社会新報

白石孝さんが訴える~共通番号と健康保険証の一体化強行に反対

しらいし・たかし 1950年生まれ。プライバシー・アクション代表。NPO法人官製ワーキングプア研究会理事長、NPO法人日本ラオス子どもの未来理事長、荒川区職労顧問。共同テーブル発起人。住基ネットなどに反対する全国運動を展開。

 

(社会新報8月15日号2面より)

 

 共通番号カードと健康保険証の一体化に反対する理由について、市民団体「プライバシー・アクション」代表の白石孝さんに寄稿していただいた。
                                       ◇
 「反対する理由」は2つ。ひとつは法制度の矛盾やほころびをそのままに、政府が開き直ってカード全員取得方針を進めていることだ。法制度と現実の乖離(かいり)は政権政策の自己矛盾を露呈している。
 もうひとつは、日常生活に必須の医療を「人質」に取るような非人道的政策だからだ。健康保険に加え、携帯電話や預貯金口座へ拡大していこうとしている。
 共通番号は住民登録者全員対象に強制付番するが、「カード」は申請による任意取得。同法の第16条の2で「政令で定めるところにより、住民基本台帳に記録されている者の申請に基づき、個人番号カードを作成する」(要旨)と定められている。

カード交付の経過

   任意のカードを使用する各種サービスは、あくまで任意使用の範囲にとどめるべきだ。
 カード交付数の経過をたどることで政府の策謀が明らかになる。まずは直近の状況から。2024年7月14日段階の有効申請受付数(累計)は1億182万7826枚、23年年1月1日の住基人口1億2541万6877人に対する割合は約81.2%。交付枚数(累計)1億23万5533枚、約79.9%。保有数は6月30日時点で9278万4654人、約74.0%となっている。使用できる状態というのが「保有」なので、カード使用の状態にない住民登録者がまだ約3263万人いることになる。
 交付開始から1年2ヵ月後の17年3月の交付数は約1000万枚で8.4%。20%台(2610万5646枚)になったのが20年10月だ。この前月に上限金額5000円のマイナポイント第1弾が始まった。実施6か月後の21年3月が3344万3334枚の26.3%で、5000円の効果は約700万人とみられる。
 上限2万円のマイナポイント第2弾は22年6月30日に始まり、申込期限は最終的に23年9月末までだった。
 21年5月が3812万9334枚で30%台に乗り、22年1月に40%台、同年10月に50%、23年1月に60%台、同年6月に70%台、マイナポイント終了時は72.5%で、2万円効果は、約3800万枚、27%となっている。
 第2弾は、カードの新規取得、健康保険証としての登録、公金受取口座の登録の3点セットに加え、自治体の上乗せ事業なども加わり、第1弾に比べ一定の成果を上げた。投入した経費は、第1弾2979億円、第2弾1兆8134億円、総額2兆1000億円に達した。「無駄遣い」との声はかき消されたのだろうか。

残りの3000万人への脅し

   23年5月から、総務省はカード枚数に「保有数」を加えて公表するようになった。申請・交付数だけだと、申請したが受領していないとか、死亡、国外移住、国内転出後の手続きがされない場合など、実際には使用できる状況ではないこともあり、「保有」を基本にするようになった。
 マイナポイント第2弾で健康保険証を要件の一つにしたが、それをさらに「マイナ保険証」として強化することにした。しかし「国民皆保険制度」に無理やりカードを合体させるのは根本矛盾だ。それなのに今年12月には従来の保険証が廃止される。
 協会けんぽは、そのサイトで「従来の健康保険証は12月2日に廃止されますが、現在の保険証は、退職等で資格喪失にならない限り、25年12月1日まで使用」できると記載している。従来の保険証発行は、11月末までで終わる。私は国民健康保険だが、有効期限は「25年8月7日」となっているので、そこまでは使える。それ以降は「マイナンバーカードを持っていない、または保険証利用登録をしていない方は、保険者から交付される資格確認書を提示すれば、マイナ保険証のメリットはありませんが、これまで通りの保険診療を受けることができます」(協会けんぽ)。
 さらにこう続く。
 「新規取得者(24年12月2日以降)資格確認書は、資格取得届等に資格確認書希望有無欄を設けるほか、マイナ保険証をお持ちでない方に職権でも発行します。ただし、発行にはお時間がかかります。特に職権での発行には2ヵ月お待たせすることもございますので、マイナ保険証をご利用いただくようお願いします。/既存加入者 25年9月以降、保険者が必要と判断した場合(※)に資格確認書を発行します。 ※マイナ保険証をお持ちでない方、マイナンバーが未登録の方などに発行します。資格確認書のイメージについて、材質・サイズ・形状は健康保険証と同様(プラスティック製・カード型)。有効期間は4~5年」
 はて! マイナ保険証は「義務」ではないと言いつつ、取得への道に巧妙に誘導しているのだ。

携帯電話取得にも

   6月18日、政府の犯罪対策閣僚会議が「本人確認の実効性の確保に向けた取組み」として、「携帯電話等の契約時の本人確認についてマイナンバーカード等を活用した電子的な確認方法へ原則一本化」や「預貯金口座の不正利用防止対策の強化等」などを決めた。
 携帯電話の「非対面」契約では、運転免許証の画像送信は廃止し、原則としてマイナンバーカードに一本化する方針を示したが、実施時期は未確定。
 マイナ保険証強行への怒りは全国に拡がっている。だが、真綿で首を締めるような陰湿なやり方を覆すには、まだまだ力が弱い。

 
 (メモ)【マイナンバー制度】「マイナンバー法」の正式名称は「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」で、私たちは「共通番号法」と呼んできたが、社会的には「マイナンバー法」という呼び名が定着している。当初、民主党政権がマニフェストで、番号制度の導入を掲げて法案化し、第2次安倍政権の2013年通常国会で可決、成立。15年10月に個人番号と法人番号が付番され、16年1月から本格実施、カードの交付も始まった。

マイナ保険証を利用するための読み取り機。(PIXTA)