2012年2月17日
社会民主党幹事長
重野 安正
大阪市による本年2月9日付「労使関係に関する職員のアンケート調査について」は、大阪弁護士会、日弁連等をはじめとして各界から違法性・違憲性を指摘されながら撤回されずに、「前代未聞」のあり得ない、自治体による違憲・違法な調査であり、このような調査に、弁護士資格を有する橋下徹・大阪市長が職員各位に対して、回答を求めていること、また弁護士である野村修也・大阪市特別顧問の監修のもとで実施されていることに、驚きを通り越して「唖然」の一言である。
この調査は、「市長の業務命令」、「正確な回答がなされない場合には処分の対象」と明記するなどしており、職員は氏名・職員番号・所属部署を記した上での回答が強制されている。さらに、大阪市役所の組合が行う労働条件に関する組合活動への参加の有無及びその内容、過去2年間の、特定の政治家を応援する活動への参加の有無及び内容、職場の関係者からの特定の政治家への投票要請の有無及び内容、組合加入の有無及び内容などを質問している。業務命令や処分等で脅して職員に記名回答を強制するアンケート調査は、職員に対する事実上の「踏み絵」である。各職員の人格的な内面にわたるものであり、公権力が処分という手段をもってこれら質問事項に回答を強制するものに他ならず、各職員の思想・良心の自由(憲法19条)を侵害するものである。公権力は、個人の内心において抱いている思想について、直接または間接に、訊ねることも許されない。本件調査は、これらの双方の意味における思想・良心の自由を侵害するものである。
思想・信条・宗教に関する情報、労働組合への加入状況、労働組合活動に関する事項、政治活動への参加状況はきわめてセンシティブな情報である。この調査は、職員の支持する政党や政治家、政治に関する関心などの回答を求めることにつながり、各職員のプライバシー権(憲法13条)を侵害する調査は労使関係の適正化を図ることを目的にしているようだが、「労使関係の適正化」という概念は抽象的で、またそれが、プライバシー権を制約する正当な理由に成り得ない。
使用者が勤務時間外に行われた正当な組合活動の内容や参加状況についても回答を強制することは、使用者から独立して活動する自由が保障された労働組合の運営に使用者として支配介入するものにほかならない。また、各職員の、団結権、また、団体行動権の一内容としての組合活動権という労働基本権(憲法28条)の行使を躊躇させる効果をもたらすことになる。まさに不当労働行為であり、憲法上の重要な権利を侵すことは断じて認められない。
憲法の国民主権の原理に直結した国民の重要な権利であり、憲法が保障する表現の自由の根幹をなすものである。地方公務員も一般国民と同様に、憲法に保障された、思想信条の自由、政治活動の自由及び労働基本権を有している。1981年10月22日の最高裁判決も、「政治活動の自由は、自由民主主義国家における最も重要な基本原理をなし、国民各自につきその基本的な権利のひとつとして尊重されなければならない」としている。公職選挙法は公務員の地位利用による選挙運動を禁止しているにとどまり、また地方公務員法第36条は非現業の地方公務員について、政党その他の政治団体の結成関与や役員就任等、勤務区域における選挙運動などを限定的に禁止しているにすぎない。一般職のうち、公営企業職員、現業職員には本36条は適用されない。職員団体が政治的行為やその一環としての選挙活動を行うことについても、地方公務員法は一切制限していない。しかし、調査は前記のように、過去2年間での特定の政治家を応援する活動への参加の有無及び内容や、職場の関係者からの特定の政治家への投票要請の有無及び内容などを市長の業務命令として、処分という手段をもって強制し、各職員の政治活動及びその内容に萎縮的効果を及ぼすものである。適法行為も含めて、政治活動への参加歴や職場で選挙のことが話題にされることを一律に問題視して回答を求めることは、各職員の政治活動の自由(憲法21条)を侵害する不法・不当な調査といわざるをえない。
以上のように、多くの根本的な問題を含んでいる大阪市の調査は、違憲・違法なものであることは明らかであり、到底容認できない。社民党は、このような調査の強要に抗議し、現時点までに得られた調査結果の廃棄を強く求めるものである。