1999.11.5

政府・与党は選挙目当ての介護保険改悪を撤回せよ

社会民主党幹事長
渕上 貞雄

一,政府は与党3党の「介護制度について」の申し入れを受けて、「介護保健法の円滑な実施に向けて」を自由党の了解なしに決定したと伝えられる。政府案は、2000年4月から半年間保険料の徴収をしないとの与党合意に加え、さらにその後も1年間にわたって高齢者の保険料を半額にするとされている。

一,そもそも与党間では保険制度そのものに対する合意すらできていないのであり、現在血のにじむような努力を積み重ねて介護保険制度の準備作業を行っている自治体や新しい制度に不安と期待をもっている国民に対し、不信と混乱を与えている責任はあまりにも大きい。

一,2000年4月から半年間保険料の徴収をしないことについて、少なくとも半年間は所得要件が一切考慮されなくなることになり、公平性を著しく損なう。また、保険給付のみを先行させれば、少なくとも半年間は保険料を払わずにサービスが受給できることになる。これでは、保険制度としての理解が得られなくなり、保険料の徴収開始時に収納に困難が生じる。また、保険者にとってはサービス開始時に加え徴収開始時および軽減措置が終了した時点にもあらたな業務が課されることになり、市町村や医療保険者に大きな混乱を持ち込むものである。

一,2号への負担軽減については、1号との「均衡を図る」という理由でしかない。社会保険である以上、過渡的にせよ加入者全員が保険料を免除されることはありえないはずである。

一,「家族介護慰労金」は「重度で低所得世帯の高齢者を介護する家族を慰労」するためとさている。「与えられる福祉から選択する福祉」に転換するはずの介護保険制度の趣旨に逆行するばかりか、「家族の美風」に金品を与えればいいという発想はあまりにも不埒である。
 また、「慰労金」を選択した場合、保険料徴収が開始されれば、保険料は払いながらも給付を受けることができないという事態が生じる。これでは、保険料ではなく単なる「人頭税」になってしまい、保険制度としての権利性に重大な欠陥が生じる。さらに、「慰労金」を選択すれば保険給付は受けられないのであり、結局は「社会的入院」等、医療保険分野に頼らざるを得なくなる。これでは医療制度改革にも逆行することになる。

一,介護保険では、要介護度5および4の者は、1割負担をしても年間400万円前後の現物給付を受ける権利がある。これを10万円の「金品」に置き換えようとすることは福祉切り捨て、弱者切り捨て以外の何者でもない。低所得層が要介護認定を受けてもサービス給付を求めず、年間10万円の「金品」を選択するとは常識では考えられない。負担能力が云々されるのであれば、保険料、利用料の設定についてのきめ細かな減免措置こそが必要なのである。
 また、介護基盤整備の遅れている自治体ほど「慰労金」を選択する可能性が高い。「慰労金」を実施する自治体は基盤整備にさらに不熱心になり、自治体間の格差をますます拡大する悪質なインセンティブとなる。

一,これらの財源は赤字国債の発行でまかなわなければならず、後代へのつけ回しであり、消費税率アップへの要因となる。政府は、一方で年金改革において「痛みを分かち合いつつ高齢期の生活保障を実現していくことが制度の基礎である」として基礎年金の国庫負担増を怠り、給付水準を切り下げようとしている。にも関わらず介護保険制度に対しては、一転して一兆円強もの財政を投入するという場当たり的な対策を行おうとしていることはあまりにも無定見である。これでは、国民各層の理解を得ることは困難である。また、これら巨額の財政を投入しても、自治体格差の是正には全くつながらない。

一,選挙対策レベルで2000年4月が取りざたされるようでは、介護保険に明るい未来はない。基盤整備や自治体における条例制定をはじめ、情報公開、相談窓口、苦情処理システムの確立、低所得者へのきめ細かな配慮など、制度スタートまでの課題は目白押しである。政府・与党は円滑な実施のために介護保険制度の原点に立ち返り、特別対策を撤回すべきである。

一,「介護の社会化」は国民的課題であり、大きく育てていかなければならない。社会民主党は、介護保険制度の円滑な実施とその豊富化に向けて全力を挙げていく所存である。