(社会新報9月12日号1面より)
学術・研究に対する国家の統制・圧力が強まる中、8月28日、日本弁護士連合会主催のシンポジウム「日本学術会議の危機を問う」が東京・霞が関の弁護士会館で行なわれた。
会場参加は約70人、オンライン参加は約220人。
目障りな6人を排除
2020年10月、菅義偉首相は日本学術会議(メモ)が改選会員として推薦した105人のうち6人について、理由を示さずに任命を拒否した。こうした事例はこれまでになかった。
この6人(肩書は当時)は、岡田正則さん(早稲田大学教授/行政法学)、小澤隆一さん(東京慈恵会医科大学教授/憲法学)、加藤陽子さん(東京大学教授/日本近現代史)、松宮孝明さん(立命館大学教授/刑事法学)、芦名定道さん(京都大学教授/キリスト教思想)、宇野重規さん(東京大学教授/政治思想史・政治哲学)。
いずれも、安保関連法・特定秘密保護法・共謀罪法などに批判的な言動をした学者だ。
戦争準備と学術支配
シンポではまず、東京大学教授の隠岐さや香さん(科学史・科学技術論)が基調講演を行なった。
隠岐さんは、日本学術会議の前身だった学術研究会議の歴史から学ぶ必要性を強調した。
同研究会議は日中戦争が進んだ1939年ごろから「国策のための学術」を求める強い圧力にさらされた。それでも抵抗を続けたが、改組を強いられて独立性を失い、戦争協力せざるを得なくなったという。
隠岐さんは、近年の政府による日本学術会議への介入圧力を前にして、「(戦中の)歴史的経緯を重視してほしい」と訴えた。
東京大学名誉教授の小森田秋夫さん(比較法学・ロシア法・東欧法)も基調講演を行なった。
小森田さんは、「6人の任命拒否」までの流れを人事介入の第1段階とし、第2段階として「組織の独立性」を逆手にとって学術会議の法人化をもくろんでいる、と強調した。
その上で、「政府は経済安全保障というかけ声の下で、科学技術を防衛力強化のために民間と大学が一体となった形で進めようとしている」と指摘した。
続いて、パネルディスカッションが行なわれた。
最初に、「任命拒否」対象者のうち欠席者2人のビデオメッセージが流された。
日米同盟と国策の学術
芦名さんは「軍事研究に反対する学術会議自体がターゲットであり、『任命拒否』から『国とは別法人』という流れが当初からあったのでは」と指摘した。
宇野さんは「政治が学術に介入し、学術を統治の対象と見なす状況が強まっている」と懸念を示した。
他の「拒否」対象者4人に加え、隠岐さんと小森田さんも討議に参加した。コーディネーターは日弁連の福田護弁護士が務めた。
松宮さんは、政府の狙いについて、「日本と同盟関係にある『ある国』に忖度(そんたく)・従属する人たちと権力が欲しい、または維持したい人たちとの共同作業の一つが、学術会議へのさまざまな試みなのだろう」と指摘した。
学術の自治こそ必要
政府主導の学術と産業界の融合について、岡田さんは「よく『国からカネを貰ってるから言うことを聞け』と言われるが、それでは学術の本来の役割が果たせない。自治の下でこそ学術は発展する」と訴えた。
加藤さんは、日本学術会議が「学者の国会だ」と言われることを取り上げ、「行政の行ないをチェックするという意味であり、国民の負託を受けて行政を制御できる機関ということだ」と指摘した。
小澤さんは、内閣府原子力委員会からの「高レベル放射性廃棄物の処分」に関する審議依頼に基づき、学術会議の連携会員として関わった回答作成について、「政府の転倒した手続きを指摘した上で、抜本的な再構築を提案した」として、独立の重要性を語った。
メモ 【日本学術会議】1949年に発足した科学者組織。首相の所轄の下で政府から独立して職務を行なう「特別の機関」。主な役割は、政府に対する政策提言や科学者間のネットワーク構築など。
210人の会員の他、約2000人の連携会員で構成。会員の半数は3年ごとに入れ替わり、任期は6年。