(社会新報4月12日号1面より)
GX(グリーン・トランスフォーメーション)関連法案(メモ)の廃案を求める集会が3月28日、衆院第一議員会館で行なわれ、約150人が参加した。主催は、国際環境NGO「FoE Japan」と原子力資料情報室など。
原発推進法案の正体
最初に「FoE Japan」の満田夏花さんが、GX関連法案について「ざっくり解説」をした。
「GX推進法案」は「GX実現に向けた基本方針」に基づき、GX推進戦略の策定・実行、GX経済移行債の発行、成長志向型カーボンプライシング(炭素排出の値付け)の導入、GX推進機構の設立-ーなどを法定している。
同法案(概要)は、「今後10年間で150兆円を超える官民のGX投資が必要」とし、この間に20兆円規模のGX経済移行債を発行するとしている。
同法案の国会での審議は大詰めを迎えている。
もう一つの「GX脱炭素電源法案」は、「脱炭素電源の利用促進を図りつつ、電気の安定供給を確保するための制度整備が必要」(概要)とし、再生可能エネルギーの利用促進とともに、原発の積極活用を打ち出している。これらの法案の審議は3月30日に始まった。
満田さんは両法案について、「原発の運転期間延長や次世代革新炉の開発・建設の他、『なんちゃって脱炭素』的なものが推し進められる。これらにより、大量のカネ(血税)が流出していく」と批判した。
推進と規制の同体化
原子力資料情報室の松久保肇事務局長は、両法案の関係性をこう指摘する。
「『GX推進法案』では原発について触れず、脱炭素を進めていく、カネはここで作れる、という趣旨で書かれている。『GX脱炭素電源法案』では、原発は脱炭素のために必要な電源なので、原子力基本法を改正して国は原子力を推進すると明示している。つまり、両法案は入れ子の構造になっている」
2011年の福島第1原発事故の後、政府は「原発の新設は考えない」姿勢を示し、「将来的な脱原発」が既定路線のように振る舞ってきた。だが岸田政権になり、原発回帰路線にかじを切った。
「GX脱炭素電源法案」では、原発の停止期間の一部を除外することで60年超の運転延長を可能とし、その所管を原発推進の経済産業省としている。
松久保さんはこの件について、「原発の運転期間延長の許認可権が推進官庁にある国は、(主要21ヵ国の中で)事実上日本だけだ。この法案が成立すれば、日本は福島第1原発事故の教訓を投げ捨てるだけでなく、世界の規制基準にすら追いつかない国になってしまう」と批判した。
「原子力規制を監視する市民の会」の阪上武さんは、この運転延長問題について次のように語った。
福島原発事故の忘却
「これでは、原発の利用・推進側がいかようにもできる。『利用と規制の分離』という福島原発事故の教訓を踏みにじるものだ。老朽化が進み、動かしてはならない原発が審査にかかった時、原子力規制委員会は問題点を指摘して原子炉を止められるか。できない(だろう)」
何人かの国会議員が会場に駆けつけた。
社民党の福島みずほ党首も、運転延長問題について「すごく問題だ」とし、次のように語った。
「自民党は福島原発事故後に『原発を減らす』と言っていた。だが現在は『原発はベースロード電源だ』と言うようになった。12年前の原発事故の反省を何だと思っているのか。こんななめ切ったことをやっていたら、近未来にまた原発事故が起きるんじゃないかと心配になる」
原発攻撃リスクも
リモートで発言した原発事故被害者団体連絡会の武藤類子さんは、「GX実現に向けた基本方針」の作成過程について、次のように指摘した。
「こうした重要なことを決めるに際し、広く説明会や公聴会も開かず、議論しないまま決めてしまった。民主主義を決定的に蔑(ないがし)ろにしている。福島原発事故の反省から学び取ってきたものを12年でいとも簡単に捨て去るとは、事故の犠牲を踏みにじるに等しい」
原水禁の井上年弘さんは、安全保障面から次のように語った。
「今回のロシアによるウクライナへの軍事侵攻によって、原発が『人質』になり、それが新たな標的になることが明らかになった。日本では日本海側に多くの原発が建ち並んでいる。そんな中で、敵基地攻撃能力の保有を振りかざしている。だが、(敵国から)反撃されたら、原発は安全なのか? 守れるのか? そうした根本的な議論が欠けている。GX関連法の前に、積み残した問題がたくさんある」
メモ【GX(グリーン・トランスフォーメーション)関連法案】今年2月10日に閣議決定された「GX実現に向けた基本方針」に基づき、政府は「GX推進法案」と「GX脱炭素電源法案」を今国会に提出した。
「基本方針」では、エネルギー安定供給と脱炭素社会を目指すとし、次世代革新炉への建て替えを含めて原発の積極活用を強調している。
「GX推進法案」では、GX推進のための機構・制度づくりを定めている。
「GX脱炭素電源法案」は、原子力基本法の改正など5つの「束ね法案」。「脱炭素」のために、原発の60年超運転延長を含む「原子力の活用」を具体化した。
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