2001年5月25日
社会民主党 全国連合
幹事長 渕上 貞雄
本日、人権擁護推進審議会は、法務大臣に「人権救済制度の在り方について」を答申した。答申は、人権侵害に対する救済制度のあり方について述べており、見るべき点もあるものの、全体としてその方向性は重大な問題をはらんでいる。欧米諸国の国内人権機関や国連パリ原則(国内人権機関の地位に関する原則)など国際水準から見ても、極めて不十分である。
一 目に余る審議会の密室性
昨年9月以降、人権擁護推進審議会では国内人権機関に関する審議が行われてきたが、この審議会の密室性は目に余る。法務省事務局による不必要で不可解な情報管理が徹底して行われ、審議会の議事録ですら発言者名を明記しない要旨のみとなっており、委員の不満も高まっていた。
他の政府の審議会が、発言者名を明記し発言内容をほぼ全て、即日インターネット上で公開しているのに比して、人権審の公開性や透明性は極めて低い。人権侵害はだれもが加害者にも被害者にもなる可能性のある課題であり、広く一般に説明責任を果たさない審議会に国民の支持は得られようがないことを、まず指摘する。
一 法務省人権擁護部門の改組では全く意味がない
国内人権機関については、「政府からの独立性が不可欠」としており、一定の評価ができる。しかし、その内容は具体性に乏しい。とりわけ「法務局・地方法務局の人権擁護部門を改組する」として、現在の人権擁護行政を手直しするかのような手法では、政府から独立した実効ある国内人権機関が十分担保されるのか、甚だ疑問である。
わが党は、労働三法に違反した行為に対してその仲裁機関としての労働委員会が設置されてることや、公害等調整委員会なども参考にしながら、市民参加による「中央人権委員会」(仮称)と「地方人権委員会」(仮称)の創設を提案してきた。これらの委員会は、国連パリ原則にもあるように、すべての省庁から独立した第三者機関であること、強制力を持った調査・勧告権限があること、アクセスが容易であることを基本とする。同時に、NPO・NGOの活動や既存のさまざまな裁判外紛争解決の仕組みとの連携を通じて、実効ある人権救済を確保する。
一 自治体レベルに人権委員会を設置すべき
答申では、「委員会事務局の地方における組織を充実・整備する」としているが、その内容は評価できない。地方組織を事務局の自由裁量に委ねてしまうのではなく、わが党が提案しているように、都道府県単位に地方人権委員会を創設すべきである。地方人権委員会は、地域・現場での迅速な解決をめざし、複数の都道府県にまたがる案件や重大案件など中央人権委員会が扱う以外の全ての人権侵害の申立を受理し、その救済を図るものである。
一 多様な委員や職員体制を保障すべき
委員会の委員構成については、「ジェンダーバランスにも配慮」としているなど、一定の評価ができる。しかし、社会のあらゆる層から、とりわけ見識を持った社会的に支援を必要とする方々の代表を選出するシステムを保障しなければならない。人権問題に取り組むNPO・NGOや実際に人権侵害や差別を受けた当事者が参加するものとし、選任に当たっては、公開性と市民参加を保障し、また、内閣による任命は国会の同意を得るものとすべきである。
事務局や職員体制については、「人権擁護委員の確保」を盛んに主張しているが、容認できない。現在活動している人権擁護委員は、一種の名誉職となっており、また信頼度も低く、被害救済の十分な機能を果たしていない。国内人権機関は、自前の事務局を持たない国家公安委員会や、他省庁出身の横滑り人事に支配されている公正取引委員会などのように、独立性の不十分な組織と同じ轍を踏んではならない。職員についても、半数以上は人権活動の経験者等から採用するなど、独自の採用試験を実施すべきである。また、各省庁から移行する職員は、元の所属省庁に戻ってはならない原則を確立する。
一 答申が示した差別の類型には根拠がない
答申は、人権侵害の類型として「差別」「虐待」「公権力による人権侵害」「メディアによる人権侵害」と4類型に分類しているが、この分類には根拠がない。前二者は差別の様態であり、後二者は差別の主体と、両者は全く別の類型である。
一 公権力による人権侵害を正面から議論すべきである
公権力による人権侵害については、「不服申立制度が整備されて」いることを理由に「差別、虐待に該当するもの」のみを積極的救済の対象にしており、到底容認できない。公権力による人権侵害は、現在の日本において極めて深刻である。なかでも、捜査手続きや拘禁・収容施設内における暴行や虐待は、もっともその被害救済が期待されていた。
現行の付審判や監察制度が現実的に何ら機能してこなかったからこそ、1998年に国連の規約人権委員会は、日本政府に対して「警察や入国管理局職員による虐待」について独立した国内人権機関が存在しないことを強く批判したのである。公権力に対しては、国内人権機関に強制的調査権限を認め、また、国内人権機関への「協力」義務だけでなく、報告や尊重義務を課し、違反した場合は制裁を科して懲戒事由とすべきである。
一 メディアの人権侵害にはより慎重な議論が必要である
メディアによる人権侵害については、「報道によるプライバシー侵害や過剰な取材等」を積極的救済の対象とし、あわせて、「調査への協力を真摯に求め、調査過程の公表等を通じて」強力な調査権限を国内人権機関に認めるとしたが、拙速な議論は避けるべきである。
他方、松本サリン事件や東電OL殺害事件をはじめ、メディアによる人権侵害は後を絶たない。すでに行われている自主規制の取り組みが不十分なことを証明しており、自主的な第三者機関の早急な設置が求められる。この自主的機関は、強制権限を持ち、委員選任の透明性を確保した、簡易迅速で実効的な被害救済機関でなければならず、現行のBRO(放送と人権等権利に関する委員会機構)などでは全く不十分であることは言うまでもない。
一 差別禁止法の制定を視野に入れるべき
部落地名総鑑の頒布といった差別を助長するおそれの高い出版物などについて、個人が訴訟により排除し解決することは、実質的に困難である。にもかかわらず答申では、差別表現について「人権救済機関自らが裁判所にその排除を求めるなどして、人権侵害の防止を図っていく仕組みの導入が必要」とするにとどまった。国連の人種差別撤廃委員会が今年3月「人種差別を禁止する特別法の制定」を日本政府に勧告しているように、国内人権機関の設置のみならず、差別禁止法を早期に制定しなければならない。
なお、いわゆる差別糾弾について「当事者同士による話し合いは、任意的な解決をするための条件整備を備える限りにおいて、柔軟で有効な紛争解決の手法である」とした点は、一定評価できる。
一 実効ある人権機関の創設を
わが党は、「人権侵害に対する規制・救済法」(仮称)の早期制定に全力を挙げ、政府から独立した実効ある国内人権機関の創設とともに、差別禁止法の制定を目指して取り組みを進めていく。
以上