2023年6月29日
社会民主党幹事長 服部良一
第211回国会は国会解散がないまま6月21日閉会した。この国会は日本の戦後の平和政策・エネルギー政策上、極めて重大で許しがたい転換点となった国会として歴史に刻まれるであろう。閉会して1週間が経過したが、あらためて今国会の問題を指摘しておきたい。
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今国会の最大の課題は、昨年12月閣議決定された安保三文書に基づき、今後5年間の防衛費43兆円の是非や中身に対してどこまで肉薄した国会論戦が出来、反対運動を盛り上げることが出来るかであった。この予算規模は2027年日本が世界第3位の軍事大国になるもので、およそ非武装を謳う憲法理念から逸脱し、専守防衛もかなぐり捨てるものである。しかしウクライナ戦争の影響もあるのか、ある程度の防衛予算の増額や軍事力増強、敵基地攻撃能力の保持はやむをえないという世論や、それに一部野党が同調し大きな反対運動の盛り上がりもなく予算が成立してしまった。防衛予算は昨年比26.4%増の6兆7880億円、それとは別途に防衛力強化資金として次年度以降のための積立予算を3兆3806億円計上した。合計すると防衛予算の総額は実に10兆1686億円となった。
一方で、食料安定供給のための予算、中小企業対策費は減額、文教科学費も前年比わずか0.5%増。本来生活や福祉に使うべき予算が将来に渡り低減されていくのは明らかである。
関連法案では「防衛産業基盤強化法案」が自民・公明・立憲・維新・国民の賛成多数で可決された。立憲民主党が賛成し立憲・社民会派内で対応がわかれ、社民党は反対の立場で本会議の採決を退席して抗議した。防衛産業の国有化を可能とし武器の海外輸出に助成金を出して促進、守秘義務に刑事罰を適用し企業版秘密保護法となるなど明らかに平和憲法の理念からは大きく逸脱している法律である。
「防衛力強化財源確保法」は国有財産売却益や外為特会の切り崩し、医療の積立金などをプールする防衛費の貯金箱で、「単年度主義」に反し財政民主主義を踏みにじるものだ。財源が不明だと言うことで野党全体が反対し、衆議院では財務金融委員長解任決議・財務大臣への不信任決議案を提出して対抗した。しかし参議院の採決では本会議の採決の後に内閣不信任案決議を出すなど極めて緊張感を欠いた対応となったのは残念だ。
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「GX脱炭素電源法案」は原発政策の大転換となる法案で、自民・公明・維新・国民の賛成多数で可決された。この法案は原子力基本法、原子炉等規制法、電気事業法など5つの改正案の束ね法案で、極めて問題なのは原発の運転期間延長の法律の所管を原子力規制庁から経産省の所管に移し、かつ停止した期間を運転期間から除外し60年越えの稼働を可能としたことである。また原発の新増設、次世代型原子炉の開発にも踏み込もうとしている。
いまだ「3・11」は終わっていない。廃炉作業はまさに暗中模索で、30年の完了計画など事実上破綻している。いまだ福島県を初め全国に避難している数万人の住民がいる。我々はいかに自然の驚異が人間の技術や英知をいとも簡単に乗り越えていくのか思い知ったのではなかったか。「3・11」からまだ12年しか経たないのに、何事もなかったかの如く原発推進に舵を切り、挙句の果てに漁協の反対と近隣アジア諸国や南太平洋諸国の反対や懸念を押し切って大量の放射能汚染水の海洋放出を強行しようとしている。この暴挙を許す訳にはいかない。
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「入管難民法改正案」は自民・公明・維新・国民の賛成多数で採決され成立した。難民の受け入れが極端に少ないわが国で、3回目の難民申請中で強制送還を可能とするなどの難民追放の法案であり、人権無視も甚だしい。
社民党はじめ野党4党1会派は対案の議員立法を共同提出した。入管行政と難民問題とを分け、難民認定の審査に第三者機関が関与・決定する独立した「難民等保護委員会」を新たに設置することとしたが廃案となった。国会前および全国各地でも当事者を初め市民運動は大きく盛り上がったが、成立を許してしまった。
- 「マイナンバー法改正案」は自民・公明・維新・国民の賛成多数で可決され、24年秋に健康保険証を廃止しマイナーカードに一本化することとなった。ところが別人の情報が紐づけられた誤登録がなんと7300件以上も明らかになり、こうした誤登録は障がい者手帳や年金記録でも発見され、信頼性が大きく揺らいだ。マイナンバーカードの返納運動も始まる事態に、岸田政権も総点検本部を立ち上げ対応に焦っており、政権支持率の大きな低下を招いている。保険証廃止に反対する声も聴かず、あまりにも拙速・安直な進め方に国民の怒りが噴出している。
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相次ぐ同性婚訴訟で違憲判決が出る中、自公の議員立法「LGBTQ理解増進法案」は、「性自認」を「性同一性」に置き換え「差別は許されない」を「不当な差別は」とした曖昧なものであり、社民党など三党は2021年与党も含めた議連の合意案を対抗議員法案として提出した。結果与党が維新・国民との修正協議をほぼ丸のみする形で修正案が可決された。
しかし当事者からは法の目的が骨抜きになるとの批判の声が高まっている。「全ての国民が安心して生活できるよう留意する」などの規定が入り、多数派が認める範囲でのマイノリテイの人権なのかなどの批判が沸き起こっており、当事者の声を聴いた法律とは言い難い。
「理解増進法」ではなく「差別増進法」となったと言われるゆえんである。
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憲法審査会は衆院ではこの間「緊急事態条項」の論点整理が行われ、緊急時の議員任期延長規定などが議論されてきた。一方参院側では「参院の緊急集会」の位置づけをめぐっても議論されてきたが慎重論も多く、衆参での温度差の違いが際立っている。岸田首相は「任期中に国民投票まで実施して憲法改正を実現する」と繰り返し発言し、来年の通常国会での国民投票を目論む動きもあったが、自民党からは24年の岸田総裁任期までの改憲にはこだわらない旨の発言も飛び出している。
ただ、自衛隊が敵基地攻撃能力を持つ違憲状態が日常化する中で、今後憲法を実態に合わせようという逆転の9条改憲論議が企てられる危険性もあるので、要注意だ。
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岸田首相は少子化対策として「こども未来戦略」を発表したが、その財源が全く不透明である。防衛費増額を優先し、子育て政策など私たちの暮らしに関わる財源が見通せない。
児童手当の拡充や保育士の配置基準の見直しなど3年間3.5兆円の「加速化プラン」が発表されたが、そもそもその政策が本当に少子化対策に有効なのかもわからない上、消費税など増税論は政権の本音を隠して封印、社会保険料から捻出する案も迷走し財源への説明がないまま、結局掛け声倒れとなっている。
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今国会は、岸田首相自身が解散風を吹かせ、衆議院を解散するか否かで揺れ続けた。6月15日、岸田首相は今国会での法案成立が見通し立つと会期内解散を見送ることを表明した。広島G7サミット効果も長続きせず、公明党との確執に加え支持率が軒並み下がったことによると言われる。解散権を乱用し国会や国民、メディアなどを弄んだ結果となり、言語道断である。今後は来年9月の総裁任期を睨み解散時期を探ると思われるが、漂流することも考えられる。
ただ今後最短で秋の臨時国会冒頭解散もあり得る。来年は防衛増税を避けて通れず年内選挙が本音だろう。9月インドでのG20や国連総会などの外交での出番に加え、内閣改造で支持率を上げ解散に打って出る戦略とも言われているが、マイナーカードの混乱は政権に大きなダメージを与えている。一方で岸田首相が水面下で拉致問題の解決と政権浮揚のため9月訪朝の準備にとりかかっているとの憶測もあり、今後の動向を注意深く見ていかなければならない。
社民党は次期衆院選の勝利に向けて最短今秋10月末選挙の可能性を前提に全力で選挙準備を進めている。21年の総選挙、22年の参院選と少しずつ積み上げてきた成果をさらに確固たるものにするためにも、必ず衆院選に勝利していく決意である。
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