1999/4/27

衆議院本会議での伊藤茂議員の反対討論

 私は、社会民主党市民連合を代表して、政府提案のガイドライン関連三法案の撤回、廃案を求め、自民党・公明党改革クラブ・自由党三会派提案の修正案と民主党提案の修正案との二つに反対する討論を行います。

 私は日本の将来への深刻な憂慮の念を込めて申し上げます。この法案内容は日本の将来と日本国憲法に基本にかかわる重大な問題であります。しかるに特別委員会では修正案に対する回答もないのに、採決の日程を決めました。現在、さまざまの世論調査でも国民の多数は慎重・徹底審議を求めております。われわれ国会が責任を持つのはその国民の皆さんに対してであります。訪米の手みやげにするなどということは許せないことであります。

 しかも審議打ち切り、採決の日程を決めた後になってから修正協議が行われました。まさに異常です。それに加えて修正協議は混乱に混乱を重ね、政府が重要項目として説明したテーマを削除しました。これは修正協議がまさに矛盾の固まりであることを証明したものと言わなければなりません。この法案内容がポスト冷戦時代の歴史の方向に背を向けたものであり、部分的な修正をしても危険な本質は変わることはないのであります。

 社会民主党が反対する理由は何時間かかっても語り尽くせないものがありますが、その基本的な問題点を指摘します。

 その第一は日米安保条約がこれで完全に変質してグローバル安保となり、米軍が世界の広い範囲にわたって出撃する前線基地になるという問題であります。一九六〇年の安保改訂の論議の時に二つの歯止め、極東の範囲の確認と在日米軍出動にかかわる事前協議がありましたが、いまやそれは空洞化するどころか空文となっています。それは沖縄や横須賀などからの米軍の湾岸を含む自由出動の事実に明白であります。その現実は米国自身が、「沖縄を含む日本の基地がなければ湾岸戦争は出来なかった」、思いやり予算で「日本は世界一気前のいい国」である、と公式に表明しています。これでは、国際社会に「名誉ある」地位を占めたい、と書かれている憲法が怒りに燃えている、と思うのであります。

 ポスト冷戦時代に、冷戦時代にもやらなかった軍事行動重視の道を歩むことは、「右向け右」どころか歴史の流れに「回れ右」に進路を取ろうとするものであります。

 第二には、後方地域支援という名による戦争参加と、憲法の禁じている集団的自衛権への道を開いたという重大な変化であります。これは事実上の憲法改悪とも言うべき内容であります。現代の戦争に「後方」などありえないことは明白であります。

 ポスト冷戦の今日、さまざまの新たな地域紛争が発生しており、その打開の努力が求められている現実を私も直視しています。「抑止と対話」と言われますが、問題はその打開の方向であります。五年前の朝鮮半島をめぐる緊張した事態の時に、カーター元大統領と金日成主席の会談で打開され、米朝協定の実現に至りました。いま韓国の金大中大統領は潜水艇撃沈事件などについても適切な対応をしながらいわゆる「太陽政策」を展開して戦略的に南北統一への新しい時代を切り開こうとしています。いま平和憲法をもつ日本に求められているのは、そういう先見性ある新しい、大きな構想と行動ではないでしょうか。日本政府に、カーターも金大中もいないことを私はまことに悲しく思います。中国について、日中共同宣言から言っても、台湾を安保条約の対象枠外にすることも当然のことであります。

 反対する第三の理由は、自衛隊への民主的コントロール、とくに国会とのかかわりの問題であります。国会の事前承認は当然の原則であり、行おうとしているすべてが国会の承認を得なければなりません。湾岸戦争の時に米国の国会が三日間の徹夜の論議をした経過は議員の皆さんのご承知のことであります。国会は国権の最高機関であります。政府の下ではありません。大体、本会議場に先進国に例のない雛壇があって議員よりも高い席にあることがおかしいのであります。全国民に最高の責任を負い、決定するのは国会であります。それを毅然として実行する責任を立派に果たそうではありませんか。

 第四に私が強調する点は、自治権と国民の権利を抑圧し、国民ぐるみで戦争協力をさせようとしていることであります。法案では「協力を求めることが出来る」とありますが、答弁では「協力するのが当然」「正当な理由」なくして拒否すれば法律で是正の命令をする、と言っています。事実上の強制と言わなければなりません。いま二〇〇くらいの自治体がこの法律に反対や疑問や徹底審議を求める決議をしています。「分権社会」が日本の今後の基本として強調されている時に、軍事目的のために、権力的に対応することは許されないことであります。

 私はとくに、米軍基地が極度に集中している沖縄県民の声を真剣に受け止めなければならないと考えます。中央、地方の公聴会でも沖縄の代表を招いたのはわが党だけでありました。沖縄の県民の願いに背を向けて日本の平和は語れないのであります。また参考人として審議に出席していただいた陸・海・空の職場に働く皆さんから、この法案の危険性と懸念が切実に訴えられました。政府は、安全に人や物を運ぶ仕事を担っている人々の願いを無視して米国の要求に応えようとするのでしょうか。

 私は申し上げたい。いま必要なのは戦争のガイドラインではなくて「平和のガイドライン」なのであります。平和戦略と新しいリアリズム、その方向を真剣に追求する見識と新たな構想力と外交戦略こそが政治に求められているのであります。いまや政府にそれはありません。私は日本の英知を集結して「平和のガイドライン」を作り上げることを同僚議員の皆さんに心から訴えるものであります。

 本法案はまさに危険な新安保条約であります。これを撤回し、条約交渉をやり直し、国民に信を問うべきであります。それが国民の皆さんに誠実にこたえる唯一の道であることを私は強く主張します。

 日本国憲法宣言している、平和国家として国際社会に「名誉ある地位」を占める国をつくる大きな使命にに燃え、私たち社会民主党・市民連合は、全力を尽くす決意を表明し、政府原案と二つの修正案に反対する討論といたします。