社会新報

原発めぐり忖度か、抑圧か〜福井農林高の演劇「明日のハナコ」問題〜

(『社会新報』2021年12月15日号3面より)

福井県高校演劇祭(9月18日~20日)で福井農林高校演劇部が上演した「明日のハナコ」(作・玉村徹)の取り扱いが波紋を広げている。同演劇祭での上演作品は12月に福井ケーブルテレビ(CATV)で放送されるのが恒例だが、「差別用語が含まれている」ことを理由に同作のみ放送しない見通しだ。さらに、映像記録の閲覧を禁止し、DVDなどは作成せず、本作が集録された脚本集は回収されるなど、異例の措置が執られている。

 「明日のハナコ」は終始2人の女子高生の会話で構成され、1948年の福井地震から原発の誘致、東日本大震災と福島第1原発事故までの70年弱を懸命に生きた、ある夫婦のミクロな戦後史が織り込まれている。原発に対して批判的な立場を取りつつも「脅威としての原発」と「生業としての原発」との間での葛藤という原発立地自治体の住民のリアルな心情描写が特徴だ。問題とされたのは引用した元敦賀市長の発言に含まれる「カタワ」(脚本ではカタカナ表記)という差別語。脚本では「カタワ」という差別語を含む市長の発言全体にカッコを付け、差別発言を批判的文脈で引用しており、作者の玉村さんには差別的意図はもちろんなく、「異例の措置」に値するような問題ではないことは、複数の弁護士が指摘している。

 ではなぜ、同作は消されようとしているのか。演劇部顧問らで組織する県高校文化連盟(高文連)演劇部会並びに県高校演劇連盟(高演連)とCATVの主張が食い違う。

 高文連・高演連側はCATVからの懸念表明を受けて対応を協議し、一度はCATVの意向に委ねることにした後に「差別用語は使用するだけで駄目」などのスクールロイヤーの意見を踏まえて措置決定をしたとしている。他方、CATV側は高文連・高演連から放送しないよう要請があったとしている。原発をめぐる言論に関わり忖度(そんたく)があったのか、抑圧があったのか。いずれにせよ表現の自由の侵害だ。

 現在、玉村さんは地元住民らと上演実行委員会を結成し、措置の撤回などを求める署名活動を展開し、1万筆を超える賛同が集まっている。また、12日(日)、19日(日)のフェニックス・プラザ(福井市)をはじめ、各地でリーディング上演が企画されている。「明日のハナコ」を明日につないでいこう。

 

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