社会新報

アベノマスクはムダノマスクー543億円を浪費し8000万枚を廃棄処分ー

(社会新報2022年1月19日号1面より)

 品質基準なし、仕様書なしの言い値で随意契約440億円。未配布8000万枚の布マスクの保管に6億円。こんな失政の損失を責任者に償わせる「国民訴訟」制度の導入が急がれる。
アベノマスクはムダノマスク

 会計検査院の検査報告が昨年11月、内閣に提出された。そこでは、543億円もの予算を使った布マスクの全国配布事業、いわゆる「アベノマスク」事業が失敗であったことが明確に指摘されている。

「いい値」で随意契約

 マスク不足を解消するという安倍政権の触れ込みで2020年3月に突如開始され、同年6月までの3ヵ月間で厚労省を中心に続々とマスク調達契約が結ばれた。興和、伊藤忠商事、マツオコーポレーションなど17社32件計約440億円。すべて会計法の特例である緊急随意契約だ。
 郵送や印刷物作成、包装、コールセンターなどの契約が計約98億円。しめて543億円だ。
 布マスクはベトナムや中国からの輸入だった。契約先には、財政難に陥り社長宅が競売にかかっていた実績不明の零細企業ユースビオ(契約金額は親族会社分を含めて約31億円)もあった。
 こうして調達したマスクの枚数はざっと3億2000万枚に上る。コロナウイルス感染予防の効果について疑問が指摘されるガーゼマスクだった。
 調達単価は1枚当たり約140円。大半が契約相手方からの見積書の額と同額をそのまま予定価格にしていた。
 また、契約に際しては仕様書を作成していなかった。納入業者に対して、▽再利用可能な布製マスクでガーゼ等の素材でできたもの▽顔との隙間をふさぎ、くしゃみやせきによる飛沫(ひまつ)を防ぐ構造のもの▽ホルムアルデヒドが検出基準の75ppm以下のもの  と口頭などで伝えたにすぎない。
 品質基準も明確にしていなかった。「布製マスクを早急に調達する必要があったことから、最低限、健康に支障が生じ得る基準のみを順守することを求めた」というのが厚労省の説明だ。
 この点について、検査院は次のように指摘している。
 「緊急時であっても、全国マスク工業会が制定している基準を準用するなどして品質基準を明確に定めた仕様書を作成する必要がある」
 さらには、興和との一部契約では、不良品があっても責任を追及しない旨の記載が入れられていた。

仕様書も基準もなし

 
仕様書もなし、基準もなしの言い値、おまけに不良品があっても責任追及なし。そんなお人好しの契約をした結果、惨憺(さんたん)たる状況がもたらされる。
 変色、汚れ、虫や毛髪の混入、異臭などの不良品が見つかった  そんな報告が全国の自治体から相次ぐ。報告によれば、50万枚の1割以上に当たる6万枚に不良があったという。
 国は配布を中断し、回収と検品に取り組む。しかし、その経費の出所は、またもや税金だった。株式会社宮岡社に検品業務を7億円で発注する。そればかりか、20年5月以降の契約では、業者(興和、伊藤忠を除く)から宮岡に検品を発注させ、その費用10億円をマスク代金に上乗せして国が肩代わりした。
 こうして行なった大規模な検品作業で、大量の不良マスクが見つかる。厚労省分では7000万枚のうち1000万枚(15%)。文科省分では83万枚のうち18万枚(22%)を数えた。
 結局、政府は発案から半年足らず後の2020年7月で布マスクの全戸配付を中止する。それに伴い、8000万枚以上が在庫となる。そして保管料が、やはり税金から払われる。日本郵便に毎月9500万~9300万円。途中から安価な佐川急便(月額約2000万円)に切り替えるものの、20年8月から21年3月までの7ヵ月で保管料は6億円に達した。
 でたらめという他に言葉が見当たらない税金の垂れ流しである。岸田内閣は未配布のマスク8000万枚を廃棄する考えを示したが、廃棄費用が何千万円もかかるとも伝えられる。
 失政の尻拭いを税金でやるとは、まさに盗人に追い銭の図である。仮にアベノマスクのような問題が地方自治体で起きたならば、住民監査請求や住民訴訟によって損害賠償が求められるだろう。ところが政府が使った税金については住民監査請求のような制度がなく、納税者が異議申し立てをすることはできない。

国民訴訟制度導入を

 日弁連が住民監査請求・住民訴訟の国政版の制度に当たる「国民訴訟」の導入を提言して久しい。国の税金の使途などについて、納税者が直接会計検査院に対して「違法・不当なマスク関連支出を国庫に返還させよ」などと検査請求をする制度だ。請求があれば会計検査院は検査を行なう。検査結果に不服があれば裁判所に訴訟を起こす。「税金を取り戻す」国民訴訟制度の導入を図る好機ではないか。

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