2012年5月15日
社会民主党幹事長 重野 安正
1.昨日、東京電力は、NHK経営委員長である数土文夫氏(元JFEホールディングス社長)を社外取締役に起用すると発表した。NHK経営委員会は、経営に関する基本方針、内部統制に関する体制の整備をはじめ、毎年度の予算・事業計画、番組編集の基本計画などを決定し、役員の職務の執行を監督する機関である。政治的また経済的利害からの独立を生命線とする、公共放送機関たるNHKを監督する立場にある。その長が、未曽有の原子力災害を引き起こし、実質国有化で政府の支配の下におかれ、最大の報道対象である東電の社外取締役に就任することは、きわめて異例であり、こうした人事に懸念と危惧を持たざるを得ない。
2.政府は、「非常勤の委員の兼職は禁止されておらず制度上の問題はない」、「放送法で委員は個別の番組編集に干渉できないと決められている」(川端達夫総務大臣)、「経営委員会は番組内容について意見を言ってはいけないことになっており、報道内容とは完全に切り離されている」、「放送法では経営委員長の兼職が禁止されていない」(枝野幸男経済産業大臣)などとして、法制度上問題はないとの認識を示している。しかし、東京電力は、事故の収束、廃炉、電気料金の値上げや賠償問題、原発の再稼働などいずれも国民的関心事となる問題を抱えている。NHK経営委員長が東電の社外取締役に就任すれば、東電に関する報道の公正さについて、視聴者から不信感を持たれかねない。また、数土氏自身も、「もうすこし番組の編集方針について執行部側と経営委員側との意見交換があってもいいのではないか」(1月の委員会)等、番組の製作方針に干渉するとも受け取られかねない発言を行っている。報道現場が数土氏に配慮し、萎縮することも危惧される。さらに数土氏は、自らの就任への懸念に対し、「マスメディアとしての見識がNHKにあるかどうかの問題」と受け流しているが、「李下に冠を正さず」こそ正論であろう。いずれにせよ、NHK経営委員長が東電の社外取締役に就任することによって、NHKの東電報道等への影響が懸念されること自体が問題である。受諾した経緯や姿勢などを丁寧に説明する責任がある。
3.NHK経営委員会の長の職責と東京電力の社外取締役の職責は、相反するおそれがある。東電は目下、NHKの最重要の取材・報道対象であり、取材する側のNHKを監督する機関の長を務める人物が、取材される側の経営に「社外取締役」とはいえ参画することは、メディアの非当事者原則に反するおそれがある。あわせて、公共放送事業体として、政府との距離を保ち、自主自立の放送を行うことを使命とするNHKを監督する機関の長を務める人物が、政府の支配下に置かれる実質国有化企業である東電の経営に関与することは、NHKへの視聴者の信頼を揺るがすことになりかねない。
4.また、福島原発事故の完全収束に向けた取り組み、原発事故被災者に対する損害賠償、原発再稼働問題、原発施設が稼働ゼロとなった状況での電力の安定供給といった、一国規模での重要課題を抱えた東京電力の社外取締役の職と、公共放送を監督する重責を担うNHK経営委員長の職は、職務の質と量から見て、時間的・物理的にも両立が可能なのか疑問が残る。
5.NHKは、国民・視聴者の信頼を回復し、公共放送の使命を全うできるよう、再生・改革に向けた取組を進めている途上にある。次期経営計画を着実に実行し、不偏不党、公正性、公平性、透明性を保ちつつ、視聴者にますます信頼される組織に改革されねばならない重要な時期にある。こうした中で、NHK経営委員長の職責がおざなりになってはならない。数土氏が引き続きNHKの経営委員会の長にとどまって、その職責を全うする意思があるなら、社外取締役の就任を自ら辞退するべきである。一方、数土氏は一時期東電の会長に擬せられていたこともあり、東電の社外取締役に就任して、その職責を担う意思が固いのなら、NHK経営委員長を自ら辞するべきである。数土氏が誤りなき判断をされるよう求めたい。
以上