が急浮上してきた。社民党は、5月22日、これらの案に対し、強い反対の意思を表明するため、沖縄選出の照屋議員・山内議員の連名で、「緊急声明(−あらゆる県内移設案を拒否し、普天間飛行場の即時閉鎖・返還を求める−)」を出した。また、「沖縄振興検討委員会」を設置し、7月6日、具体的な政策提言を盛り込んだ、「『新たな沖縄振興』に関する提言」をまとめ、官邸に実現を申し入れた。

7.社民党は、林野労組と協力しつつ、日本の貴重な森林を活用した持続可能な森林・林業、木材関連産業の構築を図るとともに、地域(山村)振興と地域林業を再生することにより、山村地域における福利を高め、森林・林業に希望と安定をもたらすよう、5月25日、「森林・林業の再生にむけた提言」を行った。

8.6月3日、公務員制度改革関連法案が提出された。労働基本権の一部である協約締結権を認めることは、一歩前進には違いないものの、本来、労働三権は一体で回復されるべきである。地方公務員の労働基本権や消防職員の団結権問題も残されている。社民党は、憲法とILO勧告に沿った労働基本権の回復、国民のための民主的で透明な公務員制度の確立にむけて奮闘する決意を新たにするものである。他方、震災を通して、構造改革路線の誤りと公務公共サービスの重要性が改めて明らかとなっている中、人事院勧告制度を無視した格好で公務員の給与カットのための法案が提出された。今回の引き下げは、デフレ脱却・景気浮揚に逆行するもので、消費税増税の地ならしのための給与カットでもあり、廃案を目指して取り組み、最終的に継続審議になった。見過ごされてきた、警戒区域内で屋外作業に従事している自治体職員の被曝の問題や、長期にわたる原発被災住民の生活及び自治体再建の課題についても委員会で追及し成果を上げた。

9.6月2日、自民党や公明党、たちあがれ日本の3党の内閣不信任決議案は否決された。社民党は、菅内閣は信任には値しないが、復旧・復興、原発事故の一刻も早い収束を図るべきこと、自公両党が政権復帰を狙い、民主党内の権力闘争があいまって出された「国民不在の不信任案」であることから、衆議院本会議で「棄権」という選択をした。その後、6月22日の会期末を控え、社民党は、未曾有の東日本大震災への対応及び収束の兆しを見せない深刻な原発事故対応に待ったなしと言われる状況において、会期を延長してでも復旧・復興対策や原発対応の論議を尽くすべきであること、労働者派遣法改正案及び郵政改革法案の成立を図ることなどのため、会期延長を求めた。民主党の迷走によって、会期最終日を迎えて延長幅をめぐる混乱が続くという、前代未聞の事態に至ったが、6月22日の衆議院本会議で、会期が70日間延長されることが決まった。

10.昨年の国会で審議され、参議院では可決したものの、継続審議となっていた、地方自治法の一部を改正する法律案、国と地方の協議の場に関する法律案、地域主権改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律案(第1次一括法)が自公民の修正を経て4月28日に成立した。終盤国会になって提出された、第2次一括法案も成立した。第1次一括法は、全国一律に法令で縛る「義務づけ・枠付け」を緩和するものであり、また、第2次一括法は、加えて都道府県から市町村への権限移譲を進めるものである。現場の人員マンパワーやノウハウの蓄積、専門職員の配置、財源対策などの市町村の体制整備や都道府県・国の適切な支援が不可欠である。義務付け・枠付けの見直しについても、ナショナルミニマムの後退や基準自体の緩和にならないようにする必要がある。自治体レベルの取り組みを強化し、「官官分権」や「上からの押しつけ分権」ではなく、住民に根ざした分権・自治の運動を盛り上げていく。

11.1987年から四半世紀に及んだJR不採用問題について、社民党は政治解決に向けた努力を粘り強く続けてきた。昨年の和解に続く残された課題である雇用問題については、6月10日、3党幹事長連名で大畠国土交通大臣宛の雇用問題の要請書を提出することになった。しかし、JR各社は最高裁判決を盾に、不採用者の雇用を拒否した。国労及び運動体も苦渋だが終結の判断に至った。こうした結末になってしまったのは、あまりにも残念である。また、並行在来線問題については、今回の国鉄清算事業団債務処理法改正で、貨物調整金の拡充が図られることになった(10年間、上限1000億円)。引き続き、並行在来線対策の一層の強化、震災で被害を受けた第三セクター鉄道への支援などを求めていく。さらに、運輸振興助成交付金制度について、交運労協関係の組合等から、継続・法制化の要請も受けてきたが、今回、自民党案と民主党案を一本化し、委員長提案で運輸事業の振興の助成に関する法律案が成立した。

12.選挙制度改革について、社民党としても「選挙制度PT」を設置し、取り組みを進め、6月1日、「衆参選挙制度改革に対する社民党の態度」をとりまとめた。その後、参議院の選挙制度の具体案について協議し、8月10日、@現行の定数は維持、A全国単一の比例代表選挙と地域代表を加えた現行の選挙区選挙は維持、B選挙区選挙について従来の各県単位を全国11ブロック単位に広げることを内容とする「参議院選挙制度改革について」をまとめた。

13.地球温暖化対策・自然エネルギー推進についても、地域ごとの特性に応じた各自治体の取組みが求められている。自然エネルギーは、分散型の設置であり、地域の資源を活用し、地域密着型の雇用、資金の流れを生み、成果が地元に還元される、地域への投資であり、エネルギーの地産地消は地域経済の活性化にもつながり、地域づくりに大きく貢献する可能性を秘めている。それぞれの地域資源(豊かな自然環境、再生可能なクリーンエネルギー、安全で豊富な食料、歴史文化資産、志のある資金)を最大限活用する仕組を、自治体と市民、NPO等の協働・連携により創り上げ、地域の活性化、絆の再生を図ることにより、中央集権型の社会構造を分散自立・地産地消・低炭素型に転換することが、「地域の自給力と創富力(富を生み出す力)を高める「地域主権型社会」の構築につながる。社民党は、「地域からエネルギーシフト!」を実現すべく、先頭に立っていく。

 8月26日、社民党が自然エネルギーの全量固定価格買取制度の実現や、脱原発へのエネルギーシフトを急ぐ観点から、成立を求めてきた、「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法案」が修正の上、参議院本会議で全会一致で可決・成立した。制度の詳細は、多くが省令に委ねられているが、経済産業省による「骨抜き」、後退を許してはならない。

14.小泉構造改革路線、対米追従路線からの転換こそ必要なのに、菅政権は、政権交代の原点を忘れ、財界やアメリカにおもねった政策展開を行ってきた。8月4日、来年度からの「子ども手当」の廃止で合意し、8月9日には、マニフェストの主要政策を見直し・撤回で合意した。「法人税減税を含む税制改正法案」、「復興債財源」、「年金財源」、「三次補正」や2012年度予算も三党で検討・協議することとされており、事実上の大連立と変わりがない。多くの国民が期待した政権交代への裏切りであるとともに、「国民生活が第一」を掲げた民主党そのものの否定である。また、衆・参両院で事実上9割以上の与党化と少数政党軽視を招き、国会審議の形骸化につながる。2009年の政権交代時の原点に立ち戻るとともに、社・民・国の三党合意を遵守すべきである。

15.6月2日、菅首相が民主党の代議士会で、東日本大震災の復興や福島第1原発事故の収束に「一定のめど」がついた段階で退陣する意向を示し、その後、第二次補正予算に続いて、8月26日、退陣3条件の残りの公債特例法案、再生エネルギー法が成立したことを受けて、菅首相は正式に退陣を表明した。29日、野田財務大臣が新代表に選ばれ、30日の首班指名選挙で、第95代内閣総理大臣に指名された。野田新首相は、税と社会保障一体改革の実現や消費税率の引き上げに言及し、日米同盟を基軸とし、普天間飛行場の辺野古への移設という日米合意は継承するとしている。また、点検中の原発についても再稼働させる方向である。A級戦犯発言など、歴史認識も心許ない。あわせて、自民・公明との大連立を志向している。すでに社民党などの反対にもかかわらず、民・自・公三党の協調によって、参院でも憲法審査会規程が制定された。大連立や三党協調体制の強化に、毅然と対決していかなければならない。

16.被災地では、あらゆる場面での「人間復興」を目指した取り組みが求められている。二重ローン法案や国会における事故調査委員会設置法案の制定は急務である。そして、被災者一人一人の生活再建をはじめ、被災地の本格的な復興を支援するための第三次補正予算に向け、積極的な提言を行い、その実現を求めていく。閉会中も、原発事故の状況に注視するとともに、汚染状況の把握や除染問題、健康被害、食品の安全等について、適宜ヒアリングし、党としての対策を講じていく。

 郵政改革法案については、自民党の抵抗の中、特別委員会の設置、大臣の挨拶までこぎつけたが、実質審議まで至らなかった。派遣法改正案と郵政改革法案の臨時国会での成立に全力で上げなければならない。また、旧政権下で民主党と二度にわたり共同提案してきた交通基本法案が閣法として提出されたものの、継続審議となった。高齢者、障がい者、交通弱者をはじめとする多くの市民の期待に応え、早期成立を期していく。

 なお、昨年11月、高校授業料無償化の朝鮮学校への適用手続きが停止したが、菅首相が8月29日、審査手続きを再開するよう指示したことは、子どもの教育を受ける権利を保障すべきであるとして速やかな適用を求めてきた社民党としても歓迎したい。

17.「誰もが人間らしく生活することのできる社会」を築いていくためには、憲法理念の現実化をめざす社民主義による改革こそが必要であり、「いのちを大切にする政治」の実現が求められている。改めて社民党の出番であると確信する。社民党は、「生活再建」の実現、脱原発を推進し、再生可能エネルギーを基盤におく新しい社会の建設のために国会内ならびに全国各地で奮闘する。そのためにも、大きく大衆運動を盛り上げていく。

以上