(社会新報2021年4月21日号3面《主張》より)
「JRで車いすは乗車拒否されました」というタイトルのブログが炎上した。
書いたのは、社民党常任幹事でありコラムニストの伊是名夏子さんだ。4月初旬、子どもと介助者ら計5人で、熱海へ1泊2日の旅行に出かけた時、JR小田原駅で来宮駅での下車を希望していることを伝えると、「来宮駅は階段しかないので、ご案内できません」と乗車拒否された経緯をブログに書いたところ、ネット上では賛否が分かれ、伊是名さんに対する誹謗(ひぼう)中傷や差別的なコメントがあふれた。彼女が社民党の常任幹事であることから、党本部にも批判の電話やメールが相次いだ。
「やり方(訴え方)が間違っている」「結果的に到着できたのだから乗車拒否ではない」「なぜ事前連絡をしなかったのか」「駅員への感謝の言葉がない」「わがまま」「100kgもの電動車いすを運ばせて駅員への労働過重だ」といった批判が相次いだ。2017年にも、車いすに乗った男性がバニラ・エアに搭乗を拒否され、自力でタラップをよじ登った出来事があったが、その時も批判の声が障害者に向けられた。なぜ、繰り返されるのだろうか。
障害のない私たちが想定することもない乗車拒否。私たちがする必要のない事前連絡。私たちがしなくてもよい駅員との交渉。私たちが求められることもない丁重な姿勢や感謝の言葉。私たちがおびえることのない誹謗中傷、そして差別。まずは健常者がこの「特権」を自覚することなしに、差別解消は進まない。
駅員の労働過重という意見に対しては、障害者を非難するよりも企業に対し要望を上げよう、労働者の安全衛生を確保するためにも人員を増やし、エレベーターを設置して障害者差別解消法を履行しようと、現場の労働者からJR東日本に要求を上げてほしい。来宮駅は15年から無人駅になった。JR東日本の大幅な人員削減の中で無人化された駅の一つだろう。公共交通を民営化して本当に良かったのかという、国鉄分割民営化の是非にもつながっている。少子高齢化の中、人口が減り、過疎化が進む中、無人駅は全体の5割。人々の移動の権利をどう守るかは全国的な課題だ。
今は障害がなくても、年を取れば身体が不自由になる。誰でも障害者になる可能性がある。伊是名さんが上げた声は、全ての人たちが移動の自由をあきらめないための重要な問題提起だ。