(社会新報2021年4月28日号3面より)
政府は13日、東京電力福島第1原発の汚染水について、これまでの漁業関係者の努力や「関係者の理解なしに海へ放出はしない」との約束をほごにし、海への放出を閣議決定した。
政府が決定した基本方針では「処理水に含まれる濃度を国の基準の40分の1未満まで薄めて処分する」、海洋放出を「国内で実績があり、海の放射能汚染の状況を監視できる」とした。
全国漁業協同組合連合会(全漁連)の岸宏会長は13日、海洋放出を「福島県のみならず全国の漁業者の思いを踏みにじる行為」と厳しく批判する声明を公表し、同日、関係閣僚に抗議文を送った。
東京電力は、10年前の原発事故後にも高濃度の汚染水を海に流し、福島県の漁業者をはじめ、周辺県の漁業者らを風評被害で苦しめてきた。
2013年9月には、国際オリンピック委員会総会で安倍前首相は福島第1原発の状況について「アンダーコントロール」(制御下にある)と虚言を世界に発信し、名ばかりの「復興五輪」を政治利用してきた。
福島の漁業者はこの10年間、さまざまな困難を乗り越え、再出発を決意したばかり。魚の放射性物質を検査する試験操業を終え、4月から本格操業が始まった矢先の「汚染水の放出」に対し、怒り心頭だ。
漁業関係者の声聞く
閣議決定した13日、記者は浪江町の請戸(うけど)港などを訪れた。
同港では、東日本大震災の大津波により585戸が壊滅。184人が亡くなった。今も堤防のかさ上げや区画整備工事が続いている。シケで漁に出られぬ漁師が、「雨が降ってこないうちに」と忙しそうにヒラメ漁の網の手入れをしていた。
漁協関係者に海洋放出について聞くと「漁協では個人の取材には何もしゃべらないように言われている」と口を閉ざした。
富岡町富岡港の漁業関係者(40代男性)は「全国・県の会長も放出には反対。漁民の反対で海洋放出ができないのではない。漁民に責任を転嫁しないでほしい。一日も早く原発を廃炉してほしい」と不安の声。
いわき市久之浜港の漁業関係者(60代男性)は「原発から30km圏内の漁師には生活保障があるが、隣の四倉港では保障がない。風評被害はどこでもみな同じだ」と憤る。
東電の小早川智明社長は、16日、風評被害に対して期間や地域、業種を限定せずに賠償に応じる姿勢を指名したが、漁民や住民の不安・怒りは収まらない。実際の海洋放出は2年後の23年。放出を終えるまでには30~40年はかかる。
請戸港で網の手入れをする漁師(13日)
永遠でない閣議決定
閣議決定の13日、官邸前で「さようなら原発1000万人アクション」が抗議行動を展開。「汚染水を海に捨てるな」との横断幕を掲げ、320人が怒りの声を上げた。呼びかけ人でルポライターの鎌田慧さんは「大量の核汚染水を太平洋に流す。これ以上の環境破壊はない」と菅政権を批判した上で「閣議決定は永遠ではない。政府が変われば原発政策も変わる。あきらめない」と訴えた。
訴える鎌田慧さん(左から2人目)=13日、官邸前