(社会新報2021年5月12日号5面より)
数々の反憲法的な悪法を制定し、改憲策動をやめず、立憲主義に反する手法を駆使してきた7年8ヵ月の安倍政権は、戦後最低最悪の反憲法最長政権だった。特に第1次安倍政権誕生後は96条改正先行論を唱え(2012年)、17年5月3日には9条「加憲」論を表明し、これを受けて自民党は18年に条文形式の4項目改憲案をまとめた。
この17年発言の締めの言葉は、「憲法改正に向けて、ともに頑張りましょう」だった。国務大臣や国会議員などには憲法99条で憲法尊重擁護義務が定められているというのに。憲法についても「みっともない憲法」とまで言っていた。やはり安倍前首相は、タカ派政治家として最大の目標が改憲であり、自分の手で改憲をしたかったのであろう。
改憲に向け動き続く
これに対して菅首相はどうか。安倍前首相のような「思想」性は感じられないし、「政治家になる」「権力を握る」のが目的化した政治家にも見える。とはいえ、安倍政権の「継承」をうたっている。また、暫定政権との見方もあるかもしれないが、政治家である以上、自身は長期政権を考えているだろう。そうであれば、党内タカ派の支持も必要。
具体的に見てみよう。昨年9月に、タカ派の衛藤征士郎氏が自民党憲法改正推進本部長に就任。衛藤氏は1ヵ月後の10月に、「年末までに改憲原案を策定して憲法審査会に届けたい」とも言った。この衛藤氏が4月に安倍前首相を同本部の最高顧問にする。党内では衛藤氏の「暴走」に批判的な声もあるが、改憲に向けた体制ができてきている。
一方の菅首相は、1月の施政方針演説で、「憲法は、国の礎であり、そのあるべき姿を最終的に決めるのは、主権者である国民の皆様です」と言った。これまでさんざん「憲法は、国の理想を語るもの」と言ってきた安倍前首相に比べると、大人しい表現ではある(憲法は国家権力制限規範であって、国の理想を語るものでは全くない)。
とはいえ、菅首相は同じく施政方針演説で、「与野党の枠を超えて憲法審査会の場で議論を深め、国民的な議論につなげていくことを期待します」とも言っている。実際に、4月15日(今国会初)と22日の衆議院憲法審査会では、与党などが公職選挙法並びの憲法改正手続法改正案の採決を求めた。改正案成立後に改憲案の議論をしたいのである。
ここで簡単に、同改正案の問題点を指摘しておきたい。公選法並びだからいいだろうというのが与党などの主張であるが、期日前投票時間と繰延投票期日の短縮は投票環境の後退を招くもので、通常の選挙と憲法改正に際しての国民投票では同一に扱えない。
また、そもそも憲法改正手続法に問題がある。公務員・教員の地位を利用した運動規制(これらに対する規制となる)や投票14日前からの勧誘広告放送の制限(それ以前は財界等資金力のある改憲勢力が自由に宣伝でき、資金力のない市民・市民団体などは不利である)などは見直すべきで、制定・改正時の多くの附帯決議が解決していない。
昨年の新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、緊急事態条項の改憲の必要性が自民党から出てきたが、自民党はとにかくどこからでも改憲の議論を始め、改憲をしたいのである。また、日本維新の会はともかく、国民民主党までが憲法改正手続法改正や改憲の議論に前向きなのは残念である。「立憲的改憲論」を言っても、結果的に憲法改悪になるだけだ。
立憲野党の踏ん張り
しかし、そもそもこのコロナ禍、急いで改憲の必要はない。いま集中して取り組むべきことは、コロナ対策である。
仮に憲法審査会で議論するとしても、憲法審査会は「日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制について広範かつ総合的に調査を行(なう)」組織でもあるのだから、憲法の観点から戦争法などについて議論すべき。
この間、立憲野党はよく踏ん張った。憲法改正手続法改正案を8国会で成立させなかったからである。国会外でも、労組と市民の取り組みによって改憲は望まないという世論をつくり、憲法改正のための国民投票に持ち込んでも改憲は困難であるという意識を改憲勢力に持たせた。今後も労組と市民と野党の共闘が維持・発展できれば、改憲は阻止できる。