2012年3月7日

いわゆる「秘密保全法」制定に反対する(談話)

社会民主党党首 福島みずほ

 

1、尖閣諸島沖中国船追突事件の際の映像流出をうけ、政府は、秘密保全制度のあり方の検討をすすめてきた。2011年8月には、「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」(座長・縣公一郎早稻田大学教授)が秘密保全法制を早急に整備すべきであるとの「報告書」をまとめ、これを受けた「政府における情報保全に関する検討委員会」(委員長・内閣官房長官)も同年10月に、第180回通常国会への法案提出に向けた法案化作業を行なうことを決定している。

2、しかし、そもそも中国船追突事件の映像流出は、「国家秘密」漏洩とはとうてい言えない。むしろ情報公開のあり方をめぐる問題であり、政府が適切な情報公開を行なわなかったために起こったトラブルと考えるべきである。「秘密保全法」の制定は、立法を必要とする理由をまったく欠いているのである。仮に国家秘密とされるべきものがあるとしても、秘密の保全は国家公務員法等の現行法制で十分に対応できるものである。新たな法制化の必要性はそもそも存在しない。

3、「報告書」は、@国の安全、A外交、B公共の安全および秩序の維持の3分野を対象に、国の存立に関わる重要情報を「特別秘密」に指定し、保全措置の対象とするとしているが、「特別秘密」の範囲はあいまいで政府・行政機関にとって不都合な情報を恣意的に指定したり、国民に必要な情報まで秘匿したりする手段に使われるおそれがある。広範な「特別秘密」の概念は、国民の知る権利など憲法上の諸原理と矛盾する危険性が強い。

4、また、保全すべき秘密の範囲が恣意的に広がるおそれがあるため、取材及び報道に対する萎縮効果が大きいと考えられる。国の行政機関、独立行政法人、地方公共団体、一定の場合の民間事業者・大学などの取材対象者が萎縮し、取材が困難になるなど、取材の自由・報道の自由が侵害されるおそれがある。

5、特別秘密の漏えいを働きかける行為も処罰対象とされるため、報道機関の取材が漏えいの「教唆」「そそのかし」と判断される可能性が捨てきれず、運用次第で通常の取材活動が罪に問われるおそれも残る。処罰範囲があいまいで広範にわたることは、罪刑法定主義等の刑事法上の基本原理に反する可能性は強い。また、秘密保全法に関わる裁判手続が、公開の法廷で裁判を受ける権利や弁護を受ける権利を侵害するおそれもある。

6、「報告書」は特別秘密を取り扱う者の人的管理の必要性を詳細に論じているが、管理の対象者やその周辺の人々のプライバシ−を空洞化させるような方向での管理は本末転倒である。人的管理に偏することなく、むしろ作成・取得から廃棄・移管までの各段階において、情報システムの管理の徹底など個別具体的な措置を講ずる物的管理と組み合わせることにより対応すべきである。

7、藤村修官房長官は3月5日の記者会見で、「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」の議事録が作成されていなかったことを認めた。このような重大な法案のたたき台をつくった会議の議事録が作成しないなどあってはならないことである。法令の制定過程などを事後に検証できるような文書作成を求めた公文書管理法に反する可能性もあり、このまま法制定をすすめることは許されない。

8、以上の理由から、社民党は政府が計画している「秘密保全法」の制定に反対し、法案の国会提出の断念を求めるものである。国としての秘密保全のあり方については国民の知る権利、報道の自由をはじめ憲法の諸原理を侵害することがないよう、慎重に検討をすることが必要である。

以上