2011年12月9日

第179臨時国会を終えて(談話)

社会民主党幹事長
                                    重野 安正

1.本日、10月20日から12月9日までの会期51日間の第179臨時国会が閉幕した。社民党は、「生活再建」の実現や、脱原発を推進し再生可能エネルギーを基盤におく新しい社会を築く立場から、野田内閣については、前進させるべきものには協力するし、そうではないものにはしっかりとチェックし歯止めをかけ毅然と対決していく方針で臨んできた。しかし、民社国3党合意に基づく労働者派遣法改正案や郵政改革関連法案など、多くの重要法案が積み残された。1票の格差を是正するための選挙制度改革もまとめることができなかった。延長問題についても最後まで迷走したし、最終日に外務委員会で不正常な審議が行われた。政権与党・民主党の国会運営の稚拙さと党内の動揺・混乱の拡大、民自公体制による国会審議の形骸化ばかりが目だった国会であり、国民の期待と負託に応えることができたかという点では、極めて不十分であり、遺憾である。

2.大震災から8か月がすぎ、寒い冬も間近に迫っている中、ようやく第3次補正予算が成立した。被災者ひとりひとりの生活再建と被災地の復興を支援するためにも、本格的な補正予算を早期に提出することが求められていたにもかかわらず、提出時期が大きく遅れたこと自体残念である。今回の補正予算の歳出の中には、震災復興特別交付税や東日本大震災復興交付金、三陸鉄道支援など、不十分ながらも社民党の主張や提案が盛り込まれていることから、補正予算自体には賛成した。また、復興財源確保法案と税制改正法案(民自公3党合意に基づき原案修正)については、復興所得増税は期間が10年から25年に延長されたとしても庶民増税に変わりはなく、むしろ所得税の累進の強化や金融証券課税等、不公平税制そのものの見直しが図られてしかるべきであり、一方で復興法人税については実質的に減税となり、結果として庶民増税・企業減税の不公平税制となったことなどから、反対した。

3.復興特区法や復興庁設置法案については、いろいろと問題点は残されており、さらに民自公で決めて押し付けるやり方が取られてきたものの、復興を進める観点で最終的に賛成した。しかし、経済界などは、震災を突破口にした、規制緩和・新自由主義市場拡大のモデル地域にしようと狙っている。法案自体、漁業権を漁協だけでなく民間企業にも与える漁業特区など、問題のある規制の緩和や特例措置も含まれている。被災者や地域住民の意向を十分尊重し、被災者の生活再建、「人間の復興」に資するものとなるよう、今後の運用段階できちんとチェックしていく。

4.TPP交渉参加問題について、社民党は、重野幹事長を座長とするTPP問題PTを立ち上げ、農林水産団体をはじめとする各層各団体と連携を強めるとともに、党派を超えて反対の動きをつくるべく努力した。そして、TPP問題についての立法府の意思を示すべく、衆院に「APECの場での『TPP交渉協議への参加表明』に反対する決議案」を共同提出した。1100万人以上の請願署名や各自治体からの相次ぐ反対決議にもかかわらず、野田首相がAPECで、TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入ることを表明したことを受けて、党は、「地域経済社会、国民生活を不安に陥れ、政治の混乱を助長するTPP交渉への参加表明に対し強く抗議する」との談話を発表した。交渉内容、論点、合意点などの情報を公開し、何が国民の国益となるのか、農業への打撃や国民生活への影響にどう対処するのか明らかにすることを求めていく。

5.労働者派遣法改正案は、社民党の「一丁目一番地」であり、小泉構造改革からの転換を目指した政権交代の柱の一つである。しかし民主党は、自公と水面下で修正協議を行い、肝心の部分を骨抜きにして、製造業派遣・登録型派遣の原則禁止規定を削除し検討事項とすることなどで合意した。しかも会期末になって時間がない中、突如として修正案を提出し一瀉千里に進めようとした。社民党は、重要な柱を骨抜きにする換骨奪胎そのものであり、審議時間も不十分で拙速な採決はおかしい、として反対した。

6.郵政改革関連法案は、大臣の所信表明とそれに対する質疑を行っただけで、自民党の強い抵抗で実質審議に入ることのないまま、継続審議となった。復興財源の捻出と復興増税規模の圧縮のために、郵政改革法案を通して郵政株式売却益を活用しようという観点から、法案の審議入りが求められる気運も高まった。しかし、ねじれ国会の中、法案を通すための修正協議も行われたが、最終段階の、政府案を取り下げて現行民営化法の見直し規定に基づく修正ですら、自民党は乗ってこない状況にある。

7.政府が平均7.8%の給与削減を柱とする給与特例法案を提出し継続審議となっている中、9月30日、人事院が給与勧告を行った。社民党は、労働基本権が回復されるまでは、労働基本権制約の代償措置の根幹をなす人事院勧告に則った対応をとるよう働きかけ、国家公務員制度改革関連法案の年内(年度内)成立の目途がない中では、国家公務員の給与の臨時特例に関する法律案については撤回することを求めた。その後、民自公で修正協議が始まったが、3党の実務者協議では折り合いが付かず、結局、修正協議がまとまらないまま、継続審議となった。協約締結権を回復するための関連法案の成立なくして、給与の特例減額を行うことは脱法行為のそしりを免れない。社民党は、政府案にも反対であるし、現給保障の廃止や地方への波及をもたらす自公案にも反対である。仕切り直しをして、公務員制度改革の前進こそまず実現すべきである。

8.社会党時代から障がい者団体や交通運輸関係労働組合と取り組んできた交通基本法案については、3月に閣議決定されたものの、継続審議となっていた。ねじれ国会のため、残念ながら今回も継続審議となってしまったが、現実の交通問題の解決と将来への足がかりを残すべく、引き続き交運関係労組や障がい者団体、交通関係のNPOとの連携を強化し、法案の成立に向けて全力を上げていく。

9.衆議院選挙制度改革については、衆議院選挙制度各党協議会が8回開かれたが、勧告期限の延長と小選挙区の定数是正に固執する民自両党と、比例定数削減反対・選挙制度の抜本改正を求める他党との溝が埋まらないまま、開かれなくなった。また、参議院選挙制度改革については、西岡武夫議長の下、大政党中心ではない公正な案を作るべく努力してきたが、西岡議長の逝去に伴い、新たな実務者協議会の方向に動き出している。社民党は民意を反映する公正な選挙制度への抜本的な改革を行うことを求めている。

10.東京電力福島第一原子力発電所の事故原因の究明や検証を行うため、国会に「事故調査委員会」が設置された。政府による原発事故対応が果たして妥当だったのか、過失はなかったのか、原子力政策自体に問題はなかったのか等も含め、強い権限と徹底した公開性をよりどころとして、政府から独立した調査機関の存在感を存分に発揮するよう期待したい。他方、福島第一原発事故の収束もないまま、日本の原発の海外輸出を進めるための原子力協定(ロシア、ヨルダン、韓国、ベトナム)が民主党と自民党の野合で承認された。一部のプラント・メーカーの利益のために、税金など公的な資金を使って無謀な原発輸出を促すための原子力協定を拙速に承認することは許されず、民主党が進めてきた原発輸出促進政策自体を即座に見直すべきである。

11.菅内閣の最後に成立した、再生可能エネルギー法に基づき、買取価格などを審議する第三者委員会(調達価格等算定委員会)の国会同意人事が提案された。社民党は、阿部政審会長を中心に、法律の趣旨を骨抜きにするような人事であり、民自公の密室で人選が行われたことも含めて問題ありとして、委員候補を再提案するよう超党派で働きかけてきた。その結果、問題となった調達価格等算定委員会の人事案件の採決を含めてすべての案件の採決が見送られることになった。

12.11月28日、報道各社との非公式懇談の場で、沖縄防衛局の田中聡局長からとんでもない発言が飛び出した。まさに暴言であり、沖縄県民を侮辱し、また女性を蔑視する発言は到底看過できないものであることから、党は、ただちに抗議談話を発表するとともに、田中局長の罷免を要求した。しかし野田政権は、相変わらず普天間飛行場の辺野古移設を前提としたアセスメント「評価書」の年内提出する方針を堅持したまま、事の重大性をわきまえず、事態の真相解明もないまま、局長を更迭するだけで、事務方の不祥事で片付けようとした。その後、「少女暴行事件」について、「詳細は知りません」などとのあきれた答弁を行うなど、一川防衛大臣の資質自体が問われる事態に陥った。したがって、党として、問責に値するものであるとして賛成した。なお、山岡消費者相については、大臣就任前の発言や行動が問題とされており、問責に値するとまでは確証が得られていないことなどから、今回は棄権することとした。

13.憲法審査会をめぐっては、衆参両院で委員数などを定めた「規程」を制定したものの、社民、民主、共産の各党などが委員選任を拒否してきた。ところが、国会運営で自民・公明両党の協力を得るためとして民主党が方針転換した。社民党は最後まで抵抗したものの、11月17日、衆院憲法審査会が2007年8月の設置以来初の審査を行った。また、参議院も11月28日、設置以来初の実質審査を行った。社民党は、国民投票法(改憲手続き法)付則で昨年5月の全面施行までに「検討を加え、必要な措置を講ずる」とされていた選挙権年齢・成年年齢の引き下げなどや、最低投票率制度に関する検討など18項目の参院憲法調査特別委員会の同法案付帯決議が実現されていないまま、憲法審査会を始動させて改憲案の審査を行おうとしていることに反対である。また、震災・原発事故を受けて浮上した憲法に非常事態条項や国家緊急権規定を導入する改憲論について、「改憲をせんがための口実」であり、「大震災と福島原発事故の被害を被った国民の状況は、憲法前文の平和的生存権、13条の幸福追求権、25条の生存権が侵害されている状態だと言わざるを得ない」し、「いま政治と国会の果たすべき使命は国民の生活を再建し、憲法の理念を実現し、わが国がこれまでもこれからも平和国家として歩んでいく決意と道筋を内外に示すこと」であると強調した。憲法審査会を動かすよりも憲法価値を実現して傷ついた生存権や幸福追求権の回復こそ急ぐべきである。

14.次の通常国会は、派遣法改正案、郵政改革、交通基本法案、公務員制度改革法案などの積み残しの重要法案に加えて、第4次補正予算、2012年度予算、税制関連法案、子ども・子育て新システム関連法案、地域主権一括法(第3次)、障がい者総合福祉法案、被用者年金拡大法案、年金特例水準の解消法案、有期契約労働法案、高齢者雇用安定法改正案、特別会計改革法案、沖縄振興法改正案、原子力安全庁設置法案など、予算関連や社会保障と税の一体改革の具体化のための法案を含めて、続々と重要法案が予定されている。さらには、消費税増税法案が前半の大きな焦点になる。野田総理は来年3月までに関連法案を国会提出する決意であるのに、今国会では所信で触れないまま、G20で消費税率引き上げを表明して国際公約にしてしまった。このようなやり方自体糾弾されねばならない。いずれにせよ、社民党は、党の立ち位置を明確にし、党の存在意義を示せるよう全力で奮闘し、総選挙勝利につなげていく。

以上