1999年6月9日
社会民主党政策審議会
1.住民基本台帳ネットワークシステムの導入は、国民のプライバシーの保護及び住民基本台帳制度の基本に係る制度改正であり、将来の国民の権利義務に係る重大な影響をもたらす法律改正である。したがって、社会民主党としては、1996年の自治省行政局長の私的研究会「住民記録システムのネットワークの構築等に関する研究会」の最終報告や96年11月の「住民基本台帳ネツトワークシステム懇談会」の報告、97年6月の「改正法試案」等を注視し、節目節目で勉強会を行うとともに、日弁連、PIJはじめ市民団体、自治労等からのヒアリングを幾度ともなく実施し、慎重な検討を続けてきた。
当時の自社さ政権下においても、社民党は、自治省に対して、98年2月17日に「基本的問題点」、3月4日に「問題点」と数々の「問題点」を提起し、自治省もこれらの問題点・疑問の指摘を踏まえ、コード変更の自由化や守秘義務・罰則の強化等の一定の修正・改善を図ってきた経緯がある。
2.98年3月、社民党は自治省との間でぎりぎりの調整を行ってきたが、最終段階においても、(1)他の個別法令によるコードの開示に対する歯止め、(2)住民票コードの変更の記録の取り扱い、(3)公安委員会と都道府県の執行機関が含まれることに伴う条例による尻抜けの可能性、(4)権限のない行政機関による内部データベース作成の歯止めの四点を含むいくつかの点について重要な疑問が残っていた。そこで社民党は、3月6日の与党政策調整会議において、「法案の提出は了承するが、法案自体に対する賛否は保留する」こととした。
その際も、「ネットワークシステムに対する国民の幅広い論議を行い、社会的理解と合意を求めるためにも、国会における十分かつ慎重な審議が必要である」、「法案の成立について、拙速かつ軽々に扱われるべきではない」とするとともに、法案施行時点での「包括的個人情報保護法」の実現を提案したところである。
3.住民基本台帳法の一部を改正する法律案は、98年3月10日に国会に提出されたが、社民党はその後もさらなる問題点を自治省に提示したり、現場の労働者からヒアリングを行ったりするなどの取り組みを行ってきた(なお、党が最終的に指摘した問題点に対する自治省からの回答はいまだない)。また、与党個人情報保護問題プロジェクトにおいても精力的な活動を行ったが、連立離脱とともに休止状態となり、実質的な成果は見られないままになっている。
4.その後、自自連立政権において、ガイドライン関連法案や分権・行革などの重要法案が山積する中、間隙をぬって急遽衆議院で本改正案は審議入りし、「成立ありき」の異例の強硬ペースで審議が進んでいる。そのため、行政現場の声や住民の意見を国会審議に反映させるために、党が推薦した参考人の招致もかえりみられないほか、ネットワークシステムが自治省のみならず全省庁にまたがる問題であるにもかかわらず、総理大臣質疑も全大臣質疑も実現されていないなど、党の正当かつ良識的要求も受け入れられていない状況である。
5.現時点に至っても、ネットワークシステムの将来の姿も明確でなく、プライバシー保護法も論議が進んでいない。また、市町村と住民のものである住民基本台帳制度自体の変質、EU指令に照らして不十分なプライパシ一保護、強権的権力行政機関に情報提供の道が残されること、データマッチングやデータベース作成の禁止の保障の不十分性、オンライン禁止条例を上から解除するなどの地方自治権への侵害、役所の現場で発生するであろうさまざまな問題についての対応が不明確であること等多くの重大な問題点が残されており、審議すればするほど法案の問題点が浮き彫りになってきている有様である。
とくに省庁再編によって、自治省ではなく「内閣及び内閣総理大臣を補佐し、支援する体制を強化する役割を担うものとして設置」される総務省が所管することになるが、これは「省中の省」とされる、巨大な国家管理行政機関によって住民基本台帳制度が所管されることを意味する。このことは、当初の住民基本台帳ネットワークシステムの性格の重大な変更であり、本法案の提出の前提自体が崩れ去ったといわざるえない。
しかも法案自体の内容及び法案によってなされることに対する国民の理解が十分得られているとはいえず、逆に不安・心配の声が日々高まってきている。
6.社民党は、本法案の態度を決するに当たって、(1)全国民的番号付与の市民的利益・社会的利益との比較衡量、(2)国民の理解度、(3)市民の選択権・自己情報開示請求権等の保障、(4)強権的権力行政との遮断、(5)プライバシー保護の強化と包括的個人情報保護法の実現、(6)自治省の対応状況等の5点を基準として臨んできた。現在、自民・自由・公明の三党によって「この法律の施行に当たっては、政府は、個人情報の保護に万全を期するため所要の措置を講ずるものとする」との修正案が提案され、総理・自治大臣答弁を得た上で法案の委員会採決を行うとの状況に至っている。しかし、修正内容は、「所要の措置」や「システム」の内容があいまいであり、また包括的個人情報保護法自体の内容の担保もないなど、歯止め措置として満足できる内容とはなっていない。しかも、内閣総理大臣が本改正案の施行の前提として包括的個人情報保護法の必要性を認めるのであればただちに採決するのではなく引き続き慎重に審議を続ける余裕は十分にあり、採決をいたずらに急ぐ理由はないと考える。
したがって、部分的な修正で本改正案の本質的問題がただちにただされるとは考えられないことから、社会民主党は、本改正案及び修正案に反対する。