社会新報

【主張】石破首相の所信表明演説 ~ 石橋湛山が泣いている 改革に本気度なし

(社会新報12月12日号3面より)

 

 羊頭狗肉の内容だった。石破茂首相が11月29日、臨時国会で総選挙後初の所信表明演説を行なった。
 「おのおのの立場を明らかにしつつ、力を合わせることについては相互に協力を惜しまず」
 冒頭で1957年2月の石橋湛山首相の施政方針演説の一節を引用した上で、野党の意見も丁寧に聞いて「可能な限り幅広い合意形成」を目指すと強調した。
 湛山は戦前、『東洋経済新報』の記者時代に、領土拡大や軍備増強を掲げる「大日本主義」を批判し、平和外交や自由貿易を中心とする「小日本主義」を唱えた。リベラルな論客として名高い。
 その湛山の言葉とは裏腹に、石破内閣の政策協議のやり方は、とても「可能な限り幅広い合意形成」とは言えない。少数与党の自公が国民民主党との数合わせを優先している。国民民主党が求めた課税最低限である「103万円の壁」の引き上げとガソリン減税の検討について、合意文書をそのまま演説に盛り込んだに等しい。
 内政・外政の懸案に対する明確な政策がほとんど見当たらない。
 まず、「政治とカネ」の問題ではどうか。首相は総選挙結果を「国民からの叱責(しっせき)」と受け止め、政治資金規正法の再改正について、年内に結論を出す必要があると語った。しかし、その中身は、政策活動費の廃止や第三者機関の設置などにとどまり、社民党など野党側が求める企業・団体献金や政治資金パーティーの廃止には一切触れなかった。社民党の福島みずほ党首も11月29日の会見で「もっと改革に踏み込め」と厳しく批判した。
 外交問題では、トランプ政権の返り咲きによって世界情勢のさらなる混迷が想定される中、日本は独自の平和外交の構想を何ら示していない。しかも、日本被団協のノーベル平和賞受賞に一言も触れていない。受賞を好機ととらえ、唯一の戦争被爆国・日本が世界平和のリード役であるべきなのに、主体的な外交姿勢が見られない。
 経済政策では、賃上げと投資がけん引する成長という前政権の方針を引き継いだにすぎず、「日本の活力を取り戻す」としたが、人口減少への抜本的政策を打ち出せず、地方創生の交付金倍増でお茶を濁した。
 このように失われた政治への信頼を取り戻そうとする本気度が感じられない。
 石橋湛山が草葉の陰で泣いているに違いない。