1999/4/28

参議院本会議での渕上貞雄議員の代表質問

 私は、社会民主党・護憲連合を代表し、ただいま議題となりましたいわゆる新ガイドライン関連法案につきまして、小渕総理並びに関係閣僚に質問致します。

 新ガイドライン関連法案につきましては、多くの自治体から意見書が寄せられるとともに、わが党の厳しい追及によって法案の危険性、違憲性がますます明確になってきており、日に日に国民の間に反対や慎重審議を求める声が高まっております。しかるに、政府・与党は総理訪米前の衆議院通過にこだわり、十分な審議を尽くすことなく一部野党との密室の駆け引きだけで採決を図ったわけですが、このようなやり方は、議会制民主主義のルールの破壊であり、断じて容認できるものではありません。これは国会の権威にも係る問題であり、良識の府である参議院においては時間的にも内容的にも徹底した審議を保障すべきであります。同時に、自治体や国民の不安や懸念に対し、率直に耳を傾けるべきであると考えますが、総理、如何ですか。

 さて、衆議院で行われた修正も国会承認を盛り込んだとはいえ、自衛隊の活動に限られた部分的な承認であり、それも緊急時は事後承認とされるなど、きわめて不十分な彌縫策で法案の本質を何ら変えるものとはなっておりません。あまつさえ、後方地域支援における武器使用として自衛隊の武器使用の範囲を拡大するとともに、周辺事態の例示を通して集団的自衛権の行使に道を開くなど、政府原案よりも危険な内容となっています。憲法違反の疑いが濃厚な国の行為に対し、国民がお墨付きを与えてゴーサインを出すことは許されるものではなく、しかも修正案に対する十分な審議の機会を奪うなど、衆議院通過のための与党と一部野党との欺瞞であるとしか申し上げようがありません。総理はこの修正をどのように受け止められておられるのですか。

 さて、周辺事態における対米支援活動が紛争当事者から敵対行動とされ、日本が武力攻撃の対象になるのではないかという不安が募っていますが、ユーゴスラビアに対するNATO群の空爆のような「人道上の惨劇を防止するための措置」がとられ米軍が武力行使した場合、日本は周辺事態法案に基づき米軍を支援するのでしょうか。また、自衛隊の行う後方地域支援は国際常識では兵たんであり、戦争行為の一部であり、決して安全なところで行われるものではなく、憲法の禁止する集団的自衛権の行使と常に隣合わせではないかと考えます。コソボ問題でなぜベオグラードが空爆を受けているのですか。まさに後方支援を行っているからではないですか。外務大臣及び防衛庁長官のご見解を求めます。

 次に、自治体の協力について、特別の義務を課す規定を加えなかった以上、協力等の要請は、任意の自発的な協力に期待されて行われる要請です。これに従うか否かを自由に判断できる非権力的関与であり、ことわっても違法状態となるわけではないと考えます。地方自治法第二条によれば「地方公共の秩序を維持し、住民及び滞在者の安全、健康及び福祉を維持すること」が自治体の目的であり、自治体の自己決定権の保障が地方分権の眼目です。自治事務の執行を拒否された場合、総理は地方自治法第二四六条の二の「是正措置要求」を発動するつもりがあるのか、その上で自治体が要請を拒んだときにどのような対応をされるのか、総理のご見解を求めます。

 また、現場で働く運輸労働者から不安・懸念が広がっていますが、自治体や民間の協力は、法律上後方地域で行われると規定しておらず、戦闘地域で行われることも排除しておりません。総理、自衛隊よりも自治体・民間に危険な地域での活動も協力を求めるのでしょうか。

 さて、修正が行われたことによって、ますます周辺事態というものがわからなくなり、周辺事態が無限に広がるという危険が浮き彫りになっています。二条の「対応措置」も何ら定義も限定もなく、四条の「基本計画」も詳細な内容は明らかにされず、しかも中止も終了もどうなるのかさっぱりわかりません。九条の「必要な協力」も強制するものではないと説明する一方、協力するのが当然であり、協力拒否の公務員は処罰されると答弁されていますが、何についての協力なのか、従わない場合にどうなるのかも法文上明確にされていません。一二条も政令に白紙委任しており、しかも提出から一年近く経過するのに内容は一切明らかにされていません。国民の権利・義務に係る重要な事項すら白紙委任されるのかどうか、大きな懸念が残ります。法律は本来、厳密な用語によって権力の暴走を規制するものであるはずです。しかし、抽象的な文言を弄し政府に白紙委任する関連法案は、基本的人権、地方自治権、立法権を侵害する欠陥法案であり、本来出し直すべき代物であると考えます。なぜこれらの具体的な内容が明らかにできないのかも含め、総理のお答えを求めます。

 九条第三項の「必要な財政上の措置」も、いくらお金が懸かるのか、どれだけの協力とどれだけの支出が迫られるのかも全く不明ですが、予算主義というわが国の財政原則との兼ね合いはどうなるのか、予備費でまかなえなければ、補正予算で対応するのか、どのような形と内容で補償するするものなのか、総理の明解な答弁を求めます。

 さて、世界的に著名な平和学者であるヨハン・ガルトゥング教授は、一つの国や社会で軍事化が進むと、それはまるで癌細胞のように国の経済や文化、政治に至るすべての分野をむしばんでいく危険性があり、他国の文化や異民族に対し憎悪を植え付け、仮想敵国としてのイメージをつちかっていく傾向にならざるを得ない、あまつさえ、政府に反対する声はおしつぶされ、個人個人の権利も国益と国の安全の名においておしつぶされてしまうことを指摘されています。今回の事態が軍事大国化・有事体制作りの蟻の一穴とならないかどうか。政府・与党の対応を振り返って見るならば、教授の心配は決して杞憂とはいえないと思います。総理は教授の問題提起を如何お受け止めになりますか。

 また、総理は、ガルトゥング教授の「三つのP」をご存じですか。これは、ピースムーブメント、ピースリサーチ、そしてポリティカルパーティーが三位一体となって平和の創造に取り組むのでなければ、真の平和は成り立たないというものです。何よりもいま求められていることは、戦争協力の準備を始めることではなく、先の大戦の反省と憲法の平和精神を生かし、アジア・太平洋地域との友好・協力の拡大を図っていくことではないでしょうか。本当に日本がアジアの平和を欲するのであれば、日本自身が平和に徹する国にならなければなりません。まさにポリティカルパーティーの果たす責任は非常に大きなものであり、良識の府である参議院としての真価も問われることと思いますが、総理、如何でしょうか。

 新ガイドライン関連法案は、アメリカの戦争への協力に日本が動員される面と、そのことを通して日本自身の侵略戦争に向けた国内体制の確立を目指すという二つの性格を併せ持ち、政府の専守防衛の原則すらかなぐりすて、憲法の禁じる武力の行使、集団的自衛権の行使に道を開く危険極まりない有事法であり、このようななし崩し的な安保改定、憲法改悪の策動を護憲の党として断じて認めることはできません。平和外交の重要性と関連法案の撤回・廃案を訴え、私の質問を終わります。